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はじめに
障害があることで社会参加の機会が閉ざされているのであれば,そうした状況は改善されるべきである.日本では車椅子を利用する人も含めて,障害のある人の科学技術分野への参加の割合はとても少ない.STEM〔Science(科学),Technology(技術),Engineering(工学),Mathematics(数学)〕分野への参加にはジェンダー・人種などの偏りがあり,多くのマイノリティが存在しているが,なかでも障害のある人の参加については,文化的な障壁に加えて,教育や就労環境の物理的な障壁が存在する.
世界の事例を調査すると,特に米国を中心に,STEM分野で活躍する障害者が数多く存在している.例えば米国では,2019年の報告書によると年間の博士号取得者42,980名のうち,視覚障害者1,300名,聴覚障害者494名,下肢・上肢障害者472名であり,障害のある人の科学研究への参加は日本に比べて格段に進んでいるといえる1).また米国では,障害のある人の社会参加にかかわる制度的・文化的な環境について,日本にはない特長がある.大学では多様性宣言のもとに,障害者を含む多様性の文化が奨励され,また多くの学協会では,障害のある人の参加を促す組織が存在し,障害のある人の参加を奨励する指針が発表されている.障害のあるアメリカ人法(American with Disability Act:ADA)に基づき,すべての大学で障害者が使うことができる設備が少なくとも一つ用意され,またこの法律に準拠して実験室什器が一般の理化学機器メーカーにより販売されている.
日本の障害学生支援は福祉政策の文脈で行われる一方,米国では科学技術の国際競争力を高める戦略として,障害者を含めたマイノリティの参加を支援している2).本稿では,障害のある人の参加について,最も体系的な取り組みが行われている分野として米国の医学教育の事例をとりあげる.

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