耳鼻咽喉科・頭頸部外科 90巻7号 (2018年6月)

特集 知っておきたい麻酔の知識

術前評価 肥田野 求実
  • 文献概要を表示

POINT

●ASA PS分類と運動耐容能(METs)を用いて,併存疾患のコントロールの状態を含めた患者評価を行う。

●挿管だけでなく,抜管まで見据えた気道評価を行う。

●手術を契機に徹底した術前禁煙指導を行う。

●医学的あるいは社会的問題のある症例では,重症症例カンファレンスを利用した多角的アプローチで患者の評価と情報の共有を行う。

  • 文献概要を表示

POINT

●近年,麻酔管理はより安全になってきたが,全身管理の難しい症例は増加しており,麻酔を含めた周術期管理の重要性が高くなっている。

●最近の全身麻酔は,balanced anesthesia(バランス麻酔)という概念のもと行われるのが主流となっている。

●耳鼻咽喉科領域の全身麻酔では,気道系を術者と共有するという特徴がある。

●耳鼻咽喉科の手術の麻酔においてどの麻酔薬を用いるかに関しては,術後の悪心・嘔吐のリスクなど患者の状況を総合的に判断し決定する。

●耳鼻咽喉科手術では覚醒時の咽喉頭機能回復が特に重要となるため,非脱分極性筋弛緩薬使用時は筋弛緩モニターを使用することが望ましい。

  • 文献概要を表示

POINT

●麻酔薬は,成人に使用する全身麻酔薬とほぼ同様の薬剤であるが,小児の特性からその必要量,代謝速度は年齢によって異なる。

●術前評価において,母子手帳のチェックは重要であり,ワクチン接種歴,接種時期,および上気道感染有無の評価は大切である。

●麻酔の説明において,ある程度の理解能力をもった小児に対してアセントを行い,術前からのラポールの形成は重要となる。

●術後の呼吸モニターの不可欠は言うまでもないが,術後の悪心・嘔吐の予防・対策やICU入室の考慮も必要である。

  • 文献概要を表示

POINT

●高齢者は,安静時の生理機能が保たれていても,運動や侵襲など負荷時の機能増加分が不足する場合が多い。手術時はこの予備能を評価することが重要である。

●高齢者では,症状がはっきり現れていなくても心疾患や呼吸器疾患が隠れていることがあるので,積極的に心臓超音波検査や呼吸機能検査を行うべきである。

●高齢者における麻酔薬の必要量は,成人に比べておおむね少ない。

●認知症患者では日常生活動作(ADL)が低いうえ,訴えが不正確なため術前評価が困難である。さらに,術後せん妄のリスクが高く,疼痛管理はおろそかにすべきではない。

●術後せん妄は,認知症患者に限らず高齢者に多く,予防が重要である。

  • 文献概要を表示

POINT

●局所麻酔薬の作用増強のため,血管収縮薬(アドレナリン)を添加する。

●局所麻酔薬の過量投与,患者側の素因により中毒症状を呈することがある。

●局所麻酔薬中毒には脂肪乳剤投与が推奨される。

●パラベンなどの添加物によりアレルギー反応を起こすことがある。

●合併症があり全身麻酔が難しい症例に対しても,比較的安全に施行できる。

日帰り手術のための麻酔 柏木 邦友
  • 文献概要を表示

POINT

●出血の多い手術や術後疼痛の強い手術などを除き,耳鼻咽喉科疾患でも日帰り(全身)麻酔手術が可能である。

【全身麻酔の場合】

●日帰り全身麻酔手術は,育児や介護など,社会的に入院が困難な患者に適している。

●基礎疾患に喘息をもつ場合,全身麻酔により術後に喘息発作を起こす可能性があるため,術前に十分コントロールしておく。

●術後の嘔気・嘔吐の既往,悪性高熱症の素因,てんかんの合併がある場合などでは,完全静脈麻酔が推奨される。

●筋弛緩薬はアレルギーの原因となるため,使用は必要最低限とする。

●術後鎮痛は非オピオイド系鎮痛薬を用いる。

【局所麻酔下での手術の場合】

●中途半端な鎮静はせん妄や興奮の原因となり,過鎮静では呼吸抑制が引き起こされる。

●鎮痛は局所麻酔を主体とし,静脈からの鎮痛薬,鎮静薬は主体として考えない。

●手術にかかわるスタッフはACLSを取得し,危機管理に対応できる環境を整える。

  • 文献概要を表示

POINT

●患者個々の挿管困難リスクに対する事前評価が重要である。

●挿管困難が予想される患者では最良の気道確保の手段を事前に検討し,最悪のシナリオも想定した準備をして手術に臨まなければならない。

●挿管困難かつマスク換気困難となる可能性がある患者では,躊躇せず意識下挿管を選択するべきである。

●事前に予測できない挿管困難事例も数多くあり,日本麻酔科学会(JSA)の気道管理アルゴリズムに沿って対応し,できる限り迅速に酸素化を達成しなければならない。

  • 文献概要を表示

POINT

●手術後の痛みは,患者への苦痛のみならず,心血管系への負荷,離床や栄養摂取の遅れなどで健康上の問題を生じうるので,適切な治療が求められる。

●術後鎮痛や術後経過を円滑に進めるには,術前から患者に術後痛の程度や経過,鎮痛薬を用いるタイミング,術後の飲食や離床に関する情報を提供することがポイントの1つとなる。

●術後鎮痛では,複数の鎮痛薬,鎮痛法を組み合わせたマルチモーダル鎮痛を計画し,手術中の鎮痛から術後の鎮痛へ円滑に移行していくことが重要である。

  • 文献概要を表示

POINT

●日本のペインクリニックは,過去10年間で大きく変化して「神経ブロッククリニック」から脱却しつつある。

●慢性痛の診療では,基礎疾患が見逃されていないことを確認しつつ,患者の生活習慣や心理社会的因子も考慮して診療を進めていく必要がある。

●慢性痛の治療では,鎮痛が主目的ではなく,ADL/QOLの向上を重視する。

●慢性痛の日本経済への影響は毎年数兆円以上と推定されている一方,慢性痛診療体制は世界に大きく遅れている。

がん患者の痛みの管理 伊原 奈帆
  • 文献概要を表示

POINT

●頭頸部がん性痛は,神経障害性痛を伴いやすい。

●嚥下障害や口内炎により経口投与以外の投与経路が必要になることが多い。

●痛みの程度,薬物の効果を繰り返し評価して,患者ごとに調整していく。

  • 文献概要を表示

はじめに

 ビスホスホネートなどの強力な骨吸収抑制剤は骨粗鬆症,骨転移性悪性腫瘍など幅広い疾患に臨床応用されている。近年この合併症の1つとして骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(anti-resortive agents-related osteonecrosis of the jaw:ARONJ)が報告され注意が喚起されている1-4)。一方,デノスマブなどの長期間作用が持続する分子標的薬が新しく開発され,骨粗鬆症の治療薬として臨床応用されている5-7)。今回われわれはデノスマブに関連する下顎骨壊死の1症例を経験したので,若干の文献的な考察を加えて報告する。

  • 文献概要を表示

はじめに

 聴器悪性腫瘍は,その発生部位によって耳介腫瘍,外耳道腫瘍,中耳腫瘍に分類されるが,いずれも稀な疾患である。その発生頻度は報告により差があるが,人口100万人あたり1〜6人と報告されている1,2)。また,両側の外耳道悪性腫瘍はさらに稀であり,われわれが渉猟した範囲では過去に10編の報告がなされているのみである3-12)。それらの報告のなかで,両側同時発症の症例は3編で報告されており3,6,7),また,上咽頭悪性腫瘍などに対する放射線照射の既往が外耳道悪性腫瘍の発生に影響した可能性が否定できない症例が2編で報告されている4,8)。外耳道悪性腫瘍は組織学的には扁平上皮癌が大部分を占め,外科的治療を中心に放射線治療や化学療法も行われている。今回,われわれは極めて稀な両側外耳道扁平上皮癌症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する。

  • 文献概要を表示

はじめに

 頭頸部癌に対する治療は,嚥下機能や発声機能などを担う部位への治療となるため,治療法の選択については治療奏効率かつADL(activity of daily living)の維持についての考慮が必要である。

 VA試験1)やRTOG91-11試験2)の結果を踏まえ,進行頭頸部癌症例に対してはシスプラチン(cisplatin:CDDP)を併用した化学放射線療法が外科治療と並んで標準治療の1つとなっている。さらに,2012年の分子標的薬であるセツキシマブの登場により頭頸部癌に対する治療法の選択肢が増した。セツキシマブは上皮成長因子受容体(epithelial growth factor receptor:EGFR)に結合してEGFRのはたらきを阻害するモノクローナル抗体で,頭頸部における新規の治療法として本邦でも普及してきた。近年,その治療効果や有害事象も報告されつつある3-5)

 Bonner試験では,喉頭癌のStage Ⅲ/Ⅳの症例に対して放射線照射単独群に比べ放射線照射とセツキシマブ併用群のほうが有意に局所制御期間や全生存期間を延長させた3)

 多様化する頭頸部癌治療に関してその治療成績や副作用が報告されつつある一方で,治療後のADLやQOL(quality of life)に関する報告はいまだ少ないのが現状である。皮膚粘膜炎など一過性の副作用から回復までの期間や,嗄声や嚥下機能などの症状が遷延したときのADLなど,さまざまな評価が必要であると考えられる。従来の治療選択肢の長期的なADLを比較した研究では,頭頸部癌患者における化学放射線療法群(concurrent chemoradiotherapy:CCRT)と手術群での,嚥下機能をはじめとした治療後のQOLについて質問紙法を用いて解析したところ,CCRT後のQOLは決して高くないことが報告されている6)

 頭頸部癌症例において放射線治療終了後は血液毒性,粘膜炎,摂食障害などの有害事象のためADLが改善するまで一定の入院期間を要する。今回われわれは頭頸部癌治療におけるADL改善までの期間の解析の1つとして,各種有害事象の遷延化で必要となる治療終了後の在院期間を各種治療法の侵襲度の指標として用いて検討した。

--------------------

目次

欧文目次

バックナンバーのご案内

あとがき 丹生 健一
  • 文献概要を表示

 打てば三試合連続本塁打,投げれば二試合連続勝ち投手。恵まれた身体能力と好感度抜群のルックスを兼ね備えたスーパースター大谷翔平選手が漫画のように華々しくメジャーリーグで二刀流デビューを果たしました。右手首の怪我が癒えATPランキング元4位時代を彷彿とさせるプレーを見せるようになった錦織 圭選手や,男子ゴルフ世界ランキング8位の松山英樹選手とともに,これからの活躍が楽しみです。私のように,ケーブルテレビや衛生放送に噛り付き寝不足の日々を過ごしておられる読者の皆さんも多いのではないでしょうか?

 さて,今月号の特集は「知っておきたい麻酔の知識」です。ここ十数年,新しい麻酔薬の登場やモニターシステムの開発・改良により麻酔技術は格段に向上し,より安全に麻酔管理をしていただけるようになりました。が,その一方,世界に類をみない高齢化社会を迎えたわが国ではさまざまな並存症を抱えた高齢癌患者に対する手術が増加し,医療の進歩により従来では諦められていた難治症例に対しても手術が行われるようになってきました。さらには,低侵襲な日帰り手術への社会のニーズも高まり,麻酔を含めた周術期管理の重要性がより高まっています。そこで,本特集では小生が日頃からお世話になっている溝渕知司教授(神戸大麻酔科)をはじめエキスパートの皆様に,小児や高齢者,局所麻酔,日帰り手術を含めた周術期管理や痛みの管理についてご執筆いただきました。是非,お目通しいただき最新の麻酔の知識を身につけてください。「デノスマブによる顎骨壊死」(太田論文)と「耳後部有茎皮弁により再建した両側外耳道癌」(假谷論文),「頭頸部癌放射線治療の在院日数」(青木論文)と,非常に参考になる原著論文も掲載しています。こちらもご一読をお願いします。

基本情報

09143491.90.7.jpg
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
90巻7号 (2018年6月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

前身誌

文献閲覧数ランキング(
6月11日~6月17日
)