胃と腸 53巻8号 (2018年7月)

今月の主題 対策型胃内視鏡検診の現状と問題点

序説

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胃がん検診の歴史

 戦後,わが国では,結核の死亡率が急速に低下し,高度経済成長とともに脳血管疾患,心疾患と悪性新生物の死亡率の増加が顕著となり(Fig.1)1),国を挙げてのがん対策が必要となった.部位別にみると,胃癌は罹患率,死亡率共に極めて高率であったため(Fig.2)2),救命可能な早期胃癌での発見,診断がわが国の悲願となり,先駆者たちはX線機器や内視鏡機器の開発・改良に力を注ぎ,世界に冠たる胃癌診断学と治療法を築いてきた.

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要旨●世界のがん検診の先駆けとして開始された胃がん検診を含めて,わが国のがん検診は国際水準には達していない.近年,対策型胃内視鏡検診も加わったが,無作為化比較対照研究の裏付けもなく,科学的根拠が示されたとは言えない.しかし,H. pylori感染者の減少が進み,そう遠くない未来には胃がん検診が癌対策として必要ない時期が到来すると予想される.高齢世代に胃癌高リスク群が残る現在は対策型胃内視鏡検診を高い精度で実施しなければならない.そのために検査医の内視鏡技量の向上とダブルチェック体制は必須と考える.

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要旨●胃内視鏡検診の精度管理で重要なのは,専門医による内視鏡画像のダブルチェックである.それによって偽陰性率が低下し,生検率(要精検率)も低下する.内視鏡検診で重要な偶発症は鎮静薬の使用による呼吸抑制と生検による出血である.不必要な生検を避けることは,要精検率の低下だけではなく偶発症の減少にもつながる.頻度の高い偶発症に対するマニュアルを各施設で作成すべきであり,重篤な偶発症が発生した場合は自治体や胃内視鏡検診運営委員会(仮称)への報告が必要である.内視鏡機器の洗浄・消毒はE. H. Spauldingの分類に従い,自動洗浄消毒装置や超音波洗浄装置などを用いた十分な洗浄とすすぎ,高水準消毒薬を使用した消毒・滅菌,乾燥とその後の適切な衛生管理が必要である.

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要旨●浜松市医師会で行っている対策型胃内視鏡検診では,2011年度の導入当初からHelicobacter pylori感染胃炎(現感染・既感染)を内視鏡所見で拾い上げ,その陽性者に対して重点的に検診を行っていく体制の確立を目標としてきた.そのためには,地域全体として胃炎診断の周知徹底と標準化を行うことが必須であり,そのうえで陽性者が胃癌発見リスクの高い集団であることを証明する必要性があった.まず,筆者らは内視鏡で拾い上げられる胃炎をEAG(endoscopic atrophic gastritis)と定義し,その診断を内視鏡実施時と二重読影時に行い,一致率を算出することとした.施設ごとの一致率から診断の標準化が進んでいない施設を特定し,それらの施設には二重読影に参加してもらうなどして改善を図っていった.その結果,2016年度における全体の診断一致率は90.9%となり,開始当初より10%程度改善した.このようにして抽出されたEAG陽性群の癌発見率は陰性群よりも有意に高いことが明らかとなり,さらにEAG陰性であっても除菌後の症例では癌発生がみられることがわかった.これらのことから,“EAG陽性”と“問診で除菌治療歴あり”をリスク因子として,2017年度よりリスク集約型検診を開始している.

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要旨●金沢市医師会では,2008年度より胃内視鏡検診を導入した.検診受診率・胃癌発見率は向上し,多数の食道癌も発見した.撮影画像は全例をダブルチェックし,一定条件下でレフリー判定も実施した(金沢市医師会方式).画像評価により質的向上が得られ,生検の妥当性評価で生検の適正性・妥当性が向上した.プロセス指標を開示し検診機関の意識向上を図り,検診機関の平準化を目指した.機器の消毒,生検の条件などを要項で示し,安全性向上を目指した.また,偶発症報告を求めた.萎縮度判定を行いリスク検診の解析を行った.情報管理と読影処理能力向上を目指し,ICTを活用した検診システムの検討を開始した.対策型検診であり,精度管理と安全性は重要である.

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要旨●胃内視鏡検査における撮影法には,胃上部(口側)より撮影を開始するA法,幽門前庭部(肛門側)より開始するB法に加えて,筆者が行っている胃角より開始するC法の3種類がある.それぞれ長所と短所があり,対策型胃内視鏡検診における撮影法はいずれの方法を用いてもよい.重要な点は,①二次読影のためにそれぞれの内視鏡画像の撮影部位がわかるように撮影すること,②限られた枚数の静止画像で胃全体がくまなく撮影されていること,③粘液の付着,画像のずれ,不適切な光量など二次読影の妨げとなるような要因を極力排除すること,④異常所見があった場合には一通り全体を観察した後で精密撮影を行い,必要に応じて鉗子生検を施行することである.

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要旨●本稿では対策型胃内視鏡検診における経鼻内視鏡での前処置を含めた観察方法とポイントについて概説した.経鼻内視鏡での鼻腔の決定・ルートと前処置では,偶発症のリスクを下げ受診者の負担を減らすよう,愛護的な操作を常に意識する.経鼻内視鏡を含め内視鏡検査の目的は,病変を見落とさないように適正な空気量で胃全体を網羅することが大切である.撮影枚数は,少ないと網羅性に欠け,多すぎてもダブルチェックに手間取るため,30〜40枚が適当である.特に観察・撮影時のポイントでは空気量を調整し,動的観察や観察しづらい部位を認識しながら検査を行うことが重要である.

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要旨●当センターでは,2008年4月から,効率的で見逃しのないスクリーニング胃部内視鏡観察37枚法を導入した.その成果と問題点を明確にするために過去8年間の経年発見胃癌269例を対象として,臨床病理組織学的に検討した.逐年発見早期胃癌率97.9%,隔年発見早期胃癌率90.9%と高率であり,病変部位は,前回内視鏡像で全例標的部位として撮影されていた.一方,逐年,隔年進行癌は8例を認め,U領域が75.0%,後壁が50.0%と高率であった.以上から,本観察撮影法は,標的部位を意識した胃全領域の撮影が行われていることから画像精度は十分であったが,癌の典型的な形態学的所見を呈していない症例には拾い上げ診断の工夫が必要であった.今後,症例を蓄積して診断能を向上させれば,より早期で正確な拾い上げ診断が可能となる.

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赤松 本日は私と長浜先生で司会をいたします.今回は,対策型内視鏡検診について先進的な取り組みをされている新潟市,浜松市,福岡市から,成澤先生,幸田先生,平川先生に,また,2019年より検診制度が開始されます東京都を代表して入口先生にお越しいただきました.

 さて,2016年にさまざまな研究結果を踏まえ,厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」が改正され,対策型検診でも胃内視鏡検査が選択肢として追加されることになり,各地で対策型内視鏡検診が始まりました.認可から約1年半が経過し,成功している地域と課題が多く開始できない地域もあることから,本特集が組まれました.本日は,対策型内視鏡検診が行われるようになった経緯を導入としまして,先進的な各地域の取り組みのご紹介,精度管理の問題について,検診制度の近未来像までを含めてお話しいただければと思います.それでは,よろしくお願いします.

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要旨●2016年の厚生労働省指針改訂により,胃内視鏡検診が対策型検診として承認された.「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2004年版」では胃内視鏡検診の有効性を示す科学的根拠は不十分であり,対策型検診として推奨されなかった.がん検診の評価研究は段階を経て評価を行う必要があり,ガイドライン公開以降は,徐々に評価研究が蓄積された.さらに,日韓で行われた症例対照研究により,胃内視鏡検診の胃癌死亡率減少効果が認められ,「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」では胃内視鏡検診が対策型検診として推奨された.しかし,いずれも観察研究であることから,今後さらなる研究の積み重ねが必要である.

ノート

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要旨●対策型検診の費用対効果の分析は医療技術評価の一部であり,効率性の観点から政策意思決定に有益な情報を与えることを目的とする.最近の胃内視鏡検診の費用対効果研究では,効果指標は統一されている一方で,考慮されている費用の範囲は研究によってかなり違う.政策意思決定に有益な費用対効果研究では,検診という医療技術の特性を理解し,事業全体の運営費用,受診者の時間費用への影響,受診率の費用に対する影響を考えた分析を行う必要がある.そのためには,地域の特性が考慮可能で実施主体の政策立案に役立つ医療経済モデルを構築することが必要となる.

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患者

 70歳代,女性.

主訴

 検診異常.

現病歴

 200X年,検診の上部消化管X線検査で食道の異常所見を指摘され,近医でEGD(esophagogastroduodenoscopy)を施行したところ,食道病変を指摘されたため,当科に紹介され受診となった.

既往歴

 特記事項なし.

家族歴

 特記事項なし.

現症

 血圧124/62mmHg,脈拍74回,腹部は平坦・軟で腫瘤を触知せず.表在リンパ節を触知せず.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 長浜 隆司
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 「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」にて胃内視鏡検診が対策型検診として推奨され,政令指定都市や中核都市を中心に内視鏡検診を導入する自治体が急速に広がりつつある.今回この現状を受け,対策型胃内視鏡検診の現状と問題点を明らかにするため,赤松,入口,長浜の3名で本特集を企画した.

 序説は入口がわが国の胃がん検診の歴史と現状について概説し,今後の展望について述べている.

基本情報

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胃と腸
53巻8号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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