レポート「現場最前線」
手話をコミュニケーション手段とする高齢ろう者に対する認知機能検査:MMSEの実施方法の検討
齋藤 奈奈
1
,
松尾 貴央
2
,
森 尚彫
2
1特別養護老人ホーム淡路ふくろうの郷 健康看護係
2関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科
pp.368-372
発行日 2019年12月15日
Published Date 2019/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.6001200252
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1.はじめに
筆者は全国に10施設ある聴覚障害者(以下,ろう者)に対応する高齢者施設の1つである特別養護老人ホーム淡路ふくろうの郷(以下,当施設)の機能訓練指導員としてリハビリを担当している.当施設入居中の高齢ろう者には手話をコミュニケーション手段とし,日本語の習得が不十分である方が多いため,認知機能検査の実施の際には手話通訳の資格を有する筆者が手話で検査を実施している.しかし,そこから得られた結果と実際の生活を観察した結果には乖離が認められることが多い.
手話は,音声言語・書字言語としての日本語とは異なる語彙,文法体系を持つ視覚的な言語である.両手を主な運動器官とし,同時に複数の意味を示すことができ,視線・表情・体の向きなども文法的機能を果たしている1).手話は日本語を手の動きで表したものではなく,日本語とは別言語であることから,手話—日本語間の問題は日本語—外国語間の問題と類似していると考えられる.浜田ら2)は,外国語話者の言語評価・訓練において担当者が対象言語未学習の場合,発話課題の正誤判断が難しく,翻訳版検査では十分に言語障害を検出できないと指摘しており,同様の問題が手話をコミュニケーション手段とするろう者に対する検査でも起こる可能性がある.また,滝沢ら3)は,聴者を対象に標準化された心理検査を単純にろう者に照らし合わせることはできないと報告している.
今回,高齢ろう者を対象にMini-Mental State Examination(以下,MMSE)を実施した経験から,手話を用いた場合の教示工夫やろう者に特有と思われる誤答について検討したので報告する.
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