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はじめに
圧迫性頸髄症(cervical compressive myelopathy:CCM)は,頸椎症や頸椎後縦靭帯骨化症に起因する,非常に一般的な神経疾患である.CCMは脊髄の圧迫により,四肢のしびれや手指の巧緻運動障害,歩行障害など多様な症状を引き起こし,生活の質(quality of life:QOL)の低下を招く.進行は緩徐ではあるが進行性であり,自然経過では3〜6年で20〜62%の症例が悪化すると報告されている10).中等症〜重症のCCM患者に対しては,手術療法が神経機能の改善に有効であることが示されており,治療の第一選択として広く受け入れられている3,19).
しかし,軽症CCMに対する治療方針については,いまだに一定の見解が得られていない.臨床現場では,頸椎牽引や装具療法,薬物療法などの保存的治療がまず選択されることが多いが,これらの治療が症状の改善や進行抑制に有効であるという明確なエビデンスは乏しい13).一方で,CCMは術前の症状が重度であるほど術後に神経学的障害が残存しやすいことが知られており2,11,18,20),この点から神経学的後遺症を最小限に抑えるには,早期の外科的介入が望ましいと考えられる.総じて,軽症CCMに対する治療は「神経機能の維持」の観点から早期手術の有用性が示唆される一方で,その有効性を裏づける確立された治療指針やコンセンサスが存在しないというジレンマを抱えている.
近年,軽症CCMに対しても手術を推奨する報告が散見されるが,具体的な手術効果に関する報告は依然として少ない.中等症〜重症例では日常生活に障害を有しているため,神経機能の回復が手術の主要目的となる.一方,軽症例では日常生活に支障がないことも多く,手術効果における関心は「軽微な自覚症状が術後にどう変化するか」に集約される.すなわち,軽症CCM患者に対する手術が「自覚症状の改善」を目的とするのか,それとも「病状の進行を予防する」ためのものであるのかという視点は,臨床上での治療方針の決定においてきわめて重要である.
以上のような背景から,本研究では軽症CCM患者に対する手術成績を,minimum clinically important difference(MCID)の概念を用いて検討した4).

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