日本内視鏡外科学会雑誌 14巻5号 (2009年10月)

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◆要旨:当科では待期手術が可能な腸閉塞症例に対し,Multidetector-row Computed Tomography(以下,MDCT)を用いたガストログラフィン造影CTにて癒着部位の同定を行っている.同法を用いて腹腔鏡下腸閉塞手術を施行した5例を経験したので報告する.対象:2005~2007年までに経験した腸閉塞手術症例15例のうち,腹腔鏡下手術を施行した5例とした.方法:術前に経口的または経イレウス管的にガストログラフィンを内服または注入し,数時間後にCTを撮影し,閉塞機転を同定した.結果:全例,閉塞機転は術前に評価した部位と一致した.結語:MDCTによる術前評価を行うことにより閉塞機転の同定が可能であり,腹腔鏡下手術に有用であると考えられた.

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◆要旨:患者は14歳,男児.3週間来の腹痛にて来院した.腹部超音波検査,CT検査にて腹部腫瘤を認め,横行結腸まで及ぶ腸重積を認めた.注腸での整復は困難であった.先進部精査も含めて大腸内視鏡検査を施行した.横行結腸に4cm大の腫瘍性病変を先進とする腸重積を認め,盲腸部まで整復し得た.回腸腫瘍を先進部とする腸重積の不完全整復のもとに,手術を施行した.腹腔鏡にて回腸の腸重積を認め,回盲部を授動後,小開腹して腸重積を徒手整復した.腫瘍は漿膜面にひきつれを伴う悪性腫瘍と診断し,回盲部切除術を施行した.術後の病理診断は悪性リンパ腫であった.腸重積を伴う回盲部腫瘍の診断,治療に大腸内視鏡および腹腔鏡下のアプローチは有用と考えられた.

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◆要旨:患者は50歳代,女性.2005年5月下旬,腹部膨満,嘔吐を繰り返すため,当院を受診した.腹部X線,CTにてイレウスと診断し,緊急入院となった.入院当日にイレウス管を挿入し,挿入第3日目に腹部症状が軽快したためにイレウスの原因の検索と治療目的に腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察すると,左子宮広間膜の異常裂孔に小腸が約30cm嵌入していることが確認されたためにこれを解除し,裂孔は体内結紮にて閉鎖した.嵌入していた小腸に壊死像はなかった.術後経過は良好で,患者は,術後第11病日目に退院した.術前診断が難しい稀な本疾患に対して,腹腔鏡下手術は診断と治療を兼ね備えた有用な術式であることが示唆された.

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◆要旨:患者は60歳代,女性.下血を主訴に当院を受診した.上部消化管内視鏡検査,下部消化管内視鏡検査を施行したが,出血源は不明であった.出血シンチグラフィー検査,血管造影検査にて下部小腸からの出血と診断した.重度の貧血があり血圧の維持が困難であったために緊急手術を施行した.術中腸管外から出血部位は確認できなかった.腹腔鏡にて腹腔内を観察し,適切な位置かつ最小限の開腹創から小腸を創外へ取り出した.腸管に小切開を加えて内視鏡を挿入し,病変部位を確認したうえでクリップにて止血を行った.腹腔鏡下手術に併用した内視鏡が小腸出血に対する治療の選択肢の1つとして考えられた.

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◆要旨:腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行したスポーツヘルニアの1例を報告する.患者は63歳の男性で若い頃は野球選手であった.ソフトボールで全力疾走すると右鼠径部痛を発症し,安静で軽快することを繰り返していた.近医で保存的治療が行われたが軽快しなかったために当院を受診した.現病歴,理学的所見からスポーツヘルニアを疑い手術を行った.腹腔鏡の観察で結合腱に裂孔を認めたためスポーツヘルニアと診断し,経腹腔的腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を行った.術後の経過は良好で術後2日目に退院した.術後1か月目からソフトボールを開始しているが,症状の再発は全くない.

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◆要旨:患者は49歳,男性.左鼠径部の膨隆と貯尿時の鼠径部痛を主訴に近医を受診し,左鼠径ヘルニアの診断で当院を紹介され受診した.立位で膨隆し,臥位で消失する腫瘤を左鼠径部に認めた.腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行し,脱出臓器は膀胱と考えられた.術中に膀胱損傷をしたが,腹腔鏡下で1層で縫合し,ヘルニアはメッシュにて修復した.術後膀胱造影検査で明らかなリークはなく,第2病日目に退院した.術後3日間ほど肉眼的血尿を認めたが自然軽快した.貯尿時の鼠径部痛も軽快した.

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◆要旨:術前診断した高度慢性胆囊炎を有する左側胆囊結石症に対する腹腔鏡下胆囊摘出術を経験した.患者は75歳,女性.右季肋部痛を主訴に近医を受診した,超音波検査で胆囊結石症と診断され.DIC-CT所見にて肝内胆管の走行異常とともに左側胆囊と診断された.手術は4孔吊り上げ式で施行し,腹腔内所見でも左側胆囊を確認した.炎症が高度な萎縮胆囊で,胆囊摘出術は難渋した.2mmポートを肝円索把持用に使用し,圧排用鉗子で十二指腸・大網を押さえることが視野展開に有効だった.胆囊摘出術は順行性に行い,胆囊頸部を一度横断し,結石・胆囊組織を回収袋に回収し,術中胆道造影検査で胆管走行を確認し,胆囊摘出を完了した.難易度が高い左側胆囊症例でも,正確な術前診断,種々の工夫により安全に施行できた.

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◆要旨:現在,肺結核症に対する治療は抗結核薬による化学療法が主軸であるが,多剤耐性肺結核症に対しては術前術後の化学療法に加え,外科治療を加えた集学的治療が有用である.今回,多剤耐性肺結核症に対する胸腔鏡補助下肺葉切除術を施行し,治癒した症例を報告する.適切に症例を選択すれば,低侵襲な胸腔鏡下での肺切除は可能であり,術後の回復も早く,社会復帰の側面においても有用と考えられた.

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◆要旨:筆者らは,腹腔鏡補助下胃切除術における術式の定型化とランドマーク設定を行っている.今回,総肝動脈が門脈背側を走行する症例を術中に把握し,安全に手術を遂行できたので報告する.胃角部前壁の早期胃癌に対して腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行した.No.8aリンパ節郭清の際,膵上縁に総肝動脈が認められずAdachiⅥ型の血管走行バリエーションを考慮したが,ランドマークを順次同定し手術を進めることで,安全に手術を遂行することができた.胃癌に対する胃切除術に限らず,腹腔鏡下手術の場合,どのようなバリエーションに対しても解剖誤認を起こさないために,術式の定型化とランドマークの適切な設定が重要である.

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◆要旨:イレウス管の気管内への誤挿入により気胸を生じ,胸腔鏡下手術(video-assisted thoracic surgery:以下,VATS)にて良好な経過が得られた症例を経験した.患者は68歳,男性.2006年9月,胃癌術後のイレウスにより,近医にて透視下にイレウス管を挿入中,咳嗽と呼吸困難が出現し,胸腔内へのイレウス管の逸脱を認めた.医原性気胸と診断され,当院に救急搬送された.当院にてトロッカーを挿入すると,著明な気漏を認めたため,VATSにて緊急手術を施行した.右S8~S9境界付近に損傷部を認めたが,出血はなく,損傷部を自動縫合器にて切離した.翌日,胸腔ドレーンを抜去し,術後14日目にイレウスも改善したため,退院となった.汚染が予想される医原性気胸は,VATSによる手術も有効な手段の1つと考えられた.

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◆要旨:患者は43歳,男性で,反復する腹痛を主訴に来院した.初診時の腹部CT検査では小腸重積を示唆する腸壁の重複像と先進部の脂肪濃度の腫瘤像が認められた.小腸造影では空腸に直径6cmの分葉状の軟らかい腫瘍を認めたが,それより肛門側の造影は不良であった.ダブルバルーン内視鏡施行時には重積は解除されていたが,軟らかい粘膜下腫瘍が確認され脂肪腫による腸重積と診断した.術中腹腔鏡による観察では約40cmにわたる空腸の再重積が認められ,腹腔鏡下に整復した.先進部の腫瘍を小切開創から腹腔外に引き出したところ脂肪腫が多発していたため,空腸を約7cm切除した.術前に脂肪腫と診断し得たことにより,腹腔鏡下手術で低侵襲に治療した1例を報告する.

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◆要旨:患者は54歳,女性.近医にて膵頭部腫瘍を指摘され,精査加療目的にて当科に入院した.US・CT・MRI検査から膵頭部のsolid pseudopapillary tumor(以下,SPT)が疑われた.手術は膵機能温存と手術侵襲を考慮し,腹腔鏡下膵腫瘍核出術を施行した.術中所見では腫瘍は膵頭部に半球状に存在しており,膵組織との境界は明瞭であった.術中迅速病理検査にてSPTと診断した.術後経過は順調で,膵機能も温存され,術後第8病日に退院した.SPTは若年女性に好発し,多くは予後良好な腫瘍である.SPTに対する腹腔鏡下腫瘍核出術は低侵襲であり,膵機能温存という点においても有用であり,考慮すべき術式と考えられた.

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◆要旨:結核性腹膜炎は比較的稀な病態だが,不明熱,慢性的な腹部症状の原因として重要である.ツベルクリン反応,腹水塗抹,PCR法など一般的な結核に対する検査法では診断が困難であり腹腔鏡による診断が有効である.当院では過去十年間に2例の結核性腹膜炎を経験したが,いずれもツベルクリン反応,腹水塗抹検査,PCR法では確診に至らず腹腔鏡下生検により診断が確定できた.そのうち1例は6か月の抗結核療法後も炎症所見が遷延したために再度腹腔鏡検査を行い著明な改善を確認した.結核性腹膜炎の診断,治療効果判定に対する腹腔鏡検査の有効性につき若干の文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:患者は12歳,女児.腹痛・嘔吐を主訴に当院を受診した.右下腹部に手拳大の腫瘤を触知し,造影超音波検査で約4cmの小腸ポリープを先進部とした腸重積症と診断し手術を施行した.腹腔鏡下にて腹腔内を観察すると,トライツ靭帯より約100cm肛門側の空腸に腸重積を認めた.空腸重積部は体外にて用手整復し,先進部の小腸ポリープを含めて,空腸部分切除術を施行した.小腸腫瘍の術前質的診断に造影超音波検査は有用であった.腹腔鏡は,病変の診断および適切な開腹位置の決定に役立ち,手術創を無駄に大きくすることなく低侵襲であることから大変有効であると考えられた.

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◆要旨:十二指腸癌に対する腹腔鏡下十二指腸部分切除術の1例を報告する.患者は79歳,男性.近医で施行された上部消化管内視鏡検査で十二指腸癌と診断された.内視鏡検査所見では径15mm大のIs型腫瘍で生検にてadenocarcinomaと診断された.超音波内視鏡検査で第3層の一部が不明瞭であった.腹部CT検査では原発巣は同定困難で転移所見はなく,転移のない深達度smの十二指腸癌と診断し腹腔鏡下十二指腸部分切除術を施行した.腫瘍は球部の下壁から後壁に位置し腹腔鏡下に全層を部分切除した.手術時間は202分,出血量はカウント外少量であった.術後合併症はなく第7病日に退院した.病理検査所見はadenocarcinoma(pap-tub1),15×12mm,m,ly0,v0であった.十二指腸癌に対する術式は確立されていないが,症例によっては腹腔鏡下手術は有用な術式と考えられる.

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◆要旨:腹腔鏡下胃切除の対象は早期あるいはそれに類似する進行胃癌が多く,長期QOLに配慮した迷走神経温存術式の選択が望ましい.迷走神経は通常その前幹肝枝と後幹腹腔枝を温存するが,これまでの腹腔鏡下手術での腹腔枝温存法はかなり煩雑であった.このため腹腔鏡下手術で腹腔枝を簡便に温存する新しい術式を考案した.2005年に筆者らが独自に開発した左胃膵ひだに対する左側アプローチ法を利用して左胃動脈の根部で腹腔枝を同定し,そこから中枢に向ってこれを追及して温存する方法である.この方法をこれまで迷走神経温存を計画した304例に行い全例で確実に温存が可能であった.その工夫などについて紹介する.

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◆要旨:腹腔鏡下大腸切除術(以下,LAC)における体位変換は,大網や小腸を排除し良好な術野を展開する方法の1つとして重要である.当科で過去14年間に施行したLAC症例340例中2例(0.6%)に上肢の神経障害を認め,内訳は正中神経麻痺(1例),撓骨神経麻痺(1例)であった.いずれの症例も術直後から上肢のしびれや麻痺が出現し,その原因は手台からの上肢落下,術中の神経圧迫と推測された.この2症例の経験から,筆者らが独自に作製した上肢固定具に改良を加え,現在行っている安全かつ容易な体位固定の工夫について報告する.

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はじめに  本年のSociety of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons ; SAGESは,4月22日から25日までの4日間,Arizona州,Phoenixで開催された.

 私は,SAGESの第2日目に開催される恒例の世界内視鏡外科学会連盟(International Federation of the Societies of Endoscopic Surgery ; IFSES)のExecutive Board Meetingに出席のため,学会前日から現地入りすることにしているが,今回は第1日目のプログラムに興味をそそるものがなかったこともあって,前から一度は経験したいと考えていたCadaverを使っての“Laparoscopic Colorectal Surgery Hands-On Course”にSeparate registration fee ; 900 USDをon-lineで納入して出席することにした.

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欧文目次

EVENT NEWS

「日本内視鏡外科学会雑誌」投稿規定

著作権譲渡同意書ならびに誓約書

編集後記 伊熊 健一郎
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 腹腔鏡下手術が今日のように広く普及した切っ掛けの一つに,1978年にイギリスで成功した“体外受精”第一号で誕生したルイーズちゃんのことが挙げられます.それまで卵管の障害で妊娠が絶望的であったものが,腹腔鏡で卵巣から採取した卵と精子とを培養器内で受精させ,その受精卵を子宮内に移植することで,カップル間の子供を宿すことを可能にした画期的な出来事でした.当時は“試験管ベビー”と呼ばれたりもしました.その彼女も28年後の2006年12月に自然妊娠で母親となりました.国内での体外受精第一号は,遅れること5年後の1983年でした.生殖医療の進歩・発展は目覚しく,国内でも,1999年には出生数1,177,670人に対し体外受精出生数が11,119人(0.94%)と1万人を超え,その後も年々増加し,2006年には出生数1,092,670人に対し19,578人(1.79%)と,実に55人に1人がその恩恵を受けているのが現状です(資料:出生数は厚生労働省「人口動態統計」,体外受精出生数は日本産婦人科協会報告より).

 “体外受精”当初の腹腔鏡は,術者1人が直接接眼レンズを通して観察するもので,他の関係者の観察には,接眼部に別のスコープを接続して見るものでした.この成功の背景には,1980にはいり腹腔鏡下に虫垂切除術をしたドイツの婦人科医Semmの業績がありました.しかし,1985年以降は,経腟超音波下での採卵法が開発され,腹腔鏡の出番はなくなりました.一方,その頃にCCDカメラや光学機器の開発でスタッフ全員が術者と同じ映像を共有できるシステムが登場.1987年にはフランスの婦人科医でもあるMouretによる腹腔鏡下胆囊摘出術につながりました.手術界の大革命の幕開けとして,1990年前後から全世界の外科医が腹腔鏡下手術の可能性に向かって突き進み,国内でも2007年には年間10万件を超えるに至っております(日鏡外会誌13:500,2008).

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
14巻5号 (2009年10月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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