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Key Questions
Q1:刑務所等における作業療法士の役割や存在意義は?
Q2:拘禁刑下における作業療法とは?
Q3:医療作業療法士と矯正作業療法士の共通点とは?
はじめに
筆者は,2024年(令和6年)4月に東京矯正管区(現在の関東矯正管区)に作業療法士として初めて配属されて以来,執筆時の2025年(令和7年)7月現在まで,矯正施設(刑務所,少年院等)における作業療法に関連する全国的な体制整備を目指して,沖縄から北海道まで広範囲にわたって以下の3つの主要業務に取り組んでいる.
1)作業療法関連の処遇・教育に関するスーパーバイズ
2)作業療法関連の処遇・教育の調査および取りまとめ
3)矯正施設に勤務する作業療法士向けの研修・意見交換会の企画立案
これらの業務を通じて,本稿では刑務所で働く作業療法士に焦点を当て,苦悩しながらも「刑務所の作業療法士」のあり方を確立しようと挑戦する姿を,現場の実践報告を中心に紹介する.
医療における「作業療法」は,その定義や目標が明確であり,運用規定も具体化されている.少なくとも大きな方向性として,対象者の生活課題解決や社会復帰を目指して日々の臨床が実践されている.日本の医療・福祉機関の9割は民間組織であるため,法令を遵守しつつ,所属組織の医療経済的な経営判断のもとで作業療法を提供していることだろう.筆者もそうであったように,医療福祉領域の作業療法士は個別化と合理化が対立し葛藤が生じる中,対象者の生活課題解決や社会復帰という目標に向かって努力を続けているものと思う.
一方,刑務所の作業療法士は,介入する刑務作業や教育プログラムの単体の目的や規定は明示されているものの,全体的な指針や専門職としてのアイデンティティを裏づける明確な定義はまだ存在しない.「矯正(刑務所,少年院等)における作業療法士のあり方」とは何か,その具体的な方向性が示されない中,対象者支援での自身の役割を臨床の中で自らつくり上げるという,黎明期特有の課題に直面している.刑務所等における作業療法士の役割や存在意義とは何か,新たな分野の確立に向けて,現場の実践を通じて模索しているところである.本特集では,こうした未来を見据えた個々の前向きな取り組みや苦悩を,現場の実践報告を通じて伝えていく.
なお,本稿における意見の部分については,当方の私見であることを申し添える.

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