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Ⅰ.はじめに;身体拘束の現状とその課題
日本における高齢化の進展とともに,高齢者が医療やケアを必要とする機会が増加している.
急性期病院においては,患者の生命を守るために,緊急やむを得ない身体拘束が行われる場合がある.高齢者が入院すると,せん妄状態になりやすく,せん妄状態により転倒・転落やルート類の自己抜去などが生じることがある.疾患によっては,転倒・転落やルート類の自己抜去により,高齢者の生命が脅かされる場合があり,高齢者の生命を守るために緊急やむを得ず,身体拘束が実施されるのである.しかし,生命を守るための身体拘束だとしても,身体拘束の実施は,高齢者に対し全人的苦痛(身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛)を与え,人権にかかわることであり,身体拘束を最小化する取り組みが重要である.
全人的苦痛とは,以下のような苦痛である.身体的苦痛としては,拘束具による皮膚の摩擦や圧迫が痛みや不快感を引き起こし,長期的には筋力低下や関節の硬直,さらには廃用症候群をもたらす.次に,精神的苦痛としては,拘束されることで患者は強い不安や恐怖を感じ,とくに認知症患者は混乱しやすく,抑うつや無力感が生じやすい.社会的苦痛は,拘束により他者との交流が制限され,孤立感が強まることから生じる.また,家族にも心理的な負担を与える.スピリチュアルな苦痛としては,拘束されることで自分の存在意義や人生の価値を見失う患者もおり,これが精神的な苦悩を深める要因となる.
医療施設に勤務していると,全人的苦痛に対し,感度が低くなることがある.そのため,常に意識することは身体拘束が必要な患者がいた場合には,カンファレンスのなかで,患者の全人的苦痛を考え,改善することが重要である.
2024年度の診療報酬改定では,すべての医療機関において,「身体的拘束を最小化する取組の強化」が原則とされた.
上記のように,急性期病院では,緊急やむを得ず,高齢者の生命を守ための身体拘束がある.身体拘束を実施する前に,医療従事者は身体拘束の例外3要件(緊急性・非代替性・一時性)に該当するかどうかを検討している.「身体的拘束の最小化」というと,医療従事者は,身体拘束を「するか」「しないか」の二者択一で考える傾向がある.まずは,「緊急やむを得ない場合に該当していない,不必要な身体拘束をしていないかどうか」「身体拘束開始になったからといって,漫然と継続していないか」を見直すことから始めたい.
私たち医療従事者が高齢者の側にいるときには身体拘束は不要であり,解除することができる.身体拘束を解除したときの高齢者の様子はどうだろうか.高齢者の様子を診療録に記載しておくことにより,多職種と情報共有ができ,解除時間帯を設定するなど,解除に向けた取り組みを実践することができる.
身体拘束を解除したら事故が起きるのではないかと,万が一の事故を考える前に,多職種チームで身体拘束解除に向けた実践に取り組んでいきたい.
今回の診療報酬改定において,「身体的拘束の最小化」が入院基本料の施設基準に加わったことは,看護師だけが取り組むのではなく,病院全体で取り組むことというメッセージが込められており,医師を含め,多職種チームでの取り組みが期待されていると考える.
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