画像診断 40巻11号 (2020年9月)

特集 解剖と病態生理から迫る呼吸器画像診断

序文 楠本 昌彦 , 髙橋 雅士
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画像診断において,解剖の理解は基本的でかつ重要な事柄である.とはいえ,解剖を完全に習得することは容易なことではなく,絶え間ない洗練向上の努力が必要である.肺は体の中では大きな臓器で,かつ絶えず呼吸によって動いている.この大きな臓器を全体でとらえるには胸部単純X線写真が優れており,その解剖の理解は重要である.中でも無気肺のように肺の大きさがダイナミックに変化する病態においては,解剖の理解が欠かせない.

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• 肺や気管支,肺動脈,横隔膜など胸部臓器は,左右非対称な臓器である.

• 右肺は上葉,中葉,下葉の3 つの肺葉に分かれる.左肺は上葉,下葉の2 つの肺葉に分かれる.右中葉に相当する部位は舌区と呼ばれ,左上葉に含まれる.

• 胸部単純X 線写真においては,肺や縦隔の重なりにより生じる境界線がある.これらの線は病変の検出に役立つので,胸部臓器を立体的に把握することで境界線を理解することが重要である.

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• 肺門を起点とした正常の肺葉の立体的な広がりを理解した上で,肺葉の容積減少に伴う肺葉の偏位を理解する.

• 既存構造に接する肺葉や肺区域を知ることで,どの肺葉の無気肺かをシルエットサインから診断する.

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• 1973 年より,画像診断の分野では単純X 線写真側面像において前・中・後縦隔の3 区分が使用されている.

• 2009 年に,日本胸腺研究会(JART)刊行の縦隔疾患取扱い規約において,CTを用いて縦隔上部・前・中・後縦隔の4 つに分類した新たな区分法が提唱された.

• 外科,内科,病理,放射線科を含めた国際的な学際的組織であるITMIG から,わが国から提唱されたJART 区分をもとに,より簡略化し,Felson 区分をCTに準用した前・中・後縦隔3 区分法が2014 年に提案され,現在,世界標準の区分法となりつつある.

• ITMIG 区分では,縦隔上部を設けない点,JART 区分の中縦隔(前腸発生病変主体)に心大血管病変を含める点が,JART 区分との大きな差である.

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• 縦隔コンパートメントの分類は,従来は胸部単純X線写真が基準にされてきたが,近年ではCT 横断面を基準にした分類が提唱されている.CT 横断面を基準にした縦隔コンパートメント分類は,病変の正確な局在評価に有用である.

• 縦隔腫瘍の鑑別には,縦隔の神経走行などの正常解剖を理解しておくことが重要である.

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• 肺の血流量と換気量は重力に依存する.よって,上肺よりも下肺の方が,換気量,血流量ともに多い.しかし,上肺と下肺では肺循環血流量に対する肺胞換気量の割合(換気血流比)が異なり,上肺では換気優位,下肺では血流優位の状態となる.また,酸素の取り込みと二酸化炭素の除去の割合により肺内の水素イオン指数(pH)は上肺と下肺で異なり,上肺はアルカリ性優位,下肺は酸性優位である.

• 機械的ストレスや呼吸運動の大きさは上肺と下肺で異なる.リンパ流の駆動力は肺動脈圧と呼吸運動であり,呼吸運動の大きい下肺(肺底)は上肺よりもリンパ流の駆動力は大きい.

• 肺内の免疫機能は局所的に分布が異なる.特に近年,低酸素性肺血管収縮(HPV)という肺血管系に固有の“恒常性メカニズム”を基にした生物学的モデルが注目されている.

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• 肺内外層の病変分布はその解剖学的構造だけでなく,血流・気道・リンパ流・呼吸運動といった様々な生理的な影響が大きく関わっている.

• 解剖学的には内層と外層に明瞭な境界線はなく,構造に大きな違いはないが,小葉間隔壁や気管支・血管の径,分岐形態に違いがある.

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• 胸膜・胸壁の正常構造を理解しておけば,末梢肺病変か壁側胸膜由来病変かなど病変の局在に迫れる場合がある.

• 胸膜プラークは石綿ばく露の医学的所見として用いられ,画像診断が最終診断となるため,石綿肺癌の認定基準とともにその所見に精通しておく必要がある.

• 胸膜炎,膿胸の診断の際には臓側胸膜,壁側胸膜,胸膜下脂肪層の構造の理解とその所見が重要である.

• 臓側由来,壁側由来を考える際にダイナミックCT が撮影されていれば,供給動脈,導出静脈の局在が参考になる.

• 胸膜中皮腫は石綿ばく露との強い因果関係があり,悪性度が高く予後不良であるが,60%程度では胸膜プラークを有さず,初期病変では画像所見にて胸膜不整を示さない場合があることも知っておく必要がある.

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• 気管支分岐は主軸枝の同大二分岐が基本であるが,肺門から末梢に至るすべての領域で,主軸枝の間を埋めるように主軸枝から側枝(娘枝)が分岐する.主軸枝の間は側枝(娘枝)により肺胞が支配される.

• 画像診断を理解するための解剖学的最小構成単位は二次小葉であり,その集合が亜区域から区域,肺葉となり肺全体を構成する.

• 肺内では,末梢構造の二次小葉に至るまで気管支と肺動脈が伴走し,ガス交換後の血液は肺静脈に還流する.

• 高精細CT では二次小葉の中心部分レベルまでが描出されるが,病変が生じた場合はさらなる微細構造が顕在化する.

• 二次小葉レベルの細気管支や血管などの既存構造を把握することは,病変の成り立ちなどとの関連性を理解するために重要である.

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• 肺の広義間質は,気管支肺動脈周囲間質,肺静脈周囲間質,小葉間隔壁,胸膜下間質に相当し,内部にリンパ管が発達している.

• 肺内のリンパ路は通常では描出されないが,広義間質病変によって画像で描出されるようになる.

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• 特発性肺線維症(IPF)は,原因不明の肺の線維化が緩徐に不可逆的に進行する予後不良の疾患であり,診断にはCT が重要である.代表的な病理・画像パターンはusual interstitial pneumonia(UIP)パターンを示す.

• UIP の病理組織像の特徴は,空間的・時間的不均一性である.小葉辺縁優位に肺胞の虚脱を伴う線維化がみられ,線維化と正常肺との境界は急峻である.

• CT では小葉・細葉辺縁構造が顕在化し,横断像では胸膜直下の棘状構造,胸膜に平行な断面では大小不揃いな多角形の構造がみられる.

• この多角形の辺は小葉間隔壁の肥厚ではなく,隔壁に接した肺胞の虚脱線維化であり,病変部分の肺容積減少を伴う.Reid の二次小葉は10mm 前後で,肺のどの部位でも揃っているとされる.Reid の二次小葉を意識することで,局所の肺胞虚脱を推測することができる.

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• 肺感染症の薄層CT(thin section CT;TSCT)所見を検討する上で,小葉構造を理解し,経気道散布を示唆する小葉中心性分布や血行性播種を示唆するランダム分布など,病変の分布形式について把握しておく必要がある.

• 小葉構造に沿って広がる感染症,小葉構造を越えて広がる感染症,区域性に広がる感染症,非区域性に広がる感染症,肺の既存構造を破壊して空洞を形成する肺感染症など,病変の進展形式の特徴を把握することが鑑別診断に有用である.

• 肺感染症の一部は好発部位を有するため,その特徴を把握しておくことが重要である.

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• 肺のCT は,一見,広範な空間の中に,血管と気管支が樹木のように生い茂っているようにみえるかもしれない.しかし,実際は肝と同じように,葉という大きな区分と小葉という小さな区分の集合体である.

• CT にはあまり描出されないが,肺には葉間裂や小葉間隔壁,肺胞隔壁などの多くの壁が存在している.ここに病変が発生すると,病変が,血管やこれらの壁で遮られるか,これらをゆがめるか,突破するか,あるいはすり抜けるかによって,病変の特徴をとらえることができる.

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• 肺実質は,肺胞,肺胞嚢,肺胞道,呼吸細気管支,終末細気管支,細気管支,亜区域気管支などの肺胞気道と,肺動脈,肺静脈,気管支静脈の脈管,小葉間隔壁,胸膜などの既存構造が整然とネットワークを構成し,呼吸機能を司っている.

• 呼吸器疾患は,前述の既存構造を可逆的または非可逆的に破壊する.肺結節病変の増大,進展の際に,これらのネットワークは病変増大の障壁になる場合もあるが,病変拡大の足がかりとなる場合もあり,疾患によりその組み合わせが様々である.このため,結節の画像診断の基本となる結節辺縁が,疾患による特徴を形成する.

• 疾患により発生部位と既存構造破壊に特徴があり,画像診断はその特徴をとらえて鑑別していく過程である.そのために,CT などの画像所見と対比し病変のマクロ解剖を理解することが重要である.

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画像診断
40巻11号 (2020年9月)
電子版ISSN:2432-1281 印刷版ISSN:0285-0524 学研メディカル秀潤社

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