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病気やけがの回復のための短期間(10日間未満)の安静による筋肉の廃用が健康に不都合な結果をもたらすとされています.長時間の不動の疾患モデルで筋肉廃用性萎縮に関するデータが得られていますが,多くは7日未満の入院に限られたものです.最近,著者らは,たった2.3日の廃用が筋肉量や筋力を低下させることを示しています.このような10日未満の短期間のベッド上安静や不動が,筋肉量減少や生涯の代謝低下へつながります.長期廃用後の代謝障害は耐糖能障害やインスリン感受性低下,安静時脂肪酸化の低下,ミトコンドリアの活性酵素種増加,基礎代謝の低下をきたすことがよく知られています.代謝機能低下が将来の疾患罹病率,死亡率増加と直結していることも知られています.廃用により筋肉が減り脂肪量が増加し,血糖処理能力が低下すると考えられています.ところが,体組成の変化ではこれらの代謝変化を説明できることはわずかで,体組成変化が明らかになるより前にインスリン感受性低下は起こっているのです.代謝正常化のカギはインスリン抵抗性です.脂質の過剰供給下でのインスリン抵抗性は骨格筋での脂質蓄積と関連があるといわれてきました.ジアシルグリセロール(DAG)やセラミド,長鎖脂肪アシルCoAがインスリンシグナルを障害すると示されています.さらに,廃用性筋萎縮やインスリン抵抗性によりミトコンドリア含量や機能が低下するともいわれています.さらに,細小血管大血管障害が末梢インスリン抵抗性と関連するともいわれています.このように,短期間のベッド上安静でインスリン抵抗性が生じる機序にはさまざまな要因が考えられています.
この研究では,筋肉萎縮をもたらす廃用性によりインスリン抵抗性が起こる機序を解明しようとしています.10人の健康な若年男性(平均年齢23±1歳,BMI 23.0±0.9kg/m2,空腹時血糖5.7±0.2mmol/L,空腹時インスリン7.2±1.8mU/L,HbA1c 5.1±0.1%,安静時代謝率7.2±0.2MJ/day)に1週間,ベッド上安静を強いています.排泄行為もベッド上で行ってもらいます.ベッド安静の前後で除脂肪量をDEXA(二重X線吸収法)で,大腿四頭筋横断面積(CSA)をCTで,最大酸素摂取量(VO2peak)と脚力を測定しました.全身インスリン感受性は,高インスリン血漿正常血糖クランプ法で測定しました.さらに,筋肉の脂質蓄積含量やミトコンドリア機能マーカーや血管含量を評価するために筋肉生検を行っています.大切なことは,過剰摂取による影響を除外するため,食事エネルギーを調節しています(表1).
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