書評
医の倫理と人権―共に生きる社会へ
中根 晃
1
1横浜市西部地域療育センター児童精神科
pp.215
発行日 2006年2月15日
Published Date 2006/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100219
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元厚生省公衆衛生局長で,退官後は公衆衛生審議会会長他を歴任され,現在国際医療福祉大学総長の大谷藤郎先生が医の倫理と人権は一体であるとの信念から,らい予防法廃止までのいきさつと精神保健法の改正に至る経過を貫く,病者の人権の尊重を力説されているのが本書である。日本では基本的人権を遵守する姿勢が不十分で,弱い立場の人に対する人権侵害への認識に欠けていた結果,長い間,ハンセン病患者や精神障害者に対する人権侵害が見逃されてきた。さらに,幼児,高齢者の虐待や女性の問題はそれらの人の人権の軽視から来ているとする。
昭和59(1984)年に精神保健法の改正のきっかけとなった宇都宮事件が起こった。この時,ジュネーブから実態調査に来た人権団体の報告書では,日本の精神衛生法をはじめとする精神衛生制度は先進国では考えられない人権侵害の制度で,家族の同意で入院させるのは患者に対する人権侵害にあたり,ほとんどの患者を強制入院させているとされた。そこで,国連人権委員会の差別と少数者保護のための小委員会に出席を求められた厚生省の精神衛生課長が,国連人権小委員会で世界の人権の趣旨に沿って法律を改めることを日本政府の代表として明言した。これと並行して,精神障害者が地域での自立のための社会復帰と支援体制を明文化する画期的な精神保健法が策定されたと述べている。
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