特集 水銀汚染—水俣病よりグローバルな環境問題へ
カナダにおける水銀汚染—史的一考察
Richard Scott
1
,
多田羅 浩三
1
1大阪大学医学部公衆衛生学教室
pp.325-329
発行日 1995年5月15日
Published Date 1995/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901258
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はじめに
水銀汚染は一般に,歯科領域(例えば,水銀を含むアマルガムの問題),職業上における危険物として,あるいはハイリスクグループとして認定されている住民に関連して,重要な意味を持っていると思われる.本稿では,とくに一般の人たちの関心の強い,第三の点について述べることとする.最初の二つの問題については,主として専門の雑誌において議論されているが,住民の水銀汚染の問題は,いくつかの政府の調査委員会,市販の書籍,テレビやラジオのドキュメンタリー番組,また疫学研究においても取り上げられてきた.
筆者が水銀中毒の問題に関心を持つようになったのは,1990年に,モントリオールから北に1500km,ジェイムス湾に面した人口約3千人の谷合の小さなクリー族の人たちの村,チサシビで医師として仕事をするようになった時のことである.モントリオールにいる頃,この地域がラジオやテレビ,あるいは新聞の記事で何度も,ジェイムス湾の水力発電所貯水池のメチル水銀の汚染によって毒されているということを聞いていた1).
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