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5月31日〜6月5日まで,韓国にて,第31回国際産業衛生学会(ICOH)が開催されました(http://www.icoh2015.org/).アジア開催は日本(1969年)に次いで2度目,折しもMERS騒動の最中でしたが参加は3200人を超え,産業医学発祥の地で開催されたミラノ大会(2006年)を上回る参加人数となりました.テーマは“Global Harmony for Occupational Health:Bridge the World”.グローバル化が進む中,産業保健分野では健康格差の拡大,労働者の高齢化,社会心理ストレスの増大など,国際的に共通する多くの課題があります.本学会では,国際的な議論と良好実践の共有から,これらに橋を架けすべての働く人に産業保健サービスを届けたいという思いが込められているのでしょう.初日のオープニングセレモニーでは,理事長の小木和孝先生のopening remarkからはじまり,WHO(世界保健機構),ILO(国際労働機関),IEA(人間工学国際連盟),IOHA(国際衛生管理者連盟),ISSA(国際社会保障協会)などの関係機関から次々にお祝いの言葉や謝辞が述べられました.会期中のプログラムは,午前に基調講演と,コーヒーブレイクを挟んでさらに複数の準基調講演が続きました.午後はミニシンポジウム,口演,科学分科会ミーティングなどが目白押しで,夕方のSocial Programも充実していました.
今回印象的だったのは,以前までと比べて明らかにヘルスプロモーション系のセッションが多かったことです.9年前の2006年のミラノ大会(100周年記念)では,ヘルスプロモーションに関する基調講演は1つでしたが,今回は少なくとも3つの基調講演と5つの準基調講演が直接・間接的に職域ヘルスプロモーションをテーマにしたものでした.Dr.Ivan Ivanov(WHO)は初日のオープニングセレモニーで,オーストラリアの労働者の96%が何らかのNCD(生活習慣病)を持ち,フィリピンの労働者では高血圧が2番目の医学的課題であると述べ,働く人の健康を守る場としての職域の重要性を強調しました.2日目,Dr.Shyam Pingle(IBM,インド)は,“Achieving Occupational Health through Workplace Wellness”の中で,産業保健のターゲットは,職業病から人の疾病と健康へ影響する職業そのものへと変わりつつあるとし,経済的には中国やインドの成長含め,アジアのプレゼンスが増していることを示しました.「20歳代はお金がない,40歳代は時間がない,60歳代は健康がない」と世代別の支援の必要性についても触れ,健康と生産性の両立は可能であると述べました.日本のTHPもそうですが,健康増進の取り組みは一部の恵まれた企業にのみ可能であることも珍しくありません.途上国の参加者からは,予算が限られている場合の方策についての質問もありました.
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