特集 COVID-19が流行しない社会を目指す—社会医学・環境衛生学の視点から
扉
「公衆衛生」編集委員会
pp.363
発行日 2021年6月15日
Published Date 2021/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209635
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19世紀のコレラの世界的な流行は公衆衛生の成立に大きな影響を与えていますが,公衆衛生だけでなく微生物学,免疫学,薬学を大きく発展させることにつながりました.それまで,医学と言えば解剖学,生理学,病理学の総称でしたが,コレラ以降,微生物学,免疫学,薬学,そして生命科学へと変貌しています.現在,医薬品を手にし,微生物を遺伝子や蛋白質のレベルで解明できる時代になっています.そして天然痘の根絶に成功しています.ところが,その後登場してきた後天性免疫不全症候群(HIV感染症),エボラ出血熱,腸管出血性大腸菌感染症,ノロウイルス感染症,重症急性呼吸器症候群(SARS)などに対しては必ずしも適切に対処できているとは言えません.生物学的に微生物を解明してもまた新たな微生物が登場するという厳しい現実に直面させられています.
そのためWHOは国際保健規則を全面改正しています.日本は感染症の法制度を刷新し,さらに毎年改正を続けています.感染症に対処するための社会システムや制度の構築に力を注ぐ必要性が高まっています.しかし,現在流行しているCOVID-19に医学や法制度だけで十分な対応ができているとは言えません.実際に行われている手段や対策は,医学や医療が未発達でありCOVID-19のような感染症に対処できない時代につくられた古典的なものが多くを占めています.例えば,衛生行政や検疫システム,飲食店の取り締まり対策はかつてのコレラ対策をきっかけにつくられたものです.また,日本の保健所体制は結核の流行に対処するためにつくられたものです.
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