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はじめに
現代医学における研究の多くは,いわゆる「観察研究」に分類されるとされている1).観察研究とは,研究者が介入することなく,実際の医療現場や地域社会などにおける人々の健康状態や行動,環境因子などを追跡・記録し,特定の疾患の発症や予後との関連を分析する研究手法である.特にこの観察研究は,「疫学」と呼ばれる学問領域において広く活用されている.疫学は,人間集団を対象として疾患や障害の発生頻度や分布を記述し,これらの健康アウトカムに影響を与える要因を科学的に明らかにすることを目的とする医学の一分野である2).近年では,観察研究の妥当性を高めるために,統計学や情報科学,行動科学との連携も進んでおり,介入研究に匹敵するエビデンスを生み出すための新たな方法論が提案されている3).
理学療法士が関与する対象者の多くは,脳卒中,整形外科疾患,慢性疼痛,呼吸器疾患,あるいはフレイルなどの慢性疾患を抱えており,その症状や障害は個別性が高く,経過も長期にわたることが多い.このような背景から,理学療法の介入効果を評価するには,単なる短期的な変化だけでなく,中長期的な機能回復や生活の質の向上といった多面的なアウトカムを対象とする必要がある.
しかしながら,これらの対象集団に対してランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)を実施することは,必ずしも容易ではない.その理由として,薬物治療のRCTにおいてもしばしば指摘される,「5 toos」と呼ばれる問題が挙げられる.すなわち,① 症例数が少ない(too few),② 介入や対象が単純化されすぎている(too simple),③ 併存疾患が多い患者は除外(too median-aged),④ 認知症などの患者は除外(too narrow),⑤ 追跡期間が短く長期的な効果を評価できない(too brief)という制約である4)(図1).
理学療法の現場では,むしろ複雑な併存疾患や高齢者,多様な生活背景をもつ患者が中心であり,このような5 toosの条件に当てはまらない「現実の患者群」を対象とする必要がある.そのため,観察研究に基づくリアルワールドデータを活用したエビデンス創出が,理学療法における臨床判断の実践的な根拠としてますます重要となっている.
本稿では,疫学の基本的な考え方や方法論を整理するとともに,理学療法領域における臨床実践とどのように接続されるのか,すなわち臨床疫学としての応用に焦点を当てて論じる.

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