特集 睡眠と健康
睡眠研究の進歩
井上 昌次郎
1
1東京医科歯科大学
pp.751-754
発行日 2011年10月15日
Published Date 2011/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102227
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なぜ最近になって睡眠研究は進歩したのか
「睡眠とは何か」という問題は,有史以来人々の大きな関心のひとつであった.それはまた,生命そのものを問うことでもあり,さらには死について洞察することでもあった.睡眠にまつわる夢をどのように解釈するかという議論もそうであった.こうして,睡眠や夢は古くから神話,宗教,政治,文芸の研究対象になっており,世界各地でそれぞれの文化を背景にしてさまざまに取り扱われてきた.不眠や眠気に関連するいわゆる睡眠障害も,医療の立場から重要な研究対象であった.つまり,睡眠研究はその原点からすでに,あらゆる社会とあらゆる学芸にかかわる総合的な学問の性質を持っていたのである1).
とはいえ,「睡眠とは,生とは,死とは,夢とは,睡眠障害とは,このようなものである」という説明に対して,たといそれがその時代の最先端を行く権威あるものであったとしても,人々は納得したためしがない.なぜなら,自然哲学ないし自然科学の無力さから,これらの問題については,いつの時代も不完全な認識しか得られなかったからである.睡眠研究の進歩を阻んだ大きな理由は,再現性・客観性を証明する方法論がなかったことである2).
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