呼吸器ジャーナル 69巻1号 (2021年2月)

特集 呼吸器薬物療法—現場ではこう使いこなす

序文 長 澄人
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 呼吸器疾患は感染症,腫瘍,間質性肺炎などのびまん性肺疾患,喘息・アレルギー,COPD,膠原病,多くの希少疾患など極めて多岐にわたり,呼吸器科医が使いこなすべき薬も非常に多く,若手医師にとっては最新の治療法を習得するのはなかなか大変である.

 鎮咳薬・去痰薬や気管支拡張薬は以前から呼吸器外来で使用する頻度の高い薬剤であるが,診断や症状による使い分けに注意を要する.気管支喘息やCOPDにおいては吸入薬が治療の中心となっているが,吸入ステロイド,LAMA,LABA,各種合剤が上市され選択に迷うことも多く,また特に高齢者では丁寧な吸入指導が必要である.高容量吸入ステロイドでもコントロールできない難治性/重症喘息に対する抗体製剤も4種類が使用できるようになり,使い分けが必要となった.呼吸器科医は各種抗菌薬・抗真菌薬に精通することが求められるが,非結核性抗酸菌症が増加していることから抗酸菌治療薬に対する知識も今なお重要である.肺癌治療は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が導入されて進歩が著しく,殺細胞性抗癌剤や放射線治療との組み合わせを考慮して最良の治療法を選択する必要がある.膠原病による肺病変を呼吸器科で治療することも多いが,ステロイドや免疫抑制薬の用量調節や副作用管理には十分な配慮が必要となる.また臨床現場では疼痛緩和薬や漢方薬も必要に応じて使いこなすことが求められ,比較的新しい領域である肺高血圧症治療薬や肺線維症に対する抗線維化薬も今や呼吸器科医にとって必須のものとなっている.

鎮咳薬・去痰薬 山本 佳史
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Point

・咳嗽に対して,漫然と非特定的治療薬である中枢性鎮咳薬を使用するのではなく,原因を推定・同定しながら,なるべく末梢性鎮咳薬を中心とした治療を行う.

・去痰薬は非特異的末梢性鎮咳薬の一つであり,エビデンスが少ないが,作用機序など薬剤の特徴を理解し考え処方する.

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Point

・吸入薬の効果は,含有薬剤・吸入デバイスといった吸入薬側因子と,吸入アドヒアランス・吸入手技といった患者側因子によって決定される.

・喘息の基本治療は吸入ステロイドであり,長時間作用型β2刺激薬や抗コリン薬といった長時間作用型気管支拡張薬を適宜追加する.

・COPDの基本治療は長時間作用型気管支拡張薬であり,必要時吸入ステロイドを追加する.

・地域ごとで統一された吸入指導のシステムの構築が患者のアウトカムを向上させる.

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Point

・気管支拡張薬は吸入薬が第1選択であり,貼布薬やキサンチンの使用は限定されている.

・貼布薬は高齢者や小児喘息患者などに限定して使用される.

・キサンチンは有効安全域が狭く,血中濃度も変動しやすくモニタリングが必要である.

抗アレルギー薬 原田 紀宏
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Point

・ロイコトリエン受容体拮抗薬は,抗アレルギー薬のなかで呼吸器薬物療法に最も用いられる薬剤であり,気管支喘息とアレルギー性鼻炎に適応がある.

・ロイコトリエン受容体拮抗薬は,両疾患それぞれに有用であるとともに両者が併存している病態にも有用である.

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Point

・ガイドラインに沿って,難治性喘息の診断をきちんと行う.

・臨床病型やバイオマーカーを把握することにより,症例の病態に合った抗体製剤を選択することが重要である.

・合併症や費用,患者の生活スタイルを鑑みて薬剤選択に反映させることは長期間使用できるポイントである.

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Point

・重症度判定と緑膿菌やMRSAなどの耐性菌(薬剤低感受性菌)リスクを考慮して抗菌薬を選択する.

・耐性菌リスクが高いと判定して,広域抗菌薬(例:抗緑膿菌活性を有する抗菌薬)を使用する場合は,起炎菌判明後にde-escalationを考慮する.

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Point

・抗真菌薬にはポリエン系,アゾール系,キャンディン系,ピリミジン系の4系統が存在する.

・好中球減少患者ではアスペルギルス症やカンジダ症,細胞性免疫不全患者ではニューモシスチス肺炎やクリプトコックス症に注意する.

・治療方針や予後に大きく影響するため,合併症の検索が重要である.疾患や病型によっては併用療法や長期の維持療法が必要とされる.

・ニューモシスチス肺炎に対する第1選択薬はST合剤であり,呼吸不全の補助治療薬としてステロイドを用いる.

抗酸菌症治療薬 奥村 昌夫
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Point

・結核の治療は現在では化学療法が中心であり,大半の結核は化学療法で治癒させることができる.抗結核薬には抗菌力が強く初回治療に標準的に用いる一次抗結核薬と,抗菌力は劣るが一次抗結核薬が使用できない場合に用いる二次抗結核薬がある.

・1970年代にリファンピシン(RFP)が登場して以降長く承認されない状況が続いていたが,RFPと同じ系統の薬剤でリファブチン(RBT)が薬剤相互作用あるいは副作用のために使いにくい場合の代替薬として2008年に承認された.その後キノロン系抗菌薬であるレボフロキサシン(LVFX)が2015年に抗結核薬として承認された.また新たに新規抗結核薬デラマニド(delamanid;DLM)が,多剤耐性肺結核症(multi-drug resistant tuberculosis;MDR-TB)の治療薬として2014年に承認された.そしてベダキリン(bedaquilin;BDQ)が米国で2012年12月に承認され,日本でも2018年4月に使用が可能となった.

・新規抗結核薬の使用にあたっては慎重に検討し,新たな薬剤耐性をつくらないように十分に使用を検討しなければならない.また有効な感受性薬剤数が少ない場合外科的治療の適応の検討も必要となる.

・肺非結核性抗酸菌症,特に肺Mycobacterium avium complex(MAC)症の治療効果においては,クラリスロマイシン(CAM)のみがすべての肺MAC症に効果のある唯一の薬剤である.CAM耐性は初回治療例ではほとんど存在しない.EB,RFPはCAMと組み合わせることによって効果を発揮する.CAM単剤あるいは2剤治療となると,CAMの耐性化を生じて治療の継続が困難となる.

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Point

・漢方薬を処方する時には,病名から処方を決めるのではなく,漢方医学的な病態把握をすることが重要である.

・処方を考えるときに,陰陽虚実,気・血・水の異常の鑑別が重要である.

・麻黄を含む製剤は実証の人に用いる薬であり,虚証の人に使用すると副作用が出やすい.

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Point

・非小細胞肺癌において,免疫チェックポイント阻害剤が治療の中心となってきている.

・がん遺伝子検査はNGSを用いたパネル検査が主流になってきている.

・複数の治療選択肢から,患者・家族の意向や価値観に沿った選択を支援することが重要である.

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Point

・小細胞がんは非常に進行が早く,予後不良である.

・限局型では放射線化学療法が標準である.

・進展型では2019年より免疫チェックポイント阻害薬の併用が標準療法の一つとなった.

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Point

・切除可能例では手術が検討されるが,適応は慎重に判断する必要がある.

・初回治療としてはシスプラチン+ペメトレキセドが標準である.

・二次治療としてニボルマブが承認され,免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待される.

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Point

・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の開発が各病期で進んでいるが,細胞障害性抗癌剤の使用頻度は依然として多い.

・細胞障害性抗癌剤の多くで骨髄抑制,発熱性好中球減少症が問題となり,そのマネジメントは重要である.

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Point

・非小細胞肺がんにおけるドライバー遺伝子変異を標的とする分子標的薬を中心に解説する.

・他の抗がん薬と併用される抗体薬(血管新生阻害薬・抗EGFR抗体薬)についても概要を述べる.

・分子標的薬には特徴的な副作用が存在するため,その理解と,適切な対処が重要である.

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Point

・免疫チェックポイント阻害薬の登場により,肺がんの治療戦略は大きく変化した.

・免疫関連有害事象(immune-related adverse events;irAE)は全身の多岐にわたる臓器・器官に出現し,その出現時期を予測することは難しい.

・irAEは時として重篤化し致死的となるため,出現時には速やかに診断し,早期に治療介入することが重要である.

緩和治療薬 松田 能宣
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Point

・がん患者だけではなく,非がん性呼吸器疾患患者に対する緩和ケアの重要性が認識されつつある.

・標準治療無効の呼吸困難に対する第一選択薬はモルヒネである.

・ベンゾジアゼピン受容体作動薬は副作用の観点から必要最小限にすることが望ましい.

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Point

・膠原病と合併する肺疾患に用いられるステロイド,免疫抑制薬,生物学的製剤,JAK阻害薬の特徴,使用法,副作用を含む留意事項を網羅的に解説した.

・膠原病に合併する代表的な肺病変に対する免疫抑制療法について,最新の知見も踏まえて概説した.

抗線維化薬 馬場 智尚
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Point

・ピルフェニドン,ニンテダニブの抗線維化薬2剤が特発性肺線維症に対して使用されてきた.

・強皮症に伴う間質性肺炎や,特発性肺線維症以外の進行性線維化を伴う間質性肺疾患(progressive fibrosing interstitial lung disease;PF-ILD)にもニンテダニブの適応が拡大した.

・臨床試験では呼吸機能低下の抑制効果が示されたが,臨床試験の統合解析や特発性肺線維症のレジストリーからは,特発性肺線維症に対する予後の改善効果も示唆されている.

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Point

・肺高血圧症治療は正確な診断,早期治療が重要である.

・選択的肺血管拡張薬は3系統の作用経路が存在し,肺動脈性肺高血圧症では治療開始から2系統以上の併用療法が基本となる.

・呼吸器疾患に伴う肺高血圧症治療薬の有効性は確立していない.

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呼吸器ジャーナル
69巻1号 (2021年2月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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