沈思黙考
人権意識の高まりと訴訟社会
林 謙治
1
1国立保健医療科学院
pp.804
発行日 2012年10月15日
Published Date 2012/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102569
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若いときは元気印の妻も寄る年波に勝てず体調を崩しがちで,昨年は老妻に同伴して大学病院を受診した.待合室に順番を待っているときに診療ブースの中から怒声が響き,どうやら患者が医師の診療方針に不満のようであった.そのときは偶然の出来事かと思ったが,数か月後再び同病院を訪れた際にまた,別人らしい人の怒鳴り声が聞こえた.昔から医師に対する患者の不満はあっただろうが,ことの良し悪しは別として,大学病院の診療室でのあからさまの言い争いはあまり記憶がない.
最近研究の関係で,別の大学病院の外来診療を数回見学させていただく機会を得た.複数の教育スタッフとともに数名の研修生が診療にあたっているが,印象的だったのは診療側と患者の間ばかりでなく,教育スタッフと研修生の間,あるいは教育スタッフ同士のコミュニケーションはいたって静かで,そばにいてもよく聞き取れず,思わず身を乗り出すほどであった.医療側は患者への診療態度ばかりでなく,スタッフの間でも気を遣っていることがよく伝わり,大学病院と言えどもかつての権威主義的な態度はすっかり影をひそめ,きわめて民主的な運営がなされているように見える.一方,女性の研修生の一人は見るから明るい性格で,なんらわる気もなさそうであるが,丸いすに胡坐をかいて座り,指導教官の説明に聞き入っている.立って説明する指導教官はそれでも穏やかに懇切丁寧に教えている.こうした光景は私にとってやはり驚きであり,もはや浦島太郎になってしまった心地がした.
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