言語聴覚研究 16巻4号 (2019年12月)

言語聴覚研究優秀論文賞

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 このたび,第10回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞し,身に余る光栄に背筋が伸びる思いでおります.研究計画から論文執筆に至るまで多大なるご支援をいただいた共同研究者の先生方,ご多忙のなか論文をご査読いただいた先生方に深く感謝を申し上げます.また,優秀論文賞にご推薦いただきました「言語聴覚研究」の編集委員の先生方にも心より御礼を申し上げます.さらに,本研究は平成28年度日本言語聴覚士協会学術研究助成制度「若手研究コース」の助成を受けており,本制度にかかわる先生方ならびに協会会員のすべての皆様へ深謝申し上げる次第です.本稿では,研究の着想に至った経緯や研究の概要,および今後の課題について述べたいと思います.

 本研究では,読みの二重経路モデル(Coltheart et al., 2001)の構成要素である文字列レキシコンに着目しました.二重経路モデルでは,語彙経路と非語彙経路という2つの読みの経路が想定されており,文字列レキシコンは語彙経路に含まれる心的辞書です.文字列レキシコンには複数の文字列を1つの単語のまとまりとして処理する機能があり,その機能を評価する方法として,視覚的に呈示された文字列が単語であるか非語であるかを弁別する語彙性判断課題が用いられます.

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1.はじめに

 このたび第10回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞し,大変光栄に感じております.査読者の先生,選考委員の先生方に感謝の意を申し上げます.また,本研究は日本言語聴覚士協会平成27年度学術研究助成制度「若手研究コース」の助成を受けた研究であるため,日本言語聴覚士協会会員の皆様にも深謝致します.

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 対人関係発達指導法—RDI(Relationship Developmental Intervention)は,他者と感情や経験を共有することに難しさのある自閉スペクトラム症の方に対し「対人的なかかわりへの意欲や成長への欲求を引き出す」ことに焦点を置き,代替や補償ではなく根本的改善をはかり,長期的な生活の質の向上を目標としたアプローチである.RDIでは子どものスキル獲得ではなく,ガイド関係,すなわち親子関係の再構築に力が注がれ,養育者が子どもの自己認識や自律的な思考を伸ばすために常に挑戦を与えていくことを支援していく.本稿ではRDIのアセスメント法,具体的支援の方策を含めたRDIプログラムの概要,研究論文,筆者のRDIの介入研究の中間報告を行った.RDIは,子ども自身で成長を切り開いていくという点で非常に興味深く,今後も研究などを通じて普及に努めていきたい.

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 「老化(senescence)」と「加齢(aging)」は混同されやすい.通常,「加齢」とは,生まれてから死までの物理的な時間経過を意味している.一方,「老化」は,「加齢」の間に進行すると考えられる.つまり,「老化」とは,「加齢」に伴って生体機能や病気に対する抵抗力などが低下することを意味している.

 発声発語器官も老化によって解剖生理学的な変化が生じる.例えば,発声のActivatorとしての胸郭・呼吸器系は,呼吸筋の筋力低下や胸郭の硬化などが生じるので,胸郭の動きそのものが制限され,声量や発声持続時間に影響を与える.Generatorとしての喉頭は,喉頭軟骨の骨化や声帯粘膜の変化(声帯萎縮)により声門の閉鎖不全が起きて,結果として嗄声が生じる.また,外喉頭筋の変化により喉頭位置も低下する.Resonatorとしての声道は,咽頭筋群や舌の萎縮,鼻腔拡大などにより,共鳴腔としての形態と働きに変化が生じる.その結果,第1フォルマント周波数の低下や構音操作の遅延などが起こる.本稿では,このような発声発語器官の生理的老化と高齢者に多い老人性音声障害のような病的老化と呼ばれる喉頭の病態像について解説する.そのうえで,こうした老人性音声障害へ言語聴覚士としてどのような対処ができるか,理論的モデルを提案する.

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 唾液嚥下惹起促進を目的に酸味冷触刺激を行い,嚥下機能に与える影響を検討した.対象は要介護高齢者59名.日常生活自立度のJ,A,B,Cはそれぞれ1名,22名,22名,14名で,主疾患は脳血管疾患42.4%,認知症疾患37.3%,呼吸器疾患6.8%,神経筋疾患3.4%,循環器系疾患1.7%,内分泌・代謝性疾患1.7%,消化器系疾患1.7%,その他5.1%であった.方法は,無刺激,無味冷触刺激,酸味冷触刺激後の初回嚥下潜時,10分間の唾液嚥下頻度および唾液量の測定をした.酸味冷触刺激後は,無刺激・無味冷触刺激後に比して,初回嚥下潜時が有意に短縮し,10分間の唾液嚥下頻度が有意に増加した.酸味冷触刺激は,嚥下に関与する神経活動を継続的に高め,その結果,初回嚥下潜時が短縮し,持続的に嚥下頻度が増加したと考えられる.酸味冷触刺激は,飲食物を用いない間接訓練で安全・簡便に行え,急性期の経口摂取を行っていない段階での間接訓練や,食事場面で追加嚥下が惹起しない場合の嚥下惹起促進など,広範囲に適用可能であると考えられる.

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 経験年数の少ない言語聴覚士(以下,ST)について,早期転職に至るプロセスや要因を明らかにすることを目的に聞き取り調査を実施した.

 首都圏のST養成校卒業後9〜49か月経過し,入職後36か月以内に転職したST 8名に面接調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにて分析した.内容はICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.

 逐語録から,【入職前の状況】【入職後の希望】【退職願望を生じさせる職場の状況】【辞めるという選択】【辞めた選択に対する相反する思い】【成長したい自分】という6のカテゴリー,11のサブカテゴリー,18の概念を生成し,若手STの転職に至るプロセスについての統合的な説明図を作成した.

 若手STの早期転職は,やりがいや成長したいという欲求が満たされないこと,配属希望が叶えられないこと,特定の個人との関係などが要因となっている可能性が示された.

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 本専攻では,実習成績表としてルーブリック評価を用いている.今回,従来の評価と比較することで,ルーブルック評価の有用性を明らかにする.

 入門実習(1年次の見学実習)施設32施設に対して無記名アンケート調査を実施し,ルーブリック評価における「実習への基本的態度」「知識面」「コミュニケーション」,総合評価である「全体」「従来の評価とルーブリック評価の比較」「所要時間」について調査した.

 32施設のうち11施設からアンケートを回収できた.「全体」では,8施設においてルーブリック評価が「評価しやすい」「少し評価しやすい」と回答したが,3施設は「少し評価しにくい」と回答しており,「慣れが必要だと思った」などの否定的な意見があった.

 実習におけるルーブリック評価は効果的であるが,ワークショップなどを行い評価観点を修正していく必要がある.

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1.はじめに

 筆者は全国に10施設ある聴覚障害者(以下,ろう者)に対応する高齢者施設の1つである特別養護老人ホーム淡路ふくろうの郷(以下,当施設)の機能訓練指導員としてリハビリを担当している.当施設入居中の高齢ろう者には手話をコミュニケーション手段とし,日本語の習得が不十分である方が多いため,認知機能検査の実施の際には手話通訳の資格を有する筆者が手話で検査を実施している.しかし,そこから得られた結果と実際の生活を観察した結果には乖離が認められることが多い.

 手話は,音声言語・書字言語としての日本語とは異なる語彙,文法体系を持つ視覚的な言語である.両手を主な運動器官とし,同時に複数の意味を示すことができ,視線・表情・体の向きなども文法的機能を果たしている1).手話は日本語を手の動きで表したものではなく,日本語とは別言語であることから,手話—日本語間の問題は日本語—外国語間の問題と類似していると考えられる.浜田ら2)は,外国語話者の言語評価・訓練において担当者が対象言語未学習の場合,発話課題の正誤判断が難しく,翻訳版検査では十分に言語障害を検出できないと指摘しており,同様の問題が手話をコミュニケーション手段とするろう者に対する検査でも起こる可能性がある.また,滝沢ら3)は,聴者を対象に標準化された心理検査を単純にろう者に照らし合わせることはできないと報告している.

 今回,高齢ろう者を対象にMini-Mental State Examination(以下,MMSE)を実施した経験から,手話を用いた場合の教示工夫やろう者に特有と思われる誤答について検討したので報告する.

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1.はじめに

 職能団体を含む団体の設立目的の主なものとして,個人では解決することが困難な問題を集合体を形成して,その団体が抱えている諸問題を解決してゆくこと,自己の開発や発展と社会的活動に参加し貢献してゆくこととされる1).一般社団法人新潟県言語聴覚士会(以下,新潟県士会)も定款の中で「言語聴覚士の学術・技能の研鑽,資質の向上及び職業倫理の遵守に努めるとともに,言語聴覚障害に関する啓発と知識の普及に貢献し,新潟県民の保健・医療・福祉・教育の充実と生活の質の向上に寄与すること」を会の目的としている2).その目的を達成するための活動の1つとして,新潟県士会は2013年より年に一度,定期総会に合わせて学術大会(以下,県学術大会)を開催している.県学術大会開催の具体的な目的は,卒後教育・生涯学習の一端を担い会員の研鑽を積む場とすること,会員が日々の臨床や研究で得た経験や知見を広く会員間で共有すること,全国学会で発表することに慣れていない会員が経験を積むための場とすること,会員同士の交流の場とすることなどである.

 今回は,新潟県士会で行ってきた第1回から第6回までの県学術大会の活動実績について分析した.分析対象の活動実績の内容は発表演題数,発表演題の領域,発表施設数および地域,参加者数とし,それらを開催回ごとに比較した.その結果,今後の活動方針を決定するうえでの手がかりの一助となる現在の新潟県士会の課題を見出すことができたので報告する.

 なお,倫理的配慮として,本研究の実施および発表に際し,新潟県士会の理事会において承認を得た.

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目次

投稿誓約書

投稿規定

執筆要綱

編集後記 藤田 郁代
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 令和の最初の年も暮れようとしています.

 今号には,第10回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞された橋本幸成氏と中尾雄太氏の受賞記念随筆が掲載されています.この賞は,本誌を発行する日本言語聴覚士協会が過去2年間に本誌に掲載された若手研究者の原著論文の中で最も優れた論文を表彰するものです.

基本情報

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言語聴覚研究
16巻4号 (2019年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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