日本がん看護学会誌 29巻3号 (2015年12月)

  • 文献概要を表示

要旨

 本研究は,造血器腫瘍患者のギアチェンジを支える看護師の構えを明らかにし,看護の示唆を得ることを目的とした.がん看護領域で5年以上,造血器腫瘍患者のケアに携わった3年以上の臨床経験のある看護師9名を対象に半構成的面接を行い,データを質的帰納的に分析した.

 その結果,造血器腫瘍患者のギアチェンジを支える看護師の構えにおける認識として,【患者・家族が生死と向き合う有り様】【患者・家族の悲愴な思いの存在】【患者を混迷させる緩和治療】【家族の存在意義】【患者・看護師関係の重要性】【望ましい最期の実現に向けた決意】【ギアチェンジを支えられないもどかしさ】,行動として,【人生の岐路に関わる覚悟を固める】【生き方の決断過程にタイミングよく働きかける】【ギアチェンジに向き合う力を引き出す】【その人らしい生き方を支える】【その人らしく生きる策を医療者で探索する】【パートナーシップを築く】【ギアチェンジを支える準備性を高める】のそれぞれ7の大カテゴリーが抽出された.

 看護師は,ギアチェンジ期の造血器腫瘍患者の状況を掴み,その状況を踏まえて生じた看護師の肯定的な考えと否定的な感情を原動力として,患者の人生の岐路に関わる覚悟を固め,患者自身が生き方を決断できるように,患者の力の発揮を促したり患者の力を発揮しやすい環境を整えたりして,ギアチェンジを支えると考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨

 本研究の目的は,肺がん手術後の身体的不快症状の実態とそれらが生活に及ぼす影響について,退院時から術後6カ月までの経時的推移を明らかにすることである.術後肺がん患者41名(平均年齢67.0歳)を対象とし,自記記入式質問紙法と診療録からデータ収集を行った.

 分析の結果,肺がん手術後6カ月を経過しても約6割の患者が2つ以上の不快症状を抱えていた.創部に関連する不快症状は,退院時は創部表面の訴えが最も多く,術後1カ月以降は創部内部の訴えへと変化した.創部以外の不快症状は,術後1カ月以降では半数以上の患者に術後の息苦しさが出現しており,経時的変化はみられなかったが,術式や喫煙経験により日常生活への影響の程度に関連がみられた.また術後1カ月が経過しても,術後術側急性肩部不快症状が約17%の患者に存在し,術後6カ月が経過しても約半数の患者に咳嗽が出現していた.

 以上より,患者へ術後出現する可能性のある不快症状の回復過程やその機序に関する情報提供を行い,患者自身に不快症状に対するセルフモニタリングの実施を促し,自らの症状に対する認識を深めることで,セルフケア支援へと繋げる必要がある.今後は,患者の不快症状体験を加味した周手術期肺がん看護プログラム開発の必要性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨

 本研究の目的は,初回治療段階にある中年期の悪性神経膠腫患者の体験のゆらぎの様相を明らかにすることである.悪性神経膠腫で初回治療中である40〜50歳代の患者5名を対象に半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づき分析を行った.

 その結果,対象者は【脳腫瘍は驚怖】と感じながらも,【治療に賭ける】強い決意を持ち治療に臨んでいたが,終(つい)には【脳腫瘍による崩壊】という生きること自体の危機を体験していた.さらに,家族や周囲の人々との相互作用による【存在価値の迷い】は,いく度も繰り返す【変化した外見への動揺】と【同病者との相互作用の光と影】の《同病者との同一視による辛さ》の影響を受けゆさぶられ,アイデンティティはゆらぎ,不確かなものになっていた.一方,【同病者との相互作用の光と影】の《同病者は一筋の光で救い》により勇気づけられ,価値の転換といえる【今後の生き方を模索する】自分を認識していた.この体験は,脳腫瘍による生きること自体の危機という,非常に強大でゆらぎがないネガティブな体験が根底に存在するからこそ,アイデンティティの均衡を保持するようにゆらぐことで,いっそう複雑で混沌とした様相を呈していたと考えられる.

 中年期のアイデンティティの危機にゆらぎながらも懸命に自分らしく生きることを模索する患者と家族をともに支え,思いに沿った看護支援の必要性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨

 本研究の目的は,乳がん体験者が運動を生活の中に取り入れていくプロセスを明らかにすることである.外来通院中で運動をしていない乳がん体験者24名に対し,6カ月間の運動支援と運動の実施状況や運動を継続する認識について,半構成的面接を平均11.4回実施した.主たる支援は,乳がんの再発や副作用に対する運動の予防効果の情報提供,電話支援1回/週/2カ月,歩数計の配布,運動日記を用いた振り返りである.さらに,調査開始時に運動を継続している乳がん体験者15名には,運動の影響要素や運動継続の認識について半構成的面接を行った.面接内容は,逐語録を作成して質的帰納的に分析した.

 結果,乳がん体験者が運動を生活に取り入れていく意識と行動の変化には,「知識獲得後移行型」「自信獲得後移行型」「非移行型」の3つの運動行動パターンがあった.まず1つ目に,乳がんの再発や副作用に対する運動の予防効果の情報提供だけで運動を生活に取り入れ継続するという信念(以下,運動信念)に移行できる「知識獲得後移行型」,2つ目は徐々に自信を獲得し運動信念に移行できる「自信獲得後移行型」,3つ目は運動の予防効果を知っても再発の不安などで運動に思考が向かず,運動信念へ移行できない「非移行型」である.運動を継続するには乳がん体験者が生活の中で歩く方法を自ら見出し,運動を継続するという信念をもつことが重要であった.運動支援として,乳がん体験者が生活に取り入れる運動行動パターンに応じた個別的な支援をすることが重要である.

  • 文献概要を表示

要旨

 研究の目的は,前立腺全摘除術を受けた既婚男性の治療に伴う気持ちの変化を明らかにすることである.Modified Grounded Theory Approach(M-GTA)に沿い,研究対象者8名よりデータ収集し分析した.

 結果,彼らは診断より【どうすればいいか分からない】と衝撃を受けるが,病気の特徴を知ることなどにより,【自分の病気はたいしたことない】安堵の気持ちに至り,【じっくり治療法を選びたい】【前立腺全摘除術を受けたい】へ変化した.治療選択では,【男ゆえに尿漏れは避けたい】と【性機能は諦めたくない】の気持ちが影響し【他の治療法を考えたい】に至った.【性機能は諦めたくない】は【性機能障害は仕方がない】へ変化し,【自分だけじゃない】気持ちとともに,【前立腺全摘除術を受けたい】へ気持ちが変化する際に影響を与えた.

 そして,術前の【男ゆえに尿漏れは避けたい】は,術後には【尿漏れをなんとかしたい】から,【尿漏れは苦にならない】へ変化し,妻に援助を求める気持ちも含まれていた.対照的に,妻と話し合うことを避けたいとする【性機能障害はあえて触れない】気持ちは持続した.また,術前に【性機能は諦めたくない】【性機能障害は仕方がない】【性機能障害はこだわらない】の気持ちをもち,術前の【性機能は諦めたくない】と【性機能障害は仕方がない】は術後【失った性機能は惜しい】へ変化した.

 明らかになった気持ちの変化より,彼らへの病気の特徴の理解を促進する援助と尿漏れを理解し対策がたてられる援助が,看護への示唆となった.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 前立腺悪性腫瘍(以下,前立腺がん)は,世界的に罹患率の高いがんである.独立行政法人,国立がん研究センターがん対策情報センターによると,2008年のデータでは男性がんの中で前立腺がんの罹患数は第4位であり,年代別にみても前立腺がんの罹患率は60歳代以降急増している1).前立腺がんの治療法としては,ホルモン療法,放射線療法,手術療法などが確立されている.A大学医学部附属病院泌尿器科では前立腺がんに対する手術療法の1つとして2010年10月にDaVinci Sergical Systemを用いて行われるロボット支援下根治的前立腺全摘除術:robot-assisted radical prostatectomy(以下,RARP)を導入し,すでに約170例(2013年12月)の実績を上げている.RARPは,立体画像を見ながら手術ができ,ロボットアームの動きの自由度の高さにより繊細かつ迅速な手術操作を容易に行うことができるという特徴がある.RARPは2012年4月から保険収載された先進医療の1つである.A病院では,保険適応となる前から待機患者は多く,RARPに寄せられる患者の期待の大きさがうかがえる.

 手術療法を受ける患者は,生命を脅かすがんという病に罹患したというストレスと,さらに手術療法を受けるという二重のストレス状況におかれている.

 一般的にがん看護では,心理的・身体的・社会的側面への援助が非常に重要になる.

 前立腺がん看護分野においても,先行研究2)では根治的前立腺全摘除術を受ける患者が術前に抱く思いが明らかにされている.しかしながら,これらに影響を与える要因については報告されていない.また,前立腺がん患者のquality of life(以下,QOL)に焦点を当てた研究3)や術後の機能障害に関する研究4)や前立腺摘除術や前立腺がん密封小線源療法を受けた患者の心理に関する研究5)6)は散見するが,RARPを受ける患者の心理的側面について,看護学の視点で調査した研究はまだ少ない.そこで,RARPを受ける患者の心理的適応に関して心理的・身体的・社会的問題が,なんらかの影響を与えているのではないかという仮説を立てた.DaVinci Sergical Systemは現在のところ日本国内で限られた医療機関にしか導入されておらず,ロボット支援下の先進医療という特徴もあり,患者の手術に対する期待度も高い.今後もDaVinci Sergical Systemを導入する施設が増え,手術件数の増加が予想される.そこで,RARPを受ける患者の心理的適応に関連する要因を多面的に明らかにすることは,RARPを受ける患者の看護介入を検討するうえで貴重な資料となりうる.心理的適応の指標として,ガンサバイバーシップの概念に基づいて考えるうえでは,患者が自覚している感情や身体的問題をより広義に捉える必要がある.そこで本研究では,RARPを受ける患者の心理的適応に関して社会的背景や,心理的側面として気分状態に加え,身体的側面として排尿に関するQOLがどのように関連しているかについて明らかにすることを目的とした.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒 言

 乳がん治療関連リンパ浮腫(breast cancer treatmentrelated lymphoedema;BCRL)は慢性進行性の病態であり,浮腫の発症や悪化を予防するために生涯セルフケアを必要とする1).Ridnerらの系統的レビューによると,BCRLセルフケアで効果があると考えられるのは全身運動と第2相複合的治療である1).第2相複合的治療は,用手的リンパドレナージ(manual lymphatic drainage;MLD),セルフリンパドレナージ,スキンケア,圧迫療法,エクササイズおよびリンパ浮腫予防行動などのケアを複合的に実施することで効果があると考えられているが,それぞれのケアの効果は明確になっていない.特にMLDは,系統的レビューでリンパ浮腫緩和効果がない,または小さいことが報告されている2)3).MLDは,複雑かつ時間を要するため,セルフケアに対する負担感が増加する可能性がある.患者は時間,エネルギー,知識,動機づけの不足などからセルフケアに負担を感じ4),セルフケアに対するアドヒアランスは良好ではないという報告がある5).良好なセルフケアアドヒアランスは,知識,自己効力感,ストレス対処に対する自律能力などと関連6)しており,これらの要素とリンパ浮腫緩和に有効な要素を含むBCRLセルフケアプログラムが必要である.

 これらの背景から,有永らは,BCRL患者用に改変したラジオ体操第17),太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ8),首,肩から鎖骨窩周辺に向かってリンパ液をドレナージする中心リンパクリアランス,スウィートアーモンドオイル+0.5%グレープフルーツ精油を用いたセルフリンパドレナージ(SLD)(アロマセラピードレナージ)で構成する1日約10分の簡易なBCRLセルフケアプログラムを開発した.その後,BCRLに対する3カ月間の本セルフケアプログラムの効果検証を実施した結果,有意に患側上肢体積およびリンパ浮腫関連症状が減少した9).一方で,患側上肢体積が増加した事例もみられた.3カ月後の患側上肢体積の増減に影響した要因の解明は,今後どのような患者に対してどのような付加的なケアが必要か,個別的なセルフケアの教育内容を検討するうえで重要である.

 以上の理由から,3カ月後の患側体積変化とベースラインにおける患者特性との関連について2次解析を実施した.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒 言

 生涯のうちにがんと診断されるのは,男性の2人に1人,女性の3人に1人といわれ,すべてのがんを含めた5年生存率は56.9%,胃・大腸がんは60%以上,乳がんは80%以上である1).この状況を受けてがん対策推進基本計画では,2007年からの10年目標に,「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が加わり,がん患者の就労を含めた社会的な問題への取り組みが明言化された2).がんサバイバーとは,がんと診断された時からその生涯を全うするまでを意味する3)ことから,治療の時期,長期生存の時期,再発,終末期に至るまで,就労や社会で担う役割上の問題点を解決できるよう支援が必要である.

 がんサバイバーの就労問題については,外来がん化学療法や手術体験者を対象にした研究が多く,職場復帰時期の判断は,医療者から受けた説明よりも患者自身が職務内容などで判断しており4)〜7),肺がん術後患者では,2週間以内から3カ月以上と幅がある8).海外の報告では,乳がん患者で約6カ月,泌尿器がん患者で5週間と,がん種による職場復帰時期の差を認めた9).このように,実際の復帰時期は医療者の考える復帰時期と異なり,その時期にも大きな幅があることがわかる.治療による有害事象や障害が,患者の仕事内容にどのように影響を与えているか,職場との関係づくりを行ううえで必要な情報は何かを,医療者側が理解し,積極的に介入する必要がある.

 Shortら10)の報告では,5人に1人のがんサバイバーが治療中にがんに起因した障害をもち,そのうち50%が障害をもちながら就労しており,脳腫瘍,頭頸部がん,Stage Ⅳの血液がん患者では,最も深刻な障害をもつか離職を余儀なくされていた.長期にわたって影響を与える障害をもつがんサバイバーの就労支援には,医療者が行う症状コントロールやリハビリテーションに加え,職場の理解が不可欠だと考える.

 米国の研究11)では,がんサバイバーの職場復帰を阻害する要因は,職場からのサポートがない,肉体労働,頭頸部がんの罹患だと報告されている.また,がんサバイバーが職場から受けている最大のソーシャル・サポートは,同僚からのサポートであり,もっと受けたいサポートは産業医療従事者からのサポートであった12).日本でも,高橋ら13)のプロジェクトにより,ソーシャルワーカー(medical social worker;MSW)向けの就労支援相談に関する冊子や,産業看護師向けガイドブックが作成され,がん患者の職場復帰を支援するための取り組みが始まっているが,企業制度や同僚の支援が受けにくい自営業,第一次産業のがんサバイバーに対する就労支援のあり方を研究したものは見当たらない.

 本研究は,第一次産業を担う人の割合が高いと考えられる東北地方に住むがんサバイバーに必要な看護支援を検討するための前研究として,東北地方に住む,がんと診断を受けて外来通院しているがんサバイバーの就労の実態を把握することを目的としたパイロットスタディである.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 がん化学療法で用いる抗がん剤などは曝露により医療従事者に危険をもたらす薬(Hazardous Drugs;HD)として米国の公的機関であるNIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health)は,取り扱いの注意喚起を行っている(NIOSH Alert)1).また,米国では薬剤師,看護師などの職能団体,学術団体がそれぞれガイドラインを作成し,普及のための研修を実施している.

 日本においては,調製時の曝露対策に関するガイドライン2)3)はこれまでにも発行されていたが,曝露の機会は調製時に限らない.そこで,2014年1月に日本がん看護学会からの発案で,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会の3学会合同ガイドライン委員会が発足し,2015年7月に「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」の発行に至った4)

 ガイドラインの作成を開始した2014年5月,日本において公的に初めての曝露に対する通知である,厚生労働省労働基準局安全衛生部・化学物質対策課長通知「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について」が発出された5).6月に曝露に対する医療従事者の協議会が発足した6).2015年には,医療の質・安全学会医療安全全国共同行動“いのちをまもるパートナーズ”における行動目標Wとして「医療従事者を健康被害からまもる,(1)抗がん剤曝露のない職場環境を実現する」が採択された7).このように,2014〜2015年は,抗がん剤曝露対策が進展した年でもあり,曝露に関する調査を日本がん看護学会が会員に対して実施することはこれらの動きの浸透前調査としても意義が高い.

 本研究は,「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」発行前の日本における看護師の曝露対策の実態を明らかにすることが目的である.この結果を踏まえ,今後がん薬物療法に伴う職業性曝露防止対策の向上に向けたガイドラインの普及活動の基礎資料とする.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 今回,公益財団法人小林がん学術振興会によるがん看護専門看護師の継続教育に関する助成を受け,2015年9月5日〜9月11日までの7日間にわたり,平成27年度がん看護専門看護師海外研修として米国での研修に4名が参加した.本稿では,研修で学んだ米国の現状から,「米国における看護体制の特徴」および「臨床実践の質向上のための高度実践看護師の役割」について報告し,総括として「日本におけるがん看護専門看護師の役割」について考察する.

基本情報

09146423.29.3.jpg
日本がん看護学会誌
29巻3号 (2015年12月)
電子版ISSN:2189-7565 印刷版ISSN:0914-6423 日本がん看護学会

文献閲覧数ランキング(
3月23日~3月29日
)