糖尿病診療マスター 15巻2号 (2017年2月)

特集 低血糖—診療の現場からとらえ直す

Ⅰ総論

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POINT

・正常個体で生理的範囲を超えた血糖低下が低血糖,臨床症状を伴えば低血糖症という.

・低血糖症の確定診断はWhippleの三徴による.

・低血糖に伴う症状は血糖低下につれて副交感神経症状,交感神経症状,中枢神経症状と進む.

Ⅱ糖尿病の治療と低血糖

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POINT

・治療薬,治療法の進歩にもかかわらず,薬剤性重症低血糖症例は減少していない.

・患者の高齢化や孤立化が進行しており,個別の治療目標,治療法の選択と社会的サポートシステムの充実が必要である.

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POINT

・重症低血糖は,致死性不整脈,急性冠症候群(ACS)など死につながりうる危機的状況である.さらに,低血糖のみならず夜間の急激な血糖低下も,交感神経を介して心血管イベント発症に大きく関与していると考えられる.

・冠動脈疾患を伴った糖尿病患者では,夜間深夜帯の血糖変動を平坦化させ,同時間帯の交感神経を亢進させないような治療の選択が,心血管疾患発症阻止の観点からは重要である.

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POINT

・重症低血糖と睡眠中低血糖は,患者のQOLを低下させる.

・QOLの高い治療は,HbA1cなどの客観的指標を良好にする.

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POINT

・無自覚低血糖は低血糖時に自律神経症状を自覚できない病態である.

・運転時の無自覚低血糖対策は必須である.

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POINT

・高齢者糖尿病では,血糖コントロール目標を重症低血糖が危惧される薬物が含まれているかどうか,認知機能,ADLなどの評価結果に応じて設定する.

・低血糖・高血糖は認知機能低下,骨折,転倒に結びつく.

・薬物治療はそれぞれの特徴と個々の患者の高齢者総合機能評価を勘案して個別に選択する.

Ⅲ低血糖をきたすさまざまな病態への対応

インスリノーマ 中村 昭伸
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POINT

・インスリノーマは血糖が低値にもかかわらずインスリンが過剰に分泌されている病態であるので,低血糖時の血液検査で高インスリン血症を示すことが重要である.

・インスリノーマ治療の第一選択は腫瘍の外科的切除であり,手術不能なハイリスク例,悪性で転移例,局在診断不能例などでは薬物療法となる.

内分泌疾患に伴う低血糖 和田 典男
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POINT

・低血糖の原因疾患として,続発性副腎皮質機能低下症が重要である.

・ホルモン測定の結果を待たずステロイド薬の投与を開始することもある.

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POINT

・一般にインスリン抗体と呼んでいるのは,インスリン治療中に産生されるインスリン抗体のことである.

・インスリン治療がないのに自己インスリンに対して産生されるのをインスリン自己抗体と呼ぶ.

・インスリン自己抗体が病態の中心である疾患はインスリン自己免疫症候群である.

薬剤による低血糖 森 保道
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POINT

・薬剤による低血糖症は,アルコールが最も多く,そのほかに非ステロイド系抗炎症薬,シベンゾリン,ジソピラミド,ペンタミジンによるものなどがある.

・機序としては薬剤そのものが血糖低下作用を持つ場合と,薬剤が血糖降下薬の効果を増強する場合とに大別される.

・シベンゾリンは心房細動の治療などに用いる抗不整脈薬である.一部のKチャネル遮断効果があり,インスリン分泌増強を介して低血糖を生じることがある.

・腎排泄性であり,薬物代謝の遅延する高齢者や腎機能低下例では血中濃度の上昇を伴った中毒症状に注意が必要である.

・中毒症状は低血糖のほか,心室性不整脈,食思不振,全身倦怠感などの症候に留意する.

・同じIa群薬のジソピラミドも,同様に低血糖が報告されている.

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POINT

・空腹時意識レベルの低下で出現.

・空腹時低血糖であるにもかかわらず血中インスリン低値,血中CPR低値の時に疑う.

・腫瘍は大きなものが多く腺癌,線維腫,肉腫に多い.

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POINT

・虚偽性低血糖症は,患者が作為的に血糖降下薬を使用して低血糖状態をつくり出すもの.

・糖尿病患者でも非糖尿病者でも起こりうる.

・原因不明の低血糖症の鑑別には念頭に置く必要がある.

・インスリンアナログを投与した可能性がある場合は,インスリンアナログを測定できる試薬でインスリン値を測定する必要がある.

・精神神経科の専門家が加わったチームアプローチが必要.

新生児低血糖症 依藤 亨
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POINT

・新生児持続性低血糖症は,ほとんどが先天性高インスリン血症である.

・先天性高インスリン血症の治療予後は先進的医療により急速に改善した.

反応性低血糖 武田 昌也 , 中塔 辰明
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POINT

・食後約5時間以内のみに起こる低血糖.

・多くの例で,分食などの保存的療法が有効.α-GI内服も用いられる.

Perspective◆展望

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 私が大学で講義を受けた頃の糖尿病は,「診断基準としての空腹時血糖値は140 mg/dL以上,小児糖尿病,成人糖尿病という2つのタイプに大別され,日本人の糖尿病人口は150〜200万人程度……」という病気でした.糖尿病の治療薬としてはSU薬しかなく,どのように使い分けるかが重要であり,インスリンはウシやブタの製剤で,国家試験の問題集には,昭和50年代前半における糖尿病ケトアシドーシスのインスリン治療として「速効型インスリンを50単位皮下注し,50単位静脈内投与する」という選択肢が正解となっていました.

 しかし,糖尿病網膜症の出現という誰もが納得する糖尿病の臨床像をもとに空腹時血糖値7.0mmol/L(126mg/dL)という診断基準が策定され,糖尿病の病型も1型,2型と大別されました.糖尿病の患者数も増加し,1,000万人に届く勢いです.多くの薬剤が登場し,インスリンはアナログ製剤の独壇場となり,GLP-1受容体作動薬も広く使用されつつあります.著しい高血糖への対応として,インスリンの持続点滴を行うことは学生の間でも常識となっています.

糖尿病診療トレーニング問題集

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症例 75歳,女性.

既往歴・家族歴 特記すべきことなし.

糖尿病患者の口腔健康管理 はじめの一歩・2

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患者さんから情報を得るのはどこか

 どのような診療科であろうとも,受付を通さずにいきなり診察室で診ることは,緊急時あるいは搬送などによる場合でもない限りほとんどないと思われます.診察室で診る前に,必ずといった状況で,医療職でない方々が,診察を望まれて来院した患者と目を合わせて会話をしています.初診であれば,問診票や受付の方から「今日はどうなさいましたか?」あるいは「診察をお受けになりますか?」など,来院目的と主訴に近いお困りごとや気になることを聞き出しています.歯科医院ならば,来院された患者は「歯が痛くて」,「歯肉が腫れて」あるいは「血の味がして」など,医療機関に掲げられている診療分野について,話されるはずです.つまり内科の医療機関に行かれて,お口のトラブルについて,進んで話す方はいないはずです.内科だけでなく,眼科に行かれても同じはずです.

 ここで,初診でなく,再診の場合でしたらどうでしょうか? 事務的な対応での会話のみです.しかし,もしもかかりつけ医のところに再来されている方であれば,受付の場において,気づくこともあるのではないでしょうか.口元を押さえたり,自然とお口に手が近づく状態はほとんどの場合,口臭を気にされているか,歯並びを気にされている状況です.お口に問題があるとの推測が,この時点で疑えるようになったら,すばらしい受付担当ですが,誰も彼にも望むことはできません.しかし,重症化した歯周病患者では多くの場合,口臭が強めに出ており,ガラスで仕切られた受付でもなければ,気づかないことはないように思われます.せめて,日頃と違った態度を垣間見たならば,お声かけをしてみていただきたいと思います.

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 病気やけがの回復のための短期間(10日間未満)の安静による筋肉の廃用が健康に不都合な結果をもたらすとされています.長時間の不動の疾患モデルで筋肉廃用性萎縮に関するデータが得られていますが,多くは7日未満の入院に限られたものです.最近,著者らは,たった2.3日の廃用が筋肉量や筋力を低下させることを示しています.このような10日未満の短期間のベッド上安静や不動が,筋肉量減少や生涯の代謝低下へつながります.長期廃用後の代謝障害は耐糖能障害やインスリン感受性低下,安静時脂肪酸化の低下,ミトコンドリアの活性酵素種増加,基礎代謝の低下をきたすことがよく知られています.代謝機能低下が将来の疾患罹病率,死亡率増加と直結していることも知られています.廃用により筋肉が減り脂肪量が増加し,血糖処理能力が低下すると考えられています.ところが,体組成の変化ではこれらの代謝変化を説明できることはわずかで,体組成変化が明らかになるより前にインスリン感受性低下は起こっているのです.代謝正常化のカギはインスリン抵抗性です.脂質の過剰供給下でのインスリン抵抗性は骨格筋での脂質蓄積と関連があるといわれてきました.ジアシルグリセロール(DAG)やセラミド,長鎖脂肪アシルCoAがインスリンシグナルを障害すると示されています.さらに,廃用性筋萎縮やインスリン抵抗性によりミトコンドリア含量や機能が低下するともいわれています.さらに,細小血管大血管障害が末梢インスリン抵抗性と関連するともいわれています.このように,短期間のベッド上安静でインスリン抵抗性が生じる機序にはさまざまな要因が考えられています.

 この研究では,筋肉萎縮をもたらす廃用性によりインスリン抵抗性が起こる機序を解明しようとしています.10人の健康な若年男性(平均年齢23±1歳,BMI 23.0±0.9kg/m2,空腹時血糖5.7±0.2mmol/L,空腹時インスリン7.2±1.8mU/L,HbA1c 5.1±0.1%,安静時代謝率7.2±0.2MJ/day)に1週間,ベッド上安静を強いています.排泄行為もベッド上で行ってもらいます.ベッド安静の前後で除脂肪量をDEXA(二重X線吸収法)で,大腿四頭筋横断面積(CSA)をCTで,最大酸素摂取量(VO2peak)と脚力を測定しました.全身インスリン感受性は,高インスリン血漿正常血糖クランプ法で測定しました.さらに,筋肉の脂質蓄積含量やミトコンドリア機能マーカーや血管含量を評価するために筋肉生検を行っています.大切なことは,過剰摂取による影響を除外するため,食事エネルギーを調節しています(表1).

糖尿病に効くコーチング 明日から始めてみませんか?・2

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ビジネスコーチングへの反発

 みなさん,初めまして.連載第2回を担当する最上輝未子です.

 私はもともと薬剤師です.紆余曲折を経て2000年にコーチングに出合い,それ以来,プロコーチとして多くの方々の目標達成をお手伝いしています.2008年からはNPO法人ヘルスコーチ・ジャパンを立ち上げ,「ひとり一人の基盤づくりを通して組織と社会の元気づくりに貢献する」を理念に掲げ,全国にいる100名弱の仲間とともに東京・大阪・福岡で,一般向けのコーチング講座を開講しています.

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 私が専門医をめざし臨床で修練をしていた時代,コンパクトにその領域の知識や情報をまとめてくれた本がどれだけ欲しかったことか.今でもそういう要望を持つ研修医やレジデントは多い.これまでその課題解決を目標に多くの本が出版されてきたが,満足するものがほとんどなかったのが現実である.

 『がん診療レジデントマニュアル』の初版は1997年にさかのぼり,以来20年,国立がん研究センターの若手医師・レジデントが,実際に自分たちにとって役に立つ,欲しい・知りたい情報を徹底的に書き込んで作ってきた.幸いこれまで非常に高い評価を得ている.がん診療に関わる情報はこの間,指数関数的に増え,膨大なものとなった.このたび出版された第7版は,そのような状況にありながら,がん診療の基本——インフォームドコンセントや臨床試験,がん薬物療法の考え方から,各がんの診療に必須の医学知識や情報,診断・治療法,薬剤情報を網羅し,しかもコンパクトである.確かにこれほどよくまとまった本はない.

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糖尿病診療マスター
15巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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