連載 Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年
第二十七編
石川 信克
1,2
1公益財団法人結核予防会
2結核予防会結核研究所
pp.822-827
発行日 2025年9月15日
Published Date 2025/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890090822
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世界戦略の持つ力
古知氏がWHO結核課長(後に部長)として、世界戦略(global strategy)を作り上げ、政治的にも、資金的にも国々を動かしてきたことはすでに述べた。国際会議でも、古知氏のDOTS(directly observed treatment, short course)戦略は、コッホの結核菌発見以降の偉大な功績であると評価され、“From Koch to Kochi(コッホからコチへ)”という演説がされたほどであった。その世界的流れの中で、バングラデシュが国として動き出したことも驚異であった。国によるDOTSが、こちらの思いを超えて、国中に拡大していく様子を見て、最初、正直言って「古知さんに負けた」とさえ思った。私は、「Go to the people」を掲げてベンガル人とともにベンガル語を駆使して小規模の民間レベルのモデルを作り、それで満足していたからだ。Go to the peopleだけではだめだ、行政的経験がほとんどなかったこともあり、世界戦略や国のトップ、そして政策を動かすことが重要だと強く意識するようになった。
「自分の役割は何なのか、Go to the peopleの役割は何か」と自問し続けた。そして、国家のプログラムの進展に伴走するために、“DOTS現場で働く人々”を集めて、問題発見や課題に迫る研究的ワークショップを開催し続けることを決めた。

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