言語聴覚研究 15巻4号 (2018年12月)

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 知的能力障害に自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)を伴った1例において対人コミュニケーション行動に変化を認めたので,その要因と対人コミュニケーション行動観察フォーマット(以下,FOSCOM)の臨床的応用について考察する.本症例は言語指示に応じることが困難であったが,認知・言語課題中にFOSCOMで得られた対人コミュニケーション行動の特徴を意識した働きかけを行った結果,対人コミュニケーション行動に変化を認めた.他者への注目を目的として,応答性は過剰行動の抑制,意思表示は過小行動の促進を意識した働きかけが,課題遂行態度の形成やコミュニケーション機能の拡大につながり,認知・言語発達促進の相乗効果によって変化したと示唆された.またFOSCOMは,対人コミュニケーション行動における根拠ある支援方法の検証などの臨床的応用が可能と示唆された.

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 近年,超高齢化に伴い,誤嚥性肺炎に罹患する患者は年々増加している.一般的な喉頭挙上にかかわる筋力強化訓練は実施上の配慮の必要な場合が多い.本研究では,簡易に行える構音訓練が喉頭挙上訓練として有効であるか,その効果について表面筋電計を用いて検討した.「カ」は「タ」や「ラ」と比べて舌骨上筋群の筋活動が有意に高く(p<0.01),嚥下おでこ体操と比較して舌骨上筋群の筋活動が同程度であることが明らかとなった.さらに,1か月後の訓練効果を比較した際,「カ」連続構音群では,水の嚥下で単位時間当たりの筋活動量の増加(p<0.05),および筋活動持続時間の短縮が認められた(p<0.05).これは,舌骨上筋群は主に「速筋」により構成されていると推察されることから,「等張性運動」に相当する「カ」連続構音群で訓練効果がみられたのではないかと考えた.このことから,「カ」連続構音訓練は喉頭挙上訓練として有効であることが示唆された.

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 語彙性判断課題は文字列の実在性を判定する課題であり,二重経路モデルでは文字単語の心的辞書である文字列レキシコンを参照して判断すると解釈されている.また,非語の刺激として同音擬似語を用いることで文字列レキシコンの機能を正確に評価できると考えられている.しかし,本邦の失語症検査には,同音擬似語が刺激群として設定されている語彙性判断課題が含まれていない.そこでわれわれは同音擬似語を含む漢字の語彙性判断課題を作成し,同一刺激を用いて語彙性判断課題と音読課題を実施した.健常者を対象とした実験では,英語圏で観察された同音擬似語効果と同様の結果が語彙性判断,音読の双方の課題で観察された.この結果は本検査の有用性を示すとともに,漢字の同音擬似語に対する語彙性判断において,非語彙経路で生成された音韻情報および意味情報が文字列レキシコンへ抑制的にフィードバックされていると解釈できた.

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 Angelman症候群(以下,AS)の児は,乳幼児期には哺乳障害や摂食嚥下障害を示し,学童期には未熟な咀嚼機能にとどまる場合が多い.しかし,離乳期AS児の摂食嚥下機能の獲得に関する報告は少なく,経過には不明な点が多い.今回,1歳から就学までの間,摂食指導を継続したAS児を経験した.症例の摂食嚥下機能の獲得時期を,粗大運動および認知・言語機能の発達の観点から診療録を後方視的に検討したところ,運動発達において四つ這い獲得後に舌挺出のない嚥下と捕食,伝い歩き獲得後に押しつぶし,独歩獲得後に咀嚼を獲得したが,口唇閉鎖が伴わず食塊形成は不十分であった.本児は定型発達とは異なり,運動発達が進んでから摂食嚥下機能を獲得したが,獲得された粗大運動は,両膝伸展位の座位や,手指屈曲位で手掌が接地しない四つ這いなど,定型発達とは質的な差があった.また,乳幼児期から口腔領域の感覚過敏が強く,就学前も感覚過敏は軽減したものの残存していた.

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 本研究では,音韻失読・失書と考えられた患者に,①仮名1文字の音読および書き取り課題,②実在語・非語の仮名音読および書き取り検査,③文字を使わない音韻操作課題(モーラ抽出能力検査,実在語・非語の復唱および逆唱),④言語性短期記憶の評価(数唱,標準言語対連合学習検査)を行い,音韻失読・失書の機序を考察した.①仮名1文字の音読および書き取り課題の正答率はいずれも約9割であり,軽度の文字-音素変換規則の障害が示唆された.②実在語に比し非語の音読および書き取りはいずれも不良であり,音韻失読・失書を認めた.③モーラ抽出能力検査の成績は良好であったが,非語の復唱,実在語および非語の逆唱成績は不良であり,著明な音韻操作障害を認めた.④数唱は低下していたが,標準言語性対連合学習検査の結果は良好であった.以上より,本例の音韻失読・音韻失書は,主に読み書きに限定されない音韻操作障害によって生じた可能性が示唆された.

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 脳血管障害患者の加療を行ううえで適切な嚥下評価を行うことは,患者のQOLを向上させ,誤嚥性肺炎の予防にもつながる.しかし,当院における嚥下評価は精密機器を用いない評価者の主観的評価にもとづいた定性的評価にとどまることが多く,より客観的な定量的評価の実施は少なかった.今回われわれは当院入院中の脳血管障害患者に対し嚥下造影を行い,定量的評価方法としてビデオ解析を用いた時間的解析法を使用し,口腔通過時間(oral transit time:OTT),喉頭挙上遅延時間(laryngeal elevation delay time:LEDT)を測定して脳血管疾患の嚥下障害の特徴を明らかにした.

 対象は平成26年8月1日から平成28年7月31日までに当院に入院した,咽喉頭に器質的疾患,認知症,てんかん,外傷がなく,今回初発の脳梗塞または脳出血患者であり,主治医が嚥下造影検査を必要と判断した患者22例(男性14例,女性8例,平均年齢75.1歳).

 結果として,正常群と比較して疾患群のLEDTが有意に延長していた.脳血管障害における嚥下障害の加療や方向性を考えるうえで重要であると思われた.

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 純粋失読を呈した1症例に対し,モバイル端末の文字認識・音声読み上げアプリケーション(以下,アプリ)を用いて読字の代償手段としての有効性を検証した.対象は70歳代の右利き男性で,約20年前に左脳内出血を発症し,後遺症として純粋失読,記憶障害,右同名半盲を認め,長文の読字が困難であった.アプリを使用した条件と非使用条件で,A4用紙に印刷された長文(平均353文字)の読解課題を8題実施し,所要時間と正答率を比較した.この結果,アプリ使用条件では非使用条件に比べて,読解成績は維持しながらも,所要時間は約3分の2程度に有意に短縮した.この結果から,モバイル端末の文字認識・音声読み上げアプリは本例のような読字障害に対して,有効な支援ツールとなることが示唆された.

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目次

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 今年の秋は暖かい日が続いていましたが,北風の到来とともに師走の季節となりました.

 本誌は発刊から15年が経過しますが,すべての言語聴覚障害領域を網羅する学術誌として幅広い領域の論文を掲載してきました.過去2年間に掲載された原著論文,症例報告,短報の障害領域を調べてみますと,最多が失語症・高次脳機能障害領域で13編,次いで摂食嚥下障害領域が11編,言語発達障害領域が5編,吃音領域が3編,発声発話領域が1編,聴覚障害領域が1編となっています.このうち約40%の論文が言語聴覚療法における評価・訓練・指導,予後予測などについて検討しており,残りの約60%が評価・指導・訓練法を開発するための基礎的研究の成果を報告しています.このほか,調査報告や現場最前線では言語聴覚士の業務実態などが報告されています.

基本情報

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言語聴覚研究
15巻4号 (2018年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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