言語聴覚研究 21巻3号 (2024年9月発行)

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セミナー

機能性発声障害とは何か？—機能性発声障害の病態と病因に関する文献的レビュー城本　修 21巻3号 , 2024年9月 , pp.175-185

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　機能性発声障害とされている筋緊張性発声障害（以下，MTD）は，複雑な要因の相互作用を伴う多因子性疾患であることが最近の一般的な見解となっている．しかし，これらの関連因子がどのように相互作用するのか，また，なぜ特定の個体にのみMTDが生じるのかについては，まだよくわかっていない．そこで，本稿では，MTDの病態と病因に関するこれまでの研究をレビューし，どのような因子が相互作用しているのかを考察した．さらにこのレビューがMTDの効果的な音声訓練プログラムの開発に寄与できることを期待している．

原著

自閉スペクトラム症児における見かけの感情表出の理解奥泉　大地 , 藤田　郁代 21巻3号 , 2024年9月 , pp.186-195

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　本研究の目的は，自閉スペクトラム症（以下，ASD）児における見かけの感情表出の理解を調べることであった．対象は5〜6歳の知的発達の遅れのないASD児12名，対照群は定型発達（以下，TD）児12名であった．方法は嬉しい場面と悲しい場面を用いて，本当の感情と見かけの感情表出を理解する文章課題を作成し，実施した．課題は本当の感情質問，見かけの感情質問，理由質問から構成し，発話または表情イラストで回答を求めた．ASD児とTD児は本当の感情の理解に差はなかったが，ASD児は見かけの感情の嬉しい感情の表出のみTD児より有意に成績の低下を示した．また，見かけの感情表出の誤反応に対する理由発話の内容に差があり，ASD児では，自分の本当の感情と状況的事柄を発話することが多く，他者の感情や立場に配慮した回答は困難であった．以上から，知的発達に遅れのないASD児は見かけの感情表出の理解に問題を認め，他者感情の推論が困難と考えられる．

発達性読み書き障害児群における立方体透視図の模写遂行—文字の習得に関与する認知機能や読み書きの到達度との関連高橋　朗子 , 後藤　多可志 , 春原　則子 21巻3号 , 2024年9月 , pp.196-205

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　本研究では，客観的診断評価を受けた9〜14歳の日本語話者の発達性読み書き障害（developmental dyslexia：以下，DD）児27例を対象に，立方体透視図模写の遂行と，文字の習得に関与する認知機能や読み書きの到達度との関連について検討した．立方体透視図の採点は，依光ら（2013）の方法で行い，典型発達データ（Gotoh et al., 2020）を基にz-scoreに変換した．その結果，-1.5z-score以上のDD児は27名中13名，-1.5z-score未満は14名であった．立方体透視図模写の得点は，視覚認知力が関与する課題の成績や音読速読課題の誤読数と有意な相関を認めた．立方体透視図模写課題は，視覚認知力が弱いDD児の検出に有用であり，立方体透視図模写課題で評価される視覚認知力の弱さが文字の音読に影響を与えるのではないかと考えられた．

失語症者におけるCOVID-19の情報入手・理解に関する調査研究荻野　拓也 , 藤田　郁代 21巻3号 , 2024年9月 , pp.206-216

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　関東圏で在宅生活をする失語症者を対象として，COVID-19の情報の入手と理解について質問紙調査を行い実態の把握，災害時の情報支援の在り方を検討した．関東圏の失語症友の会および介護保険の通所・訪問リハビリテーション施設の利用者に調査表を配布し，回収率は81.9％（190名），有効回答率は72.4％（168名）〜75.0％（174名）であった．その結果，回答者は70代以上の男性，介護保険サービスや失語症友の会で家族以外と交流のある者が多かった．COVID-19情報を積極的に入手する者は約80％であったが，教えてくれる人がいない者は19.3％おり，新聞やインターネット利用は少なく地域の細かな情報は入手できていないことがわかった．情報を積極的に入手する者は情報の理解度が高いが，支援者の有無では理解度に有意差を認めず，人や制度があるだけでは情報理解につながらない可能性があり，失語症者がわかりやすく情報を得られるような情報提供の仕組みの構築・活用が望まれる．

日本語話者の発語失行におけるアクセントの特性と評価指標の検討川邊　圭太 , 藤田　郁代 21巻3号 , 2024年9月 , pp.217-225

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　本研究の目的は日本語話者の発語失行（apraxia of speech：以下，AOS）のアクセント特性を音響学的に分析し，AOS評価の指標を明らかにすることである．対象はAOS群13名，健常対照群15名であった．方法は2モーラの同音異義語の連続復唱課題を実施し，音声分析ソフトPraatで分析した．その結果，AOS群は健常対照群に比べ，アクセントパターンの誤りが有意に多く，約3割の語で誤りを認めた．さらにAOS群はF0とインテンシティーの変化率が有意に小さく，発話間の変動係数が有意に高かった．F0変化率のcut-off値は11.4であり，感度90.0％，特異度65.0％であった．このことから，AOSはアクセントの平板化がみられ，F0やインテンシティーの変化が小さく，発話ごとに変動性が高いことが示された．また，評価指標として2モーラ語のF0変化率が11.4以下の場合にAOSの可能性が高いことが示された．

失語症者の状況絵説明における意味の伝達—命題表現からの検討櫻岡　絵里香 , 藤田　郁代 21巻3号 , 2024年9月 , pp.226-235

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　本研究の目的は失語症者の談話における意味伝達力を命題表現から明らかにし，談話の構造的側面との関連性を検討することである．研究参加者は，失語症者32名（左前方病変7名，左後方病変9名，その他16名）と健常者15名であった．状況絵の説明課題を行い，主要命題の発話数とそれらの正確性と完全性を分析し，談話中の呼称と文の発話成績との関連性を調べた．その結果，失語症者は主要命題の発話数が少なく，不正確あるいは不完全な表現となることが多かった．主要命題の産生には談話中の名詞の呼称能力，命題表現には談話中の名詞の呼称能力に加えて文の発話能力が関与し，命題の産生とそれを言語化する過程が異なることが示唆された．また，脳の前方と後方の病変では談話の構造的側面と命題表現において障害特性が異なった．談話訓練では談話構造を語彙，統語的側面から分析し，意味伝達力の低下の要因に対する直接的な訓練が重要であると考えられた．

吃音者に認められる社交不安の状態と自然で無意識な発話への遡及的アプローチの効果塩見　将志 , 小内　仁子 , 荻野　亜希子 , 水本　豪 , 福永　真哉 , 都筑　澄夫 21巻3号 , 2024年9月 , pp.236-243

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　本研究では36名の吃音者に対して社交不安障害検査（以下，SADS）の得点を用いて吃音者の初期評価時での社交不安の状態を調査した．そして自然で無意識な発話への遡及的アプローチ（以下，RASS）導入後のSADS得点の変化を指標に，RASSは吃音者に認められる社交不安にも有効な訓練か否かを検討した．吃音を主訴に来院した吃音者にSADSで初期評価を行った際には，疑い例を含めると90％程度に社交不安が認められることが示唆された．Wilcoxonの符号付順位検定を行った結果，RASS実施前後にSADSを実施できた22名の比較でSADS得点に有意差が認められた．またRASS実施後3年以内にSADSの再評価を実施した20名中16名に社交不安の改善が認められ，改善率は0.84（1人年あたり）であったことから，さらなる検証は必要だがRASSは吃音者に認められる社交不安の改善に有効な訓練法の一つに成りうる可能性が示唆された．

オンラインLidcombe Programに対する保護者アンケート調査—テキストマイニングを用いた分析坂崎　弘幸 , 瀧元　美和 , 田中　美郷 , 角田　玲子 , 伏木　宏彰 21巻3号 , 2024年9月 , pp.244-251

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　Lidcombe Program（以下，LP）は小児吃音への介入手法の一つである．近年，インターネットを用いたLP（以下，オンラインLP）を行う施設が増加している．本研究は保護者が感じるオンラインLPのメリットやデメリットを明らかにすることを目的とした．対面式LPとオンラインLPの両方を行った吃音児の保護者26名に無記名式アンケートを行い，22名の回答を得てテキストマイニングを用いた分析を行った．18名（81.8％）は今後もオンラインLPの継続を希望しており，オンラインLPに肯定的な回答が多かった．メリットとしては「移動時間」に関する記述が多く，デメリットとしては「訓練教材をお互いに触ることができないこと」が多かった．通信環境などを理由にして対面式を希望する者はいなかった．今後オンラインLPの普及のためには，通信環境の向上よりも画面を介した対話にいかに訓練対象児を引き付けるかが課題であると示唆された．

症例報告

COVID-19罹患後の嗄声に対する音声治療の経験宮田　恵里 , 清水　皆貴 , 村田　英之 , 尹　泰貴 , 岩井　大 21巻3号 , 2024年9月 , pp.252-258

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　COVID-19罹患後の嗄声に対して音声治療を施行し，良好な結果を得たので報告する．症例は50歳代女性．初診時，絞り出すような弱々しい発声で，喉頭内視鏡検査および喉頭ストロボスコピー検査では発声時の声門閉鎖不全と声帯振動で左右の位相差を認めた．発声時平均呼気流率は279.1mL/秒と増加しており，最長発声持続時間は7.87秒と短縮，声域は27半音であった．試験的音声治療で声門閉鎖不全が改善したことから，音声治療を週1回30分，SOVTEを中心に3か月間に計10回施行した．音声治療後，弱々しい発声は改善し，声門間隙も消失，声帯振動の左右の位相差も改善した．発声時平均呼気流率は137.5mL/秒，最長発声持続時間は42.94秒と正常範囲に改善し，声域は32半音へ拡大した．COVID-19罹患後の嗄声に対して音声治療が有効な症例があると考える．

右下同名性四分盲と失語症を呈したものの自動車運転再開に至った1例新井　慎 , 橋本　幸成 21巻3号 , 2024年9月 , pp.259-270

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　近年，脳卒中や脳外傷による後天性脳損傷者の自動車運転支援が注目されている．視野障害と自動車事故との関連を示唆する報告は散見されるが，実際に視野障害がどの程度であれば運転に支障をきたさないのか明確な基準はない状況である．今回，われわれは脳卒中後に失語症と視野障害を併発したものの運転再開に至った症例を報告する．症例は50歳代後半の右利き男性で，軽度失語症と右下同名性四分盲を併存していた．WAIS-Ⅲの結果，知的機能は保持されており，自身の病態を重く認識していた．視野欠損部位への認識を高める目的で視覚探索課題を実施し，欠損部位への自覚化・補償行為を促した．運転再開に際しては，安全性を考慮して運転条件を限定する環境設定を行った．その結果，運転再開から約2年間，事故や違反なく運転を継続している．本症例は，多角的な評価・訓練を用いることで運転再開に至ったが，視野障害者の運転再開は慎重に判断する必要がある．

短報

乳幼児の刺激音数の聴覚的弁別—実験設定と初期データ弓削　明子 21巻3号 , 2024年9月 , pp.271-276

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　構音獲得過程の誤りでは，音節の脱落や付加といった音節数の誤りがみられる．この背景には音節数の知覚の問題が考えられるが，音節数の知覚に関する研究はほとんどない．そこで本研究では，乳幼児で刺激音数の弁別を調べることを目的とした．対象は7か月（男児）と1歳8か月（女児）の定型発達児2名とした．刺激音は複合音（200Hzの鋸波）と合成した言語音/ma/を用い，1単位，3単位，4単位の刺激音系列を作成した．対象児にはスピーカで刺激音系列を提示し，条件付け振り向き法で反応を捉えた．その結果，複合音の1単位から3単位では，7か月児は5施行中3施行，1歳8か月児は9施行中5施行で振り向き反応があった．以上より，条件付け振り向き法を用いた刺激音数の弁別の観察で1単位と3単位の違いを弁別していることが確認でき，条件付け振り向き法による検査が有用である可能性が示唆された．

レポート「現場最前線」

北海道における失語症者向け意思疎通支援者養成—2年計画の養成研修の実践若松　千裕 , 籔　貴代美 , 北風　祐子 , 中西　俊二 , 大澤　朋史 21巻3号 , 2024年9月 , pp.277-280

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Ⅰ．はじめに

　現在，各都道府県の言語聴覚士会が失語症者向け意思疎通支援者の養成研修を実施している．養成研修は，失語症者の意思疎通を支援するために最低限必要な知識および技術の習得を目標とする「必修科目」と，多様なニーズや場面に対応できるコミュニケーション技術の習得を目標とする「選択科目」からなり^1），必修科目を修了すると，支援者として自治体に登録することができる．2022年3月時点で，43士会が必修科目を実施しているが，選択科目のすべてを実施したことがあるのは6士会のみであった^2）．北海道言語聴覚士会（以下，道士会）では，養成事業の業務量を考慮して，必修科目と選択科目を2年で実施する計画を考案し，自治体の了承を得て実施した．その経過について報告する．

　本研究は2019年4月から2023年3月までに，北海道における失語症者向け意思疎通支援者の養成に際して収集された言語聴覚士（speech-language-hearing therapists：以下，ST）と失語症者，受講生の情報を後方視的に分析した研究であり，道士会のホームページ（以下，HP）で情報公開文書を掲示し，対象者に拒否できる機会を提供する方法でインフォームドコンセントの代用とした．

学会記録

第25回日本言語聴覚学会講演抄録一般演題 21巻3号 , 2024年9月 , pp.281-432

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会期：2024年6月21日（金）・22日（土）/会場：神戸国際会議場

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目次 21巻3号 , 2024年9月 , pp.173

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投稿規定 21巻3号 , 2024年9月 , pp.433-434

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執筆要綱 21巻3号 , 2024年9月 , pp.435-436

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編集後記藤田　郁代 21巻3号 , 2024年9月 , pp.437

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　今号には，神戸市で開催された「第25回日本言語聴覚学会」（学会長田中義之先生）の事後抄録および12編の論文が掲載されています．学会は「シン・言語聴覚士〜過去から未来を繋ぎ，共に生きる」をテーマとし，盛大に開催されました．COVID-19が5類感染症に移行したことにより現地参加者が多く，各演題において活発な討議が繰り広げられました．

　本誌は，医学雑誌編集者国際委員会（ICMJE）および日本医学会の雑誌編集ガイドラインを参考に編集・発行しています．論文を投稿される際に，共著者をどの範囲に絞るべきかについて悩まれることがあると思いますので，今回は，ICMJEが挙げている著者の基準を紹介したいと思います．投稿に際しては，この基準に照らして共著者に含めるべきかどうかをご判断ください．

基本情報

言語聴覚研究
21巻3号
(2024年9月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1349-5828 日本言語聴覚士協会

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