言語聴覚研究 8巻3号 (2011年11月)

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 本研究の目的は,嚥下障害患者の随意咳嗽を空気力学的に測定し,咳嗽の運動的側面に関する異常の有無と嚥下時の誤嚥との関連を検討することである.対象は,嚥下造影検査を実施した男性患者24例(平均年齢73.0歳)および比較対照とした健常男性17例(平均年齢69.4歳)である.随意咳嗽は呼吸流量計で測定し,吸気相時間,最大吸気流速,圧縮相時間,呼気立ち上がり時間,最大咳嗽流速,咳嗽加速度を算出した.患者群については,嚥下造影検査から喉頭侵入/誤嚥の重症度スケールを用いて評価し,非誤嚥例と誤嚥例に分けて比較した.その結果,対照群と患者群の比較では,吸気相時間,圧縮相時間を除く随意咳嗽の指標で有意な差を認めた.また患者群の誤嚥例では,非誤嚥例と比較し,呼気立ち上がり時間の延長と最大咳嗽流速,咳嗽加速度の低下がみられた.以上のことから,嚥下障害患者の随意咳嗽は低下しており,特に誤嚥例では呼気相の障害が関連することが示唆された.

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 重度の呼称障害を呈した失語症1例に対して,意味セラピーと音韻セラピーを実施し,その効果を単一事例研究デザインを用いて比較した.症例は64歳の右利き男性.左中大脳動脈領域の梗塞により重度ブローカ失語を呈し,標準失語症検査(SLTA)の呼称課題では正答はなかった.訓練では,音韻セラピーとして「呼称」「語頭音キューによる呼称」「復唱的音読」課題を,意味セラピーとして「音声単語と絵カードのマッチング」「文字単語と絵カードのマッチング」課題を行い,各訓練期中の呼称正答数を測定するとともに患者自身に努力度の評定を求めた.その結果,意味セラピーの呼称正答数の改善は音韻セラピーと同等であった.さらに,主観的努力度は意味セラピーでより低かった.効果が同等に得られるのであれば,努力度が低く心的負担が軽いと推測される意味セラピーのほうが訓練に適用しやすいと考えた.

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 カテゴリーのレベルを統制した音声単語と絵のマッチング課題を作成し,課題に対する失語症者の成績の特徴を分析した.対象は右利き失語症43例および右半球損傷非失語10例.選択肢の絵カードは,目標語1枚と同時提示されるfoilの5枚が,目標語と意味的に遠いものから近いものになるように3段階に設定した(Level1~Level3).失語群は非失語群に比べ正答数の有意な低下を示した.失語群ではLevel間の有意な成績差が認められたが,非失語群では差はなかった.軽度失語群や聴覚的理解良好失語群において,Level1と2では非失語群との正答数に差はなかったが,Level3では有意差が認められた.失語群において,各Levelの正答数はいずれも標準失語症検査の聴覚的理解下位検査の成績と有意に相関した.本課題は失語症の聴覚的理解の評価に有効であり,特にLevel3のような「カテゴリー内理解課題」は,比較的軽い語彙理解障害を検出するのに有用と考えた.

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 学外臨床実習(実習)を終了した言語聴覚療法学科学生104名を対象に,6能力から成る情報活用の実践力の自己評価を実習前後に行い,実習前後の各能力における自己評価の変化と実習指導者(指導者)による評価との関連性を検討した.実習後における収集力の自己評価は実習前と比較して有意に高い値となったが,表現力の自己評価は有意に低い値となった.指導者の「実習に対する意欲・積極性」の評価成績が対象者内で上位にいる者は,実習後の収集力の自己評価は有意に高くなったが,「問題点の整理・把握」の評価が上位にいる者の実習後の表現力の自己評価は,有意に低い値となった.本研究の結果より,実習生の主体的・積極的な情報収集に対する自己評価は実習後に高くなるが,収集した情報や検査結果を解釈し問題点を抽出する段階では「困難」と評価をすることが考えられた.

リポート「現場,最前線」

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1.はじめに

 集団コミュニケーション療法は平成20年度診療報酬改定により新設され,当院では平成20年7月より実施している.今回,当院における集団コミュニケーション療法の効果についてまとめたので報告する.

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1.はじめに

 近年の医療保険制度改定により,リハビリテーションの日数制限に加え在宅復帰率が評価の対象となったことは,介護保険領域にリハビリテーションの役割が移行しつつあることを意味する.しかし,現実に医療保険から介護保険への患者の流れがどのように行われているか,あるいはどの程度機能しているのかについては地域特性などによって異なると予測され,データの集積が必要であると考える.

 今回,筆者が所属する静岡県言語聴覚士会・老健部会にて静岡県内の回復期から維持期へ移行する患者の動向について調査したので,若干の考察を加えて報告する.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 この編集後記はモントリオールのホテルの一室で書いています.本日はこの地で開催されたAcademy of Aphasiaの最終日で,刺激されることが多かった学会の日々を思い出しながら書いているところです.学会に参加して感じたことは,単語処理や構文処理に関する認知神経心理学的モデルが臨床家や研究者の共通概念としてしっかり定着しており,それを基盤として発展的議論がなされていること,また既存モデルの検証ではなく,臨床知見との突き合わせによって新しい理論を創造することにはっきりとした志向があることです.本年はBrocaが左半球に言語野があることを証した論文,すなわち“tan……tan……”としか話せなかった症例Leborgne氏の症状と剖検結果を発表してから150年目に当たりますが,学会ではBroca失語を巡るDejerineとMarieの歴史的討論(1908年)が文献に即し朗読劇として忠実に再現されました.また,その討論テーマの答えをNia Dronkers氏が現代のneural connectivity理論を用いて明解に解いてみせました.Dronkers氏の解説は非常に興味深く,150年にわたる言語とその脳基盤に関する研究の蓄積と発展をひしひしと感じました.ちなみにDejerineを演じたのはWhitaker氏で,MarieはLise Menn氏が演じました.Dronkers氏は来年来日し,言語のneural connectivityについて講演されることになっています.

基本情報

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言語聴覚研究
8巻3号 (2011年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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