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I.緒言
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:以下,CKDと略す)は,全世界的に患者数が増加しており,わが国においても約2,000万人がCKD患者に相当し,成人の5人に1人がCKDであると言われている(日本腎臓学会,2024).すなわち,CKDは国民病の代表的な疾患の一つと言える.一般的にCKDは慢性的な進行を辿るが,自覚症状に乏しく,患者がその進行に気づきにくいため,医療者による長期間の疾患管理,療養支援が重要となる.CKDステージG3b以降は,糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate:以下,GFRと略す)の低下速度が加速し,末期腎不全(End Stage Kidney Disease:以下,ESKDと略す)や心血管イベントの発症率も上昇するため,さらに集学的な疾患管理が求められる.CKD疾患管理は,単一的ではなく包括的な管理の重要性が示されており,腎臓専門医による治療とともに,栄養指導・身体活動指導・服薬指導・血圧/体重などの自己測定,症状モニタリングなどの生活管理・自己管理の推奨や,ESKDに至った際に必要となる腎代替療法(Renal Replacement Therapy:以下,RRTと略す)の情報提供などが求められる(Murphy et al., 2008).そのため,適切な段階を見極め多職種が連携して関わっていく必要がある.CKD診療ガイドライン2023(日本腎臓学会,2023)においても,多職種による生活習慣に関する教育的介入により,腎機能低下抑制効果や心血管イベント発生減少をもたらす可能性が報告されている.さらに,Abeら(2023)の報告でも,多職種によるチームが保存期CKD患者に介入することにより,推算糸球体濾過量(estimated GFR:以下,eGFRと略す)低下速度が有意に低下したことが明らかにされており,2024年の診療報酬改定では,慢性腎臓病透析予防指導管理料(厚生労働省保険局医療課,2024)が新設され,保存期CKD患者の療養管理に対して医師・看護師または保健師・管理栄養士の3者が必ず介入することで算定できるようになった.
以上のように,CKD診療において,生活習慣改善を基盤とした患者自身の生活管理・自己管理が必要不可欠であり,患者教育を含む看護師の介入は重要な意味を持つ(佐藤・中村,2014:Theeranut et al., 2021).2012年に算定が可能となった糖尿病透析予防指導管理料では,糖尿病患者に対して透析予防診療チーム等,多職種連携による教育,介入が算定基準となっている.この効果について,柴山ら(2016)は,2016年に全国472施設に勤務する糖尿病看護認定看護師と慢性疾患看護専門看護師224名を対象に,糖尿病腎症患者への療養指導状況と糖尿病透析予防指導管理料の算定が及ぼす影響について実態調査を行った.その結果,73.2%が同管理料を算定しており,この算定に有意に関連した項目は「自身の腎症の理解を促す指導」と「腎症の状態に応じた療養指導」の実施であった.Inoら(2021)はCKDステージG3以上の糖尿病患者48名を対象とし,腎臓内科医,医療教育者として看護師,管理栄養士,薬剤師で集学的治療を2か月ごとに1年間実施する介入研究を行い,集学的治療群では,腎イベント〔クレアチニン倍増,RRTの開始,または末期CKDによる死亡〕の発生が対象群と比較して有意に低いことを報告した.またAbeら(2023)は,CKDステージG3-5の糖尿病性腎症を含むCKD患者3,015名の日本人を対象とした多施設共同研究において,CKDを多職種で診療することでeGFRの低下速度が下がったことから,糖尿病性腎症のみならず他のCKD原疾患にも多職種介入が有効であることを示唆した.
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