特集 医療安全のさらなる推進に向けて
「医療版失敗学」のすすめ―インシデントから学び,真の医療安全にトライする
濱口 哲也
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1東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻社会連携講座
pp.548-552
発行日 2013年7月15日
Published Date 2013/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102786
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はじめに
医療界や産業界の多くのインシデント・アクシデントレポートを分析してきた結果,次のことがはっきりいえる.人間は誰でも他人が経験した失敗と同じ失敗を犯す動物である.さらに,過去と同じか,似たような形で次の失敗が起こる.業界,職種,機器,作業などによって,あるいは文化や技術の成熟度によって最終的な失敗の結果や事象が異なるので気付いていないだけで,実は失敗の本質は同じであることが多い.そうであるなら,われわれは他人や過去の失敗に学ぶべきである.そのためには,インシデント・アクシデントレポート(以下,レポート)は組織の宝でなければならない.失敗の最終結果事象だけに着目するのではなく,失敗の本質に着目してレポートを有効活用すべきである.
ところが医療機関で書かれているレポートの中には,事実や経緯だけに終始し,「マニュアル通りに行動するよう厳重注意,周知徹底」といった根性論的な対策や,「配薬ミスが増えています」といった最終結果事象への注意喚起だけにとどまっているものが少なくない.“再発防止”を行うには,真の原因を究明し,そこに根本対策を施さなければならない.さらには,これまで経験していないが今後起こるかもしれない新しい失敗を防止するという「未然防止」を行うには,「今回の失敗を未然防止に応用しよう」という考えが必要である.
本稿では,レポートを再発防止と未然防止に有効活用する方法を述べる.まず,未然防止に役に立たない典型的なレポートを紹介し,その後役に立てるためのエッセンス①と②を説明する.
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