臨床整形外科 43巻11号 (2008年11月)

誌上シンポジウム 外傷性肩関節脱臼

緒言 玉井 和哉
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 外傷性肩関節脱臼に対する治療に関して,最近,2つの重要な変化が起こっている.

 第1は徒手整復後に下垂外旋位で外固定する方法が広まりつつあることである.従来の内旋位固定では2年以内に56%,5年以内に87%に再脱臼が生じ,とくに10歳台男性では75%以上が再発すると報告されている9).一方,下垂内旋位よりも外旋位のほうが,剝離した関節唇と関節窩縁との接触がよいことは実験的に3,8),またMRI4,7)や関節鏡2)でも確認されている.Itoiら5)の無作為臨床試験(198例)によれば,内旋位固定群では脱臼再発が42%であったのに対し,外旋位固定群の再発は26%であった.外旋位固定法は逆転の発想と言ってもよい画期的なものであるが,それでも一定の率で脱臼が再発したり,外旋位固定後にもBankart損傷の修復が得られない場合がある.筆者は2007年に日本肩関節学会を主催した折,ウェブ上で会員にアンケート調査を行ったが,回答した162名のうち,初回脱臼の徒手整復後に内旋位固定(DésaultまたはVelpeau肢位)をする者が51%,外旋位固定をする者が36%であった.外旋位固定法が今後定着するかどうかは,ひとえに再発予防効果が良好か否かにかかっている.この誌上シンポジウムでは,外旋位固定に関する重要な知見が報告されており,本法の研究をさらに深めていくうえで参考になるであろう.

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 外傷性肩関節前方脱臼により前下方関節唇は損傷され(Bankart病変),前方関節包は弛緩する.これらの病態は脱臼整復後も脱臼不安感などの症状を起こす.本研究では,新鮮凍結屍体肩を用いてBankart病変と前方関節包弛緩が前方動揺性にどの程度の影響を及ぼすかを検討した.その結果,前方関節包の不可逆性弛緩によって肩甲上腕関節前方動揺性は約15%増大し,Bankart病変により前方動揺性は約21%増大した.肩関節脱臼後の治療を検討するうえで,前方関節包の弛緩はBankart病変とともに十分に考慮する必要がある.

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 初回外傷性肩関節前方脱臼12例(男性11例,女性1例,平均年齢23.7歳)に対し外旋位固定を施行した.12例中8例で前方不安定性の残存が示唆され結果は不良であった.MRIおよび鏡視所見から,前方関節唇の整復位と予後との関連性は低く,前下上腕関節靱帯が発達不良の場合,外旋位固定の効果は乏しいと考えられた.装具の費用や患者への負担を考慮すると,外旋位固定の適応については今後さらなる検討が必要と考えられた.

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 若年者では肩関節初回前方(亜)脱臼後に高率で再発することが知られている.再発の原因は初回(亜)脱臼時に生じた肩関節前方支持機構の破綻による前下関節上腕靱帯(AIGHL)の機能不全である.鏡視上では前方関節唇が関節窩前縁から剝離転位するBankart病変がみられることが多いが,前方関節包実質部での断裂や上腕骨側の関節包断裂(HAGL lesion),関節包の弛緩なども存在する.初回(亜)脱臼の治療の原則は保存治療であるが,われわれは症例を選択し鏡視下手術(Bankart修復術)を行い長期にわたり良好な成績を収めており,手術治療は初回肩関節(亜)前方脱臼の治療法として有用であると考えられる.

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 初回外傷性肩関節脱臼に対して可及的早期に鏡視下Bankart法を行ったアスリート13例(平均20.5歳)を対象とした.脱臼後手術までの期間は平均18.8日であった.検討項目はスポーツ復帰の可否,復帰までの期間,再脱臼率,術後評価としてJSS Instability ScoreとRowe scoreを用いた.13例全例がレベルダウンなくスポーツ復帰が可能(平均4.8カ月)で,術後再(亜)脱臼例はなかった.JSS Instability Scoreは平均97.9点,Rowe scoreは平均97.7で,すべてexcellentであった.鏡視下Bankart法はアスリートの初回脱臼例に対して有用な方法と考えられた.

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 肩関節脱臼と同時に損傷される下関節上腕靱帯の修復が再脱臼防止のカギとなる.再脱臼率だけで判断すれば,保存治療は外旋固定,手術は鏡視下Bankart修復術が現在最も推奨される.しかし,シーズン中のスポーツ選手や全身麻酔がハイリスクの反復性肩関節脱臼患者では,上記の推奨される治療法が選択できず,靱帯修復を目的としない再脱臼予防,すなわち脱臼予防装具の適応となる.脱臼予防装具は脱臼肢位をとらせず,かつ安全域での運動を許容し,これまで放置されていた手術できない外傷性肩関節脱臼患者への新たな治療法として位置づけられる.

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 外傷性肩関節脱臼症例の機能的な問題点を検討する方法として,機能的なX線撮影法であるScapula-45撮影法とT-view撮影法を用いた.その結果,肩甲骨の上方回旋機能低下が73.9%と最も多く,次いで肩外転角度の減少が73.9%と続く.さらに,肩甲骨と鎖骨の挙上制限が約60%を占め,腱板の機能低下や胸郭の可動性低下が約50%であった.脱臼は上腕骨頭が関節窩から逸脱する状態であるので,今回の結果から,上腕骨の動きに対して,肩甲骨,鎖骨,体幹が機能的に対応できるようにすることが肩関節脱臼の再発防止には必要と結論した.

整形外科/知ってるつもり

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■進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressiva;FOP)

 進行性骨化性線維異形成症(FOP)は,成長に伴う全身の骨格筋や靱帯,腱における異所性骨化を特徴とする疾患で,以前は進行性化骨筋炎(myositis ossificans progressiva;MOP)とも呼ばれた5,6).病態の進行に伴い多くの関節が癒合するために可動域が極度に小さくなり,自立的な運動が極めて困難となる.異所性骨化は顔面にも及び,開口障害や嚥下障害を伴う症例も認められる.その一方で,心臓や横隔膜,舌などの筋組織には異所性骨形成を認めない.

 FOPは,常染色体優性遺伝の形式を示す遺伝性疾患である5,6).世界的に約200万人に1人の発症率と考えられており,わが国では約60名のFOP患者が存在すると推定されている.わが国の23例を含むほとんどの症例は孤発例であるが,世界的には7例の家族性FOPが見出されている.全症例とも父親から子供に遺伝したケースである5,6)

境界領域/知っておきたい

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はじめに

 近年の食生活の欧米化などにより,本邦でも肥満脂肪細胞により惹起されるメタボリックシンドロームなどの生活習慣病が大きな社会問題となっている.様々な研究の結果,脂肪細胞は単なるエネルギー貯蔵のための臓器ではなく,アディポネクチンやレプチンなどの“アディポサイトカイン”と呼ばれる生理活性物質を分泌する内分泌臓器であることが明らかとなった.また,肥満は骨量と密接な関係があることは以前から知られており,アディポサイトカインの骨代謝における役割がクローズアップされている.今回はこの中の主要な因子の一つであるアディポネクチンの骨代謝における役割を中心に最新の知見を踏まえて報告する.

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・19

多発性関節拘縮症 亀ヶ谷 真琴
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多発性関節拘縮症

 はじめまして.

 私には先天性多発性関節拘縮症の5歳の娘が居ります.私も同じ病気です.生後2週間目から県内の病院に通っています.生後3カ月と11カ月の時にアキレス腱の手術,2歳3カ月で足の内側から筋をZ型に伸ばす手術をしました.装具は,最初の手術の後からデニスブラウン,1歳4カ月で短下肢装具,その後,ツイスターという装具を使用しています.夜はデニスブラウンを使用しています.足の状態は,両足とも足の側面で立つ状態です.

 相談と言うのは,治療方法・セカンドオピニオンについてです.主治医は,県内では小児整形外科では優れていると言われているドクターのようです.これまで何も考えずに全てお任せして来たのですが,診察方法など,どこの病院も同じ感じなのか? という思いが浮かんできました.ドクターそれぞれで違うものだ,と言われてしまえば終わりなのですが,聞いていただきたいのです.主治医の診察は,ほとんどが装具を履いて立った状態をみて終わりです.1年に1度くらいはレントゲンを撮ります.マッサージ・リハビリはありません.装具の不具合は,「装具屋さんに…」と言われ,私と装具屋さんで話をして主治医はノータッチです.現在の治療方法がいつまで続くのか,いつ頃に目途を置いて治療をしているのかという話はありません.矯正具合次第,という感じです.隣県に小児整形外科専門の病院があるので,1度そちらで話をしてみたいと思い電話をしてみましたが,外来の看護師さんには「紹介状がなければ診られない.主治医の先生から貰って来て」と言われました.しかし,確実に転院するという状況でないので,主治医にはとても言い出しづらいです.

 娘に「いつになったら装具なしで歩ける?」と聞かれ,1人で気持ちだけ焦って,それでもなかなかよくならない症状にますます焦ります.おそらく私は,現在の主治医に不信感を持っているのだと思います.でも,勇気がないです.誰も治療に保証などできる訳ないですが,誰かの言葉が欲しいです.私は娘のために,どうするのが1番いいのでしょうか?

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 Bipolar型人工骨頭の欠点のひとつに,bearing insertの磨耗や破損に伴うinner headの脱転がある.今回われわれは,bearing insertがone touch typeの人工骨頭で2例とleaflet typeの人工骨頭で1例のinner headの脱転を経験したので報告する.対象症例の初回手術時での年齢は50歳,56歳,33歳であった.脱転時の術後経過年数は15年,6年,19年であった.3症例に共通した所見は,bearing insertが全周性に磨耗していたことであった.

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 鎖骨遠位端骨折に対し,肩鎖関節に干渉するtension band wiring 7肩と,干渉しないScorpion plate 11肩について臨床成績を比較検討した.骨癒合は全例に認められ,最終観察時肩関節可動域は両群に有意差がなかった.Tension band wiring群では肩鎖関節骨性変化が7肩中6肩に認められた.内固定具抜去前の疼痛(JOAスコア)はScorpion plate群が有意に少なかった.Scorpion plateは術後早期に社会復帰を望む患者にとって有用な固定方法と考えられた.

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 成長期内側型投球障害肘を成長終了まで縦断的に追跡し,その予後を検討した.内側上顆分節化を認める骨端線未閉鎖の32例を対象とした.まずは投球中止により外反ストレスを回避した.圧痛が消失すれば投球を許可したが,復帰に際しては障害が残存していることを認識させ,再発予防のためにコンディショニング,投球フォーム指導を行った.平均2.1カ月で野球に復帰し,最終的に31例で骨癒合を得ていた.骨癒合時期はほぼ成長終了時期に一致していた.

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 腰部脊柱管狭窄症除圧術後の遺残性下肢症状に対するリマプロストアルファデクスの臨床効果の検討を行った.除圧術後に下肢症状が残存した19例に対し,リマプロストアルファデクスの経口投与を行い,投与前と投与開始後4週,8週のJOAスコア,および腰痛と下肢痛・しびれのvisual analogue scale(VAS)を評価した.JOAスコアには有意な改善がみられ,特に下肢痛と歩行能力に良好な改善が認められた.また,下肢痛・しびれのVASにも有意な改善がみられた.リマプロストアルファデクスは除圧術後の遺残性下肢症状に対して有効と思われた.

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 末期変形性股関節症を合併した大腿骨転子下骨折後の偽関節に対して,一期的に人工股関節置換術(THA)を施行した1例を経験したので報告する.症例は66歳の女性,変形性股関節症を合併した大腿骨転子下骨折に対して骨接合術が施行されたが骨癒合が得られず,変形性股関節症と偽関節による疼痛のため歩行困難であった.一期的にヘッドネックステムを用いたTHAを施行したところ,痛みの消失と可動域の改善が得られ歩行可能となった.末期変形性股関節症を合併した大腿骨転子部周辺偽関節に対して,ヘッドネックステムを用いたTHAも有用と考える.

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 MRIで骨髄浮腫(bone marrow edema:BME)パターンを呈したタナ障害の2例を経験したので報告する.両症例ともに打撲を疑わせる皮下斑状出血はなく,主症状は膝蓋大腿関節内側の圧痛であり,初診時MRIで膝蓋内側滑膜ヒダ(タナ)と内側顆非荷重面においてT2強調冠状断像でBMEパターンを呈していた.関節鏡で同部の陥凹や軟骨損傷を認めた.術後は症状が消失し,スポーツ復帰した.術後のMRIにおいてBMEパターンは消失していた.タナ障害の中でも高度に肥厚したものは,骨髄内に輝度変化を生じるほどの障害を与える可能性があることが示唆されるため,タナを切除する必要がある.

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 今回われわれは,MRIで砂時計腫様所見を呈した腰椎椎間板ヘルニアの1例を経験したので報告する.主訴は左下肢痛・下垂足で,術前に砂時計腫を疑い摘出術を施行したが,腫瘤は硬膜管背側から椎間孔内外に及び,L5/S1椎間板の脱出孔と連続性を認め,腰椎椎間板ヘルニアと診断した.病理組織検査でも軟骨終板を含む脱出ヘルニアであった.このような形態を呈した腰椎椎間板ヘルニアは,われわれが渉猟し得た範囲では,他に報告例がない.術後9カ月の現在,左下肢痛・下垂足も改善し,経過良好である.

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あとがき 黒坂 昌弘
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 サブプライム問題でアメリカの経済に不安がもたらされ,世界中の株が暴落している.ガソリンの値段が不安定に変化したり,日本の総理大臣は1年も仕事をしない間に次々と辞任をしてゆくという世の中で,何を信用して生活していけばよいのか不安になる.仕事に追われて,筆者はこの文章をフランス出張の際に書いているが,何の影響かわからないが,円がユーロに対して高くなり,バーで飲む一杯のビールが安くつき,どこから幸運が巡ってくるのかわからないなと不思議な気分になる.

 臨床研修制度が変わって,都市部以外の病院に研修医や医師が勤めなくなり,社会問題に発展しているのは明らかに厚生労働省の官僚の政策の問題である.不安定な世の中で,医療の偏在が起こっては,後期高齢者の方々が多く住んでおられる地域の国民もたまったものではない.そこで,閉院に追い込まれつつある公的病院に,大学から医師を派遣してもらうように,税金を投入して問題を解決しようとしている都道府県も現れていると聞く.地方自治体の長が自分の在任期間中に病院が閉院になることを恐れ,なりふり構わない政策を展開している端的な例である.また,医学部の学生を増やせば,今の医師の偏在は解消できるという,極めて安易で短絡的な政府の考えに,あまりにもお粗末な国の基本的な官僚システムを見てしまい,非常に不安を感じざるを得ない.良い面も,悪い面も含め,古い大学の医局の体質は崩れているのかもしれない.しかし,そのことにより生じている現在の深刻な問題は,さらに増加する新しい医師の数により,将来ますます拍車がかかっていくのは,当然の帰結のような気がしてならない.10年後には,医師の数は増えるが,基礎医学者の数は激減し,司法解剖などする医師もいなくなる.勤務医の生活が大きく改善されるとは思えない.その時に,また行き当たりばったりに,政策を変えていくだろう日本の医療システムが目に見えるような気がする.

 夢も希望もない文章になってしまったが,若い整形外科医の中には,新しい医療を目指し,世界に先駆けた仕事を展開している人材も多くいる.本誌への投稿論文を読むと,something newを求めて頑張っている多くの人材が途切れることなく努力を続けていることに勇気づけられる.今から10年先の指導者は,われわれの世代よりずっと厳しい現実に直面する可能性があるが,少しでも夢のある,大学,病院,整形外科学会になるようにはどうすればよいかと自問自答する毎日である.

基本情報

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臨床整形外科
43巻11号 (2008年11月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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