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はじめに
筆者は,東日本大震災発災の翌年に,科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency;JST)によって採択されたプロジェクトの一員として,主に避難をしている住民の心のケアに携わってきた.3年間のプロジェクト終了後も,飯舘村の健康づくりアドバイザーとして中長期的な支援に関わり,これまで,①心理士として個別相談の実施,②研究者として健診データの解析・健康増進計画の策定,③コミュニケーターとして放射線と健康に関する情報の発信を行ってきた.
本稿を執筆する現在で震災から5年10カ月が経つが,飯舘村はいまだ全村避難が続いている.2017(平成29)年3月末に,村の一部の帰還困難区域を除く大部分の行政区での避難指示が解除される予定であるが,「農業ができるのはまだまだ先で,生活の見通しがつかない」「森林も含めると生活圏内の除染は終わっていない」「介護などの心配があり,年寄りだけでは生活ができない」など,先行き不安・不信の声が聞こえてくることも少なくない.なかには,避難先の新天地で新たな生活を始める人,村で長期宿泊を始めて生活再建を進める人,そして,いまだ判断がつかず仮設住宅で過ごす人など,村民の復興のプロセスは多様化している.あらためて「避難指示をどう解除するか」「行政と住民を含めたステークホルダー間で,どのようにコンセンサスを形成していくか」「村民一人一人の生活を再建するために研究者は何ができるか」という大きな課題に直面しているところである.
本稿では,震災後の復興期における住民と村行政,そして研究者をつなぐ役割を担ってきた立場として,これまで行ってきた公衆衛生活動の成功点と改善点を検討していきたい.
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