- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
サブプライム問題でアメリカの経済に不安がもたらされ,世界中の株が暴落している.ガソリンの値段が不安定に変化したり,日本の総理大臣は1年も仕事をしない間に次々と辞任をしてゆくという世の中で,何を信用して生活していけばよいのか不安になる.仕事に追われて,筆者はこの文章をフランス出張の際に書いているが,何の影響かわからないが,円がユーロに対して高くなり,バーで飲む一杯のビールが安くつき,どこから幸運が巡ってくるのかわからないなと不思議な気分になる.
臨床研修制度が変わって,都市部以外の病院に研修医や医師が勤めなくなり,社会問題に発展しているのは明らかに厚生労働省の官僚の政策の問題である.不安定な世の中で,医療の偏在が起こっては,後期高齢者の方々が多く住んでおられる地域の国民もたまったものではない.そこで,閉院に追い込まれつつある公的病院に,大学から医師を派遣してもらうように,税金を投入して問題を解決しようとしている都道府県も現れていると聞く.地方自治体の長が自分の在任期間中に病院が閉院になることを恐れ,なりふり構わない政策を展開している端的な例である.また,医学部の学生を増やせば,今の医師の偏在は解消できるという,極めて安易で短絡的な政府の考えに,あまりにもお粗末な国の基本的な官僚システムを見てしまい,非常に不安を感じざるを得ない.良い面も,悪い面も含め,古い大学の医局の体質は崩れているのかもしれない.しかし,そのことにより生じている現在の深刻な問題は,さらに増加する新しい医師の数により,将来ますます拍車がかかっていくのは,当然の帰結のような気がしてならない.10年後には,医師の数は増えるが,基礎医学者の数は激減し,司法解剖などする医師もいなくなる.勤務医の生活が大きく改善されるとは思えない.その時に,また行き当たりばったりに,政策を変えていくだろう日本の医療システムが目に見えるような気がする.
夢も希望もない文章になってしまったが,若い整形外科医の中には,新しい医療を目指し,世界に先駆けた仕事を展開している人材も多くいる.本誌への投稿論文を読むと,something newを求めて頑張っている多くの人材が途切れることなく努力を続けていることに勇気づけられる.今から10年先の指導者は,われわれの世代よりずっと厳しい現実に直面する可能性があるが,少しでも夢のある,大学,病院,整形外科学会になるようにはどうすればよいかと自問自答する毎日である.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.