循環器ジャーナル 65巻2号 (2017年4月)

特集 心電図診断スキルアップ

序文 池田 隆徳
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 後期レジデントや若手循環器医にとって,心電図は日常臨床のなかで最も係わることが多い検査の一つです.しかし,医学生の頃から何度も講義や勉強会で習ったはずの心電図ですが,十分に判読できる若手医師は意外と少ないのが実情です.循環器を専門とするベテラン医師は,日々の臨床経験に基づいて,心電図所見を瞬時に理解し診療に役立たせることができますが,若手循環器医となればそうはいきません.最近は,心電図の自動解析器が一般診療においても普及しており,心電図を不得意とする医師でも心電図診断に困らなくなりました.しかし,心電図自動解析器も時として読み間違えることがありますし,「医師の確認が必要」というコメントが表示されることもよくあります.このような場合は,心電図についてある程度の知識を備えていなければ対応できません.

 企画者は,これまで心電図に関する書籍を多く手がけてきました.活用度の高い書物にするには,ターゲットにした読者の力量あるいは目線に応じた内容に組み立てることが重要です.執筆者の選定においては,普段から若い医師やナースあるいはコメディカルに心電図・不整脈をわかりやすく教えているこの領域のエキスパートにご依頼しました.読者のオーベン的な立場で,読者が知りたかったことや聞きたかったことを漏れなく執筆していただいております.また,それぞれの章のなかで内容に凹凸がないように一定の項目を設定し,それに沿って記載していただくことで理解しやすくなっています.構成としては,「Ⅰ.心電図検査の基本と活用法—活用するうえでのノウハウを知る」,「Ⅱ.心電図の読み方と見逃してはならない所見—正常と異常とを見極める」,「Ⅲ.不整脈の心電図の読み方のポイントと治療方針」,「Ⅳ.知っておくべき疾患・症候群の心電図の読み方のポイント」と,比較的オーソドックスな章立てとしました.そのなかで,見逃してはならない波形の判読のポイントや,直ちに治療する必要はない波形を見極めのコツなどを解説していただきました.古い教科書ではあまり触れられていない最近のトピックスについても随所で解説しています.まさに臨場感あふれる心電図診断の特集になったと思います.

Ⅰ.心電図検査の基本と活用法—活用するうえでのノウハウを知る

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Point

・心臓を挟んで上方にマイナス電極,下方にプラス電極を順に取り付けると心電図波形は上向きとなる.

・肢誘導のⅠ・Ⅱ・Ⅲは双極誘導でaVR,aVL,aVFは単極誘導,胸部誘導V1〜V6は単極誘導である.

・ノイズを除去しドリフトをなくすことで,きれいな心電図波形を記録することができる.

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Point

・標準12誘導心電図は日常診療のなかで,最もよく実施されている検査の一つである.

・簡便な検査であるため,循環器疾患のスクリーニングやフォローアップのために用いられる.

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Point

・ホルター心電図は12誘導心電図で記録できない不整脈や心筋虚血の診断,重症度の分類などに有用である.

・イベント心電図は発作の頻度が低い不整脈の検出に有用である.

・それぞれの検査の特徴,記録解析法,判読法を理解し,実臨床で適切に行うことが診断と治療に役立つ.

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Point

・重篤な疾患の急性期や病態によって,絶対的禁忌や相対的禁忌があり,負荷をする前に,意義付けをよく検討して行う必要がある.負荷開始後も血圧や脈拍,心電図変化や患者状態を把握し,危険な徴候がある場合には,負荷中止を迷わないようにする必要がある.

・虚血性心疾患の診断ではST低下の判定が重要である.いずれの負荷試験においても基線より0.1mV以上の水平型,下降型のST低下が虚血と判定される(負荷前よりST低下がみられる場合は0.2mV).運動負荷に偽陽性,偽陰性があることも理解しておく必要がある.

・カテーテルアブレーションの普及により,不整脈の診断,治療効果のための運動負荷試験の施行が増えている.不整脈を目的とした検査以外の通常の負荷試験においても予想外に重篤な不整脈(心室頻拍,細動)が出現することがあり,すぐに対処できる環境を整えておく必要がある.

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Point

・ループレコーダの原因不明失神の診断率は50%以上であり,有効である.

・超小型ループレコーダが使用可能となり,今後はさらに普及が期待される.

・今後は失神の精査だけでなく,心房細動治療などの効果判定などいろいろな用途での使用も期待される.

Ⅱ.心電図の読み方と見逃してはならない所見—正常と異常とを見極める

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Point

・P波幅の延長は心房内伝導遅延を反映する心房受攻性の指標の一つで,肺静脈伝導はP波終末を形成している.

・PQ間隔は房室伝導の指標で,器質的または機能的に伝導の延長や途絶がみられることがある.

・QRS波は心室内伝導時間と伝導様式を反映する心室脱分極の指標である.

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Point

・心筋虚血はST部分で評価する.

・T波は,様々な因子の影響を受ける.繰り返し心電図を取り,波形変化を追跡する.

・QT間隔の延長により,torsade de pointesが起きる.

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Point

・心電図波形の変化を認めた際には,その波形変化の成り立ちを電極の位置関係から見直し,心臓以外の情報を得ていくことも重要.

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Point

・右脚ブロック,左脚ブロックは胸部V1誘導とV6誘導で判断.

・ヘミブロックは,左脚の一部が通らない場合で,四肢誘導の電気軸で判断.

・いくつかが組み合わさると2枝/3枝ブロック.

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Point

・ペースメーカの機能とその設定モードを理解し,心電図から判読する.

・ペースメーカに伴った頻拍を念頭に置く.

・ペースメーカ不全を疑わせる心電図の特徴を理解する.

Ⅲ.不整脈の心電図の読み方のポイントと治療方針

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Point

・洞不全症候群をはじめとした不整脈診断の基本はP波を探すことである.

・認識したP波の出現様式に規則性があるか,その周期はどの程度であるか,洞性P波(洞結節起源の心房興奮により形成されるP波)であるか否かを把握する.

・次に,P波とQRS波の関連性の有無を判断し,診断につなげていく.QRS波は意識しなくても目に入ってくる.

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Point

・房室ブロックは体表面心電図で容易に診断可能である.

・房室ブロックの予後評価には,心内心電図が有用なことがある.

・完全房室ブロックであっても自覚症状を伴わないことがあり,徐脈を伴う高齢者などにおいては鑑別を要する.

・意識消失例では受診時心電図に異常がなくても間歇的に完全房室ブロックを来している例があり,ホルター心電図などによる精査が必要である.

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Point

・QRS以外の部分に着目し,細動波や粗動波らしいかどうか見ようとする.

・通常型心房粗動なら特徴的な粗動波に注目する.

・心房細動も心房粗動も,過去の病歴(手術歴)や背景疾患にまで思いを巡らせる.

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Point

・心拍数100拍/分以上の幅の狭いQRS波形の頻拍でR-R間隔が整であれば発作性上室性頻拍症の可能性が高い.

・発作性上室性頻拍症には洞性頻脈,心房頻拍,房室結節リエントリー性頻拍,WPW症候群による房室リエントリー性頻拍などが含まれ,鑑別が必要である.

・発作時の心電図でP波の有無を同定し,P波がある場合にはQRS波との位置関係を判断することが,鑑別のためのポイントである.

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Point

・ほとんどは基礎心疾患を有さないが,稀に認める急性心筋梗塞や急性心膜炎・心筋炎のサインであることもある.基礎心疾患に伴う場合,非持続性心室頻拍によりめまい,失神を呈することもある.

・まず心エコーで基礎心疾患の有無と心機能の評価を行う.ホルター心電図検査で非持続性心室頻拍の有無を評価する.

・基礎心疾患のない,2連発までの心室期外収縮は通常経過観察のみで可.

・動悸症状が強い場合や不整脈の数が多い場合は,特発性心室期外収縮でも薬物療法やカテーテルアブレーションを考慮する.

・期外収縮の12誘導波形から原因・機序・薬剤選択を類推することができる.流出路型か中隔型かの鑑別を行う.

・カテーテルアブレーションは有力な治療手段.心室頻拍でなくとも期外収縮多発の場合には適応があり,一度検討を行う.

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Point

・血行動態が不安定な心室頻拍(wide QRS頻拍)は頻拍停止処置が最優先である.

・基礎心疾患の有無で危険性は大きく異なる.

・特発性心室頻拍の代表的な波形パターンを覚える.

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Point

・torsade de pointes様の波形を呈することは時々みられる.前後の心電図でQT延長の有無をみることによって診断ができ,迅速な治療にもつながる.

・torsade de pointes,心室細動を含む心室性不整脈は血行動態が破綻した場合は細かな診断よりもまず迅速な電気的除細動が必要である.

・振れの小さな心室細動やモニター心電図の低感度設定による振幅の減少を心静止と間違えないようにする必要がある.

Ⅳ.知っておくべき疾患・症候群の心電図の読み方のポイント

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Point

・副伝導路の心室付着部位により多彩な心電図を示すが,12誘導心電図からある程度部位診断が可能である.

・その副伝導路を介する臨床的に重要な不整脈を生じるが,それらはカテーテルアブレーションで根治可能である.

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Point

・QT延長症候群には遺伝子異常が原因である先天性と電解質異常や薬剤を原因とする後天性がある.

・QT延長症候群ではQT時間の延長だけでなく,T波の形態異常を示すことが多い.

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Point

・自然発生あるいは薬物誘発性のtype 1心電図のみがBrugada症候群と診断される.

・ST上昇のtypeは日内あるいは日差変動を認め,正常化することもある.

・上位肋間の右側胸部誘導にて特徴的な心電図所見が顕著化することがある.

・的確な診断のためには,通常肋間と上位肋間で日時を変えて数回心電図を記録する.

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Point

・従来,早期再分極型心電図は良性変化と考えられていたが,これを有する症例の一部では突然死のリスクが高いことが近年判明した.

・早期再分極型心電図に出会ったら,総合的にリスク評価を行い,植込み型除細動器などの治療を検討する必要がある.

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Point

・狭心発作に伴う主な心電図変化はST偏位であり,ST下降は心内膜下に限局した非貫壁性心筋虚血を,ST上昇は心内膜から心外膜に及ぶ貫壁性心筋虚血を示す.

・器質的冠動脈狭窄による労作狭心症では心筋酸素消費量の増大に供給量が対応できず心筋虚血(demand ischemia/secondary angina)が発生する.

・冠攣縮性狭心症では,冠攣縮により冠血流が低下し,心筋虚血(supply ischemia/primary angina)が発生する.

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Point

・典型的でない心筋梗塞の心電図を見逃さない.

・重症心筋梗塞を見分ける.

・心電図波形から治療方針を決める.

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Point

・心筋症に特異的な心電図異常所見は少ないが,心電図所見は心筋障害の局在や程度を反映している.

・心筋症の心電図異常所見は心臓MRIで得られる形態的・機能的所見,および遅延造影MRIを用いた組織性状所見と密接に関連している.

・心電図異常から本症を疑うことが早期診断や治療導入のために肝要である.

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Point

・不整脈原性右室心筋症は右室優位に心筋組織の脂肪浸潤と線維化を来す家族性心筋症である.

・右室起源の心室頻拍が突然死のリスクとして重要であり,運動がトリガーであることが多い.

・12誘導心電図では,右側前胸部誘導(V1〜V3)の陰性T波(再分極異常)とイプシロン波(脱分極・伝導異常)が特徴的である.

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Point

・カリウム(K),カルシウム(Ca)などの電解質失調では特徴的な心電図変化がみられる.これらの電解質失調が高度な場合,心室頻拍,心室細動などの致死性不整脈が発症する.

・血清K,Ca異常時の細胞内外におけるイオン変化と心筋活動電位持続時間との関係に注目すると,これらの電解質失調における心電図変化は理解しやすい.

・マグネシウム(Mg)の異常は単独では臨床的に問題になることは少ないものの,低K,低Ca血症と合併すると致死性不整脈を惹起しやすくなる.

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次号予告

奥付

基本情報

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循環器ジャーナル
65巻2号 (2017年4月)
電子版ISSN:2432-3292 印刷版ISSN:2432-3284 医学書院

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