特集 健康問題の解決のための経済学—ナッジ等の可能性を探る
扉
「公衆衛生」編集委員会
pp.791
発行日 2021年12月15日
Published Date 2021/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209743
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
日本人の主要な死亡原因は,喫煙,飲酒,アンバランスな食事や運動不足など人々の生活習慣と行動に根差したものとなっています.こうしたことから,特定健診やがん検診など疾病の早期発見に向けた行動を一層高めることが課題となっています.健康問題は個人の問題でありますが,自治体には,住民が健康づくりを行うために環境を整え,支えることが求められています.そのためには,住民の健康意識を高め,住民に健康づくりに向けた行動を取ってもらう必要があります.しかし,住民は,必ずしも健康に良い行動を取ってくれるとは限りません.そうした中,住民に無意識的に健康づくりに向けた行動を取ってもらうために注目されているのが「ナッジ理論」です.
ナッジ理論は,米国のリチャード・セイラー氏が確立したものです.セイラー氏は,ナッジ理論により2017年にノーベル経済学賞を受賞しました.理論の特徴については詳しくは本特集をご覧いただければと思いますが,わが国でもこの理論に基づき,厚生労働省が健康診断やがん検診の受診率を向上させる施策を推奨しているほか,環境省も低炭素社会に向け,国民一人一人の行動変容を促そうとしています.人間は「変化を好まない」「ついつい先延ばしする」「周囲の目が気になる」などの特性を持ち,常に合理的な行動をするとは限りません.人々に対する働き掛け方,呼び掛け方,さらに情報の提供の仕方などを工夫することで,強制しなくてもそっと後押しする(nudge;肘でつつく)だけで,人々はより良い選択をすることが明らかにされています.
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.