胸部外科 75巻7号 (2022年7月発行)

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特集　ロボット支援下心臓手術の現況

特集「ロボット支援下心臓手術の現況」によせて小野　稔 75巻7号 , 2022年7月 , pp.483

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わが国におけるロボット支援下心臓手術（RACS）は，2施設での2010年からの5年間にわたる臨床試験の結果，2015年3月に薬事承認を受けるにいたった．2018年4月にはロボット支援下僧帽弁形成術が保険償還されたことが契機となり，RACSを導入する施設が現れ始めた．さらに2020年4月からは保険償還の対象となる術式が拡大し，現在にいたっている．

ロボット心臓手術関連学会協議会とロボット支援下僧帽弁形成術の現況と展望北村　惣一郎 , 渡邊　剛 , 夜久　均 , 柴田　利彦 , 塩瀬　明 , 小林　順二郎 75巻7号 , 2022年7月 , pp.484-488

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日本国内での心臓外科領域におけるロボット支援下手術の普及と発展を図るため，日本胸部外科学会，日本心臓血管外科学会，日本ロボット外科学会の3学会からなる「協議会」を設立し，薬事承認，保険収載などに努力してきた．近い将来，次世代5Gロボット技術の発達とAIとの連携によりいっそう重要な技術となりうる．心臓手術への利用の薬事承認から5年が経過したロボット支援下心臓手術の現況を報告し，若手心臓外科医の参画を期待したい．

本邦におけるロボット支援下心臓手術の創始と現況渡邊　剛 , 石川　紀彦 75巻7号 , 2022年7月 , pp.489-495

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われわれは1999年に世界に先駆けて完全内視鏡下心拍動下の冠状動脈バイパス術（coronary artery bypass grafting：CABG）を行った．これは当時の内視鏡を用いた世界初の心臓手術であった1）．その後も内視鏡を用いた新たなアプローチによる小切開CABGなどを多数報告してきた2，3）．元来，心臓手術は胸骨正中切開アプローチで心停止下に行うものが標準術式とされてきたが，1993年ころより胸骨正中切開を回避し，minimally invasive cardiac surgery（MICS）と呼ばれる，主に肋間開胸アプローチによる心内手術や，off-pump coronary artery bypass（OPCAB）として普及した心拍動下冠状動脈バイパス術という低侵襲化の流れがすすんだ．しかしいずれも直視下の手術の延長であり，われわれのように内視鏡を用いた心臓手術を行う外科医は世界でもほとんどいなかった．

ロボット支援下僧帽弁形成術を成功させるための工夫高橋　洋介 , 柴田　利彦 75巻7号 , 2022年7月 , pp.498-503

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ロボット支援下弁形成術は胸腔鏡下弁形成術として2018年4月に保険収載され，各施設で導入され，その手術件数が増加することが予測された．しかし，現時点ではいまだに一部の施設でしか施行されていない．求められる施設基準および術者基準のハードルが高いことや，ロボット支援下心臓手術を安定させるためのラーニングカーブが通常の右小開胸下低侵襲心臓手術（MICS）よりも長いためであると推測される．

低侵襲心臓手術からロボット支援下心臓手術への移行とその違い押富　隆 , 高志　賢太郎 75巻7号 , 2022年7月 , pp.504-509

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テクノロジーの発展は人類にさまざまな恩恵をもたらし，医療現場でも外科系他科において大きく開腹・開胸することは減少し，鏡視下手術は標準手段となった．心臓外科領域では鏡視下手術の割合は低く，胸骨正中切開がいまだ標準である．しかし，20年ほど前より弁膜症において胸骨を切らない低侵襲小切開手術，いわゆる低侵襲心臓手術（MICS）が導入され1，2），さらには直視下で行われてきた心臓手術において一部のパイオニアによってカメラ映像のみで手術を行う，いわゆる完全胸腔鏡下手術（eMICS）が行われるようになり3），パラダイムシフトに等しい発展をもたらした．一方，1998年にロボット支援下僧帽弁形成術（RoMVP）の報告4）後，2000年ころより増加し5），改良発達を伴って徐々に普及している．

ロボット支援下心臓手術の経験と手技の改善策宮内　忠雅 , 手取屋　岳夫 75巻7号 , 2022年7月 , pp.511-517

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da Vinciサージカルシステム（Intuitive Surgical社，Sunnyvale）によるロボット支援下心臓手術（robot-assisted cardiac surgery：RACS）は，低侵襲心臓手術（minimum invasive cardiac surgery：MICS）の一手段として注目されている．われわれは，2014年より内胸動脈（ITA）剝離を，2016年より僧帽弁および三尖弁手術，左房内血栓や粘液腫など，従来右小開胸MICSで行っていた手術を積極的にRACSで行っている．導入に先立ち複数施設で運用を調査し，実際に執刀経験を重ねるとともに当院に適合したプロクターを選択してきた．導入後は，心内操作に対して工夫を重ね［コーダライザー（住友ベークライト社，東京），COR-KNOT（LSI Solutions社，Victor），専用の長い心筋保護カニューレ，Gore-Tex糸（W.L. Gore & Associates社，Flagstaff）の多用，汎用手術台での心内脱気法］，ロボット手術が構造的に不利となる部分を除外することに努めている．本稿では，これまでの経験と失敗例から学んだ各手技の改善策を報告する．

ロボット支援下心臓手術導入後早期のラーニングカーブ北村　律 75巻7号 , 2022年7月 , pp.518-523

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僧帽弁手術において，右開胸アプローチは正中切開に比べてよい視野が得られることが多く，低侵襲心臓手術（MICS）の普及の理由の一つとなっている1）．より詳細な解剖を観察するためには高画質の内視鏡を用いるほうが有利であるが，一方で鏡視下手術においては長尺器械使用による手技の遅延，振戦などが問題となる．これらを克服するため手術支援ロボットが開発され，特に前立腺手術で長年用いられ2），近年では心臓外科手術においても使用されている3）．ロボット支援下心臓手術の普及の妨げとなる要素の一つに緩やかとされるラーニングカーブがあげられ，それについての報告は散見されるが4，5），ほとんどがハイボリュームセンターからの報告で，一般施設からの報告は少ない6）．

低侵襲化に向かう心臓手術の潮流―ロボット支援下心臓手術の現在地牛島　智基 , 園田　拓道 , 塩瀬　明 75巻7号 , 2022年7月 , pp.524-529

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外科治療は臓器・分野によらず低侵襲化の流れであり，心臓手術も例にもれず，その潮流は低侵襲化に向かっている．低侵襲心臓手術（minimally invasive cardiac surgery：MICS）はもはや特別な手術をさす用語ではなくなり，多種多様な心疾患に適応されている一手術方法として認識されるようになった．MICSの普及には，種々の器械・道具の開発，人工心肺装置の発展，診断モダリティの性能向上，そして経験の蓄積が大きく寄与し，現在の低侵襲化時代にいたる．

教育施設でのロボット支援下心臓手術の活用泉谷　裕則 75巻7号 , 2022年7月 , pp.537-542

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心臓手術の低侵襲化は1990年代から広がりをみせ，弁膜症手術を中心とした右小開胸の低侵襲心臓手術（minimally invasive cardiac surgery：MICS）が一般的になってきた．同様の低侵襲性や外科手技の面から，MICSの延長線上にあると考えられるロボット支援下心臓手術については，2018年度からロボット支援胸腔鏡下弁形成術が保険診療となった．しかし，現在までロボット心臓手術関連学会協議会の定めるロボット支援下心臓手術の認定施設は全国で25施設にとどまり，大きく広まっているとはいえない．現行のda Vinciサージカルシステム（Intutive Surgical社，Sunnyvale）を使用するうえでの施設や医療チーム体制の問題，機器の操作上の技術的な限界やスタッフの負担などがあるため，標準治療とするには決してハードルは低いとはいえない．大学病院では，このような問題や課題を理解したうえで，教育や人材育成，技術革新の面においてロボット支援下心臓手術を展開していく必要がある．さらに，ロボット支援下心臓手術が，本来の目的である患者にとって低侵襲であることを常に念頭におく必要がある．

ロボット支援下心臓手術の現況と展望吉川　泰司 75巻7号 , 2022年7月 , pp.543-550

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「ロボット」はチェコの劇作家カレル・チャペックの戯曲『R.U.R』に1920年にはじめて登場したのであるが，チェコ語で強制労働（robota）に由来する．人にかわって労働するために人の姿に模してつくられ，与えられた目的を実行する機械というのがロボットの原型であった．1985年にKwohらが産業用ロボットPuma 200（Westinghouse Electric社，Pittsburgh）を使用して脳の生体組織診断を行ったのが，医療にロボット技術が使われたはじめての例である1）．その後，1994年に内視鏡外科手術用ロボットAESOP（Computer Motion社，Santa Barbara）が開発され，販売認可が下りた最初の外科手術ロボットとなった．その後，AESOPの改良版であるZEUS（Computer Motion社）が開発されたが，後発の外科手術ロボットシステムであるda Vinci（Intuitive Surgical社，Sunnyvale）に特許において後塵を拝することになった．日本を含め新しいロボットが開発されているが，現在のところ，外科手術ロボットとしてはda Vinciの独壇場となっている．その特徴は，人の手の動きを超える7自由度をもつ精緻なアームと高解像度の3D内視鏡といった優れた機能をもっていることであり，裸眼よりも鮮明な視野と繊細な操作を可能とする．

ロボット支援下による内胸動脈剝離と冠状動脈バイパス術の実際大橋　壯樹 75巻7号 , 2022年7月 , pp.551-555

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手術支援ロボットda Vinci（Intuitive Surgical社，Sunnyvale）は本邦で2009年に医療機器として薬事承認されて以降，適応可能な領域が徐々に拡大され，2015年末には心臓手術にも薬事承認された．心臓外科では主に僧帽弁形成術において使用が拡大された．冠状動脈バイパス術（CABG）においては，僧帽弁形成術の術前準備として内胸動脈剝離が義務化されているが，それのみではなく左肋間小開胸低侵襲冠状動脈バイパス術（MICS-CABG）における内視鏡下の内胸動脈剝離のデバイスとして使用される．本稿では，da Vinciを使用したCABGについて説明する．

ロボット支援下心臓手術のstart upと成績安定化のための工夫前川　厚生 , 高木　靖 75巻7号 , 2022年7月 , pp.557-563

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手術支援ロボットda Vinciサージカルシステムは，遠隔手術用に米軍が1980年代に開発し，その後Intuitive Surgical社（Sunnyvale）に引き継がれた．2000年に胆囊摘出術が米国食品医薬品局（FDA）の認可を受け，2012年には前立腺癌手術の98％がロボット支援下手術で行われた．本邦では2009年に医療機器の使用認可を受け，2018年4月の診療報酬改定でロボット支援下弁形成術（僧帽弁・三尖弁）が保険適用となり，国内の25施設が認定施設としてロボット支援下心臓手術（＝da Vinci手術）を行っている．

市中病院でのロボット支援下僧帽弁形成術導入恒吉　裕史 , 瀬戸崎　修司 , 片山　秀幸 , 和田　拓己 , 下村　俊太郎 , 竹内　彬 75巻7号 , 2022年7月 , pp.564-568

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手術支援ロボットda Vinci（da Vinciサージカルシステム：Intuitive Surgical社，Sunnyvale）は，8 mmほどの細長いロボットアームや3Dカメラによって心臓内腔のような限られた空間でも手術操作ができ，われわれ心臓外科医にとって低侵襲心臓手術（MICS）が容易になると思われる．ただ心臓は常に動いている臓器であり，ロボットの操作には細心の注意が必要であり，ハードルも高い．

ロボット支援下心臓手術の諸考察橋本　誠 75巻7号 , 2022年7月 , pp.569-575

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ある歴史家が革命について述べた言葉を借りると，“歴史というのは時折，突然あるものの内に凝縮されることを好むものであって，そこでは既存のものと新しいものが混ざり合い絶頂に達し，世界はそれから後，このものに追従する”．時代の転換期にはこういった革命的な何かが必ず出現することが知られている．筆者は心臓外科の領域においては，ロボットテクノロジーの出現がまさにこの革命的な事柄であると考えており，今後発展していく領域と確信している．

まい・てくにっく

手縫いによる気管支断端縫合閉鎖のコツと注意点渡辺　敦 , 坪地　宏嘉 75巻7号 , 2022年7月 , pp.496-497

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気管支は肺外気管支（左右主気管支，中間幹）と肺内気管支に分類される．気管および肺外気管支では軟骨部と膜様部が存在するが，肺内気管支への移行部で膜様部は消失し，肺内気管支では板状軟骨が全周性に敷石状に存在する．

１枚のシェーマ

右上葉切除後膿胸に対する府中法を応用した根治術佐藤　伸之 75巻7号 , 2022年7月 , pp.510

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筆者は20歳台の最後を清瀬市の国立療養所東京病院（現国立病院機構東京病院）に勤務し，一般にはあまりみられない感染症に対する手術を多く経験することができた．その一つに空洞内アスペルギルス症に対する胸郭成形＋空洞切開＋筋充塡術（当時の都立府中病院にちなんで府中法と呼んでいた）がある．肋骨を十分に切除後，空洞を切開し内腔を清浄化，瘻孔に肋間筋弁を当て閉鎖する．空洞壁を十分切開して空洞内に折りたたみ，肋間筋，足りなければ広背筋などを隙間に充塡し，表面からも圧迫することで完全に空洞を閉鎖する方法である．肺切除に比べて侵襲が小さいのが利点である．

連載　世界の常識，CALSを日本へ！

第❷回　CALSのベースとなったエビデンスの解説野上　英次郎 , 蒲原　啓司 75巻7号 , 2022年7月 , pp.530-533

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2015年までの米国心臓協会（AHA）のガイドラインには，開心術後に心停止をきたした患者に関して，特化した記載はあるものの，一般的な蘇生プロトコールから大きく逸脱したものではなかった1，2）．しかし2020年版AHAのガイドラインでは一部改訂され，開心術後に関しては，「心停止」を発見しても即座に「胸骨圧迫」を行うのではなく，まず「リズム評価」を行うことが記載された．つまり開心術後の患者の心停止のうち，心室細動（VF）/心室頻拍（VT）に対しては胸骨圧迫前にすみやかに電気的除細動を，徐脈，心停止に対してはすみやかなペーシングを，「トレーニングされた」スタッフ主導で行うことをレベルⅠで推奨している．ただし，1分以内に同処置が施行できない場合は胸骨圧迫を開始するというものである3）．その根拠として，開心術後の患者は集中治療室（ICU）のような高度モニター管理下におかれているためであると，CALSは同プロトコールのベースとなる文献をもとに主張している．この「トレーニングされた」とは，Cardiac Surgical Unit-Advanced Life Support（CSU-ALS）［CALSの普及活動を行っている団体］が運営する蘇生トレーニングコースを習得することをさすと思われる．このような流れから，AHAでは2020年のガイドライン改訂で「開心術後の心停止」と「通常の心停止」との明らかな差別化を認めたと推察される．

連載　未来の専門医を育てる！

福島県立医科大学呼吸器外科での学生・若手医師への教育武藤　哲史 , 鈴木　弘行 75巻7号 , 2022年7月 , pp.534-536

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呼吸器外科は緊張感のある手術から薬物療法を組み合わせた集学的治療，さらには研究まで非常に奥深く，さまざまな探求の仕方がある領域である．また外科系診療科の中では比較的女性医師も働きやすい環境といえる．しかし学生や研修医にその魅力を理解してもらい，呼吸器外科医を増やすのは容易ではない．本稿では，本学で行っている取り組みについて紹介する．

胸部外科医の散歩道

パラダイムシフト種本　和雄 75巻7号 , 2022年7月 , pp.556

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「パラダイムシフト」は最近よく聞かれるカタカナ英語で，耳にされた方も多いのではないかと思います．その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想，社会全体の価値観などが，革命的にもしくは劇的に変化することと定義されています．

基本情報

胸部外科
75巻7号
(2022年7月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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