随想 明日を担う公衆衛生
パリンドローム
古川 元
1
1堺病院
pp.422-423
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203298
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1.
防疫所の仕事も大切だが,これからの公衆衛生活動こそ広く奥深い。この保健所は小さく狭くかつ薄暗い。あなたが所長をしておられる市立防疫所と大した差もないが……19年前の薄ら寒い冬のある日,着任早々の私は大いなる夢を描いて猛烈に張りきっていた。暗く汚れたうなぎの寝床のような細長い所長室で100Wの電熱器に小手をかざしながら,たて続けにまくし立てる相手の男,豊中市立防疫所長は色が浅黒く眼光鋭い中に学問の固まりといった秀才型で,真一文字に結んだ下唇が特に印象的だった。これで2回目の話合い,懇願というか,くどきというかとにかく私は強引に公衆衛生という名のもとに彼の転身を迫った。それから1週間後,彼の決意を知ると間発を入れず,豊中市長,府衛生部長,副知事,阪大微研の故谷口教授等の諒解と協力を求めてかけまわった。1カ月後,豊中市吏員から大阪府吏員・二級技官・豊中保健所普及課長として発令された。彼の計画性の緻密さ,正確さはまったく噂以上であり,府衛生部はもちろん他部の部課長なども彼を讃え賞めちぎった。やがて小さく狭く薄汚れた保健所は,大きく明るい保健所となり大阪府唯一の標準保健所としての基礎ができた。
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