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はじめに
労働安全衛生統計は,労働災害・職業性疾病の現状把握と分析に,またその予防のための労働条件・職場環境の改善に重要な役割を果たしている.労働災害と職業性疾病は,どの産業でも多数報告されていて,過重労働による健康問題,職場間の大きな格差とともに,社会全体で取り組む大きな課題となっている.公表されている休業4日以上の死傷病についても,国際的に見て改善を要する水準にあり,職業病の過少報告も各国に共通した切実な問題として重視される.
ILO(国際労働機関,International Labour Organization)は,2002年に労働災害と職業病の記録と届出に関する議定書と勧告を採択し,労働災害・職業病の届出・集計の改善を各国に呼びかけている1).ILOによる今年の労働安全衛生世界デー(4月28日)のテーマは「職業病の予防」で,実態の把握と予防対策の強化を緊急の課題としてあらためて提唱している2).ILOは,年間32万人が労働災害で死亡し,202万人が職業病で死亡していると推定している.国別の労働災害・職業病統計には工業国を含めて差が大きいが,工業国の死亡災害については,ILO推計値がほぼ公表件数と見合っている.しかし,労働災害,職業病の発生状況については,国による差が依然として大きく,日本の現状についても,統計の取り方の再検討,予防に結びつく分析の改善が必要と指摘されている.
わが国には,労働災害の総発生件数として公表されているデータは存在していない.公表されている休業4日以上の労働災害,職業病についても,集計方法による差があり,休業4日未満については十分把握され公表されているとはいい難い段階にある.したがって,把握されている統計値の分析・利用にも制約があり,集計・分析の在り方と有効な予防対策に結びつく利用について,国際動向も参照しながら再検討していく必要がある.とりわけ,休業4日未満の労働災害および職業病を含めた集計システムの再整備,職業病統計における過少報告の改善,有効な予防対策の計画・実施に役立つ統計・調査の拡充を進めていくことが重要な課題となっている.
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