胃と腸 50巻4号 (2015年4月)

今月の主題 早期大腸癌内視鏡治療後の中・長期経過

序説

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 早期大腸癌において,粘膜内癌(Tis癌)は転移しないため局所の完全摘除で根治可能であるし,内視鏡治療後に局所遺残再発が生じても一般的に追加内視鏡治療で根治可能である.したがって,その予後は極めて良好である1)2).また,臨床の場では,局所遺残再発の確認のみならず,異時性多発病変の診断のためにもサーベイランス内視鏡検査は重要である.

 米国では,National Polyp Study3)の結果により,大腸腺腫性ポリープを内視鏡的にすべて摘除した場合,その後のサーベイランス内視鏡検査は3年後が推奨された.欧州ガイドライン4)および米国ガイドライン改訂版5)では,全大腸内視鏡検査(total colonoscopy ; TCS)における腺腫性ポリープの個数と最大径,病理組織所見により,それぞれ推奨すべきサーベイランスTCS間隔が異なる.基本的に10mm以下の腺腫性ポリープ(軽度異型腺腫)が散在性に(欧州ガイドラインでは4個,米国ガイドラインでは9個まで)認められ,内視鏡的に摘除された場合には,一律3年後のサーベイランスTCS が推奨されている.さらに,それらが2個までの場合には,欧州ガイドラインでは年齢や家族歴を考慮したうえで通常の便潜血などのスクリーニングを,米国guideline では5〜10年後のサーベイランスTCSが推奨されている.その他,腺腫性ポリープが多数認められる場合やひとつでもhigh-grade dysplasia(本邦のTis癌)が認められた場合など,初回のTCS 所見によって詳細なリスク層別化がなされ,それぞれ推奨されるサーベイランスTCS間隔が定められている.

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要旨●Japan Polyp Studyのデータから,早期大腸癌に対する内視鏡摘除後のIL発生頻度について検討した.1次TCSにてM癌を摘除した群では,1年後のIL(10mm以上の腺腫,高度異型腺腫,癌)発生率が6.8%と,M癌摘除歴なし群の2.3%と比べ,有意に高かった.2回のクリーンコロン化を行うことで,その後3年間に発生するM癌/浸潤癌の発生頻度は0.4%,0.05%と低下し,2度のTCSが大腸癌発生抑制により効果的に働くことが示唆された.また,SM浸潤癌に対する内視鏡治療単独例の再発リスクに関する検討を論文レビューから行った.4論文より1,312例のデータを集計した結果,再発例(3.4%)の約90%がリンパ節転移リスクを有し(HR群),HR群に限定すると再発率は6.8%と高く,転移リスクがなければ再発率は1%以下であった.

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要旨●今回筆者らの施設で内視鏡治療を行い,1年以上経過観察を行った早期大腸癌87例の異時性多発病変の発見の状況を調査した.内視鏡治療後5年後の異時性多発病変の累積発見率は56.7%だった.異時性多発病変の臨床病理学的特徴は,病変数は1個のものが多く,右側大腸に多い傾向がみられ,大きさは概ね10mm未満だった.異時性多発病変の経過は治療例,経過観察例共に良好だった.異時性多発病変の発見にかかわる危険因子に関する多変量解析の結果,同時性ポリープ3個以上が独立した危険因子であった.早期大腸癌内視鏡治療後の適切なサーベイランス法は,今回の調査結果とこれまでの報告をもとにしても現時点では不明であり,今後報告の蓄積が必要であると考えられる.

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要旨●側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)は4つに亜分類され,各々臨床病理学的特徴が異なる.亜分類の判別や色素拡大内視鏡観察などで正確な深達度診断を行うことと,適切な摘除法を選択することは表裏一体の関係である.当院で行ったLSTの治療結果より,亜分類別の特徴,部位別の特徴,EMRとESDの治療成績の比較,遺残再発後の経過に関して検討を行った.LST-G(H)は腫瘍径が大きくなってもほとんどSM浸潤を来さないのに対し,LST-NG(PD)は小さい段階より高率にSM浸潤を来す.EMR/EPMR後の遺残再発は,腸管の解剖学的な複雑さと大きな腫瘍径のため,盲腸,直腸の順で高い傾向となった.また,ESD群では有意に一括切除率が高く,遺残再発率が低かった.EMR/EPMR後の遺残再発の大部分は治療後初回の内視鏡検査で発見され,内視鏡での追加治療でコントロール可能であることが示唆された.内視鏡治療後の遠隔転移に関して,EMR/EPMRとESDの間に有意差は認めなかった.

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要旨●大腸pT1癌において内視鏡的治療のみで経過観察された中・長期成績の報告は少ない.内視鏡的治療が先行されたpT1癌の中・長期成績を検討したところ,大腸癌治療ガイドラインに反して,pT1b癌を内視鏡的切除のみで経過観察すると,追加外科切除群に比べ局所再発が多く,またほとんどが直腸癌であった.そこで,今回結腸・直腸癌別中・長期予後を多施設で検討した.その結果,pT1b癌を内視鏡的摘除のみで経過観察した群において,結腸癌と比較し直腸癌が有意に局所再発を多く認めた.またリスク因子での多変量解析(Cox回帰分析)において部位のみ有意差があった.以上より直腸pT1癌は,現ガイドラインに沿った追加手術の重要性が確認された.今後,拡大適応を議論するうえで部位は重要な因子になると考える.

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要旨●1992年1月〜2008年8月までに種々の理由により当科で内視鏡的摘除を施行し,5年以上経過観察された大腸T1b癌139例を対象に,治療後の中・長期経過を検証した.内視鏡的摘除例を“内視鏡的摘除単独群”41例と“追加外科手術群”98例に分類し,同時期に初回から外科手術を施行した“外科手術単独群”88例を加えて解析した.治療法群別にみた局所・遠隔転移再発率は内視鏡的摘除単独群2.4%,追加外科手術群7.1%,外科手術単独群4.5%,局所再発率は内視鏡的摘除単独群0%,追加外科手術群2.0%,外科手術単独群1.1%,遠隔転移再発率は内視鏡的摘除単独群2.4%,追加外科手術群5.1%,外科手術単独群4.5%でいずれも各群間で差を認めなかった.全死亡率は内視鏡的摘除単独群26.8%,追加外科手術群16.3%,外科手術単独群6.5%であり,内視鏡的摘除単独群で有意に高かったが,原癌死率は内視鏡的摘除単独群0%,追加外科手術群4.1%,外科手術単独群2.2%であり,各群間で差を認めなかった.内視鏡的摘除例における治療から再発までの平均期間は28.2(7〜55)か月であり,うち原癌死を4例(50.0%)に認めた.組織学的低分化度・簇出高度・脈管侵襲などのリンパ節転移リスク因子を認めない症例においては局所・転移再発および原癌死は1例も認めなかった.内視鏡的摘除後追加外科手術を施行した大腸T1b癌の臨床経過において,内視鏡的摘除の介入により患者に不利益が生じることはなかった.

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要旨●大腸T1癌に対する外科手術の中・長期成績を明らかにするため,当科で外科手術が行われた193例を検討した.疾患特異的5年生存率は,T1癌全体で97.2%であり,Stage別ではStage Iで97.6%,Stage IIIaで100%,Stage IVで50%であった.一方,5年無再発生存率は,T1癌全体で95.0%であり,Stage Iで96.2%,Stage IIIaで91.7%,Stage IVで50%であった.有意な再発リスク因子は局在Rbであった.有意な原癌死リスク因子は,局在Rbと簇出Grade 2/3であった(多変量解析では局在Rbのみ).T1癌に対する外科手術の成績は大変良好であるが,Rb癌の術後は慎重なフォローアップを要することが示唆された.

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要旨●目的:大腸内視鏡切除標本においては種々の問題点が指摘されている.本研究では大腸内視鏡切除材料において,1)側方断端における腫瘍組織の残存と残存腸管の遺残・再発との関連性と,2)深部断端と癌組織における断端距離と遺残・再発との関連性について検討を行った.加えて内視鏡切除後再発例の再発までの期間についても検討した.対象と方法:内視鏡的に切除された肉眼型Is,IIa型およびLST型腫瘍を対象とした.1)側方断端:内視鏡切除後に6か月以上の転帰が確認可能で,側方断端が陽性であった腺腫および粘膜内癌81例を対象とした.側方断端の臨床病理学的所見と遺残・再発の有無との関連性について検討した.2)深部断端:内視鏡切除後に追加治療が施行された,もしくは6か月以上の転帰が確認可能な粘膜下層浸潤癌194例を対象とした.対象症例の癌浸潤の先進部から深部断端までの距離を測定し,遺残・再発の有無との関連性について検討を加えた.結果:側方断端陽性例においては,再発を認めた症例は5例(6.2%)であった.深部断端陽性例は22例(11.3%)であったが,再発を来した症例はなかった.深部断端対象症例においては再発を認めた症例は1例(0.6%)のみで,深部断端までの距離は350μmであった.考察:側方断端陽性症例では,断端成分における腫瘍組織の組織学的差異にかかわらず,一定の頻度で遺残・再発が生じることが明らかとなった.粘膜下層浸潤癌において,深部断端までの距離が500μmを超える症例では再発の危険性が低く,安全な断端距離であることが示唆された.

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要旨●大腸癌治療ガイドラインにおける大腸T1(SM)癌内視鏡摘除後の追加腸切除考慮基準は妥当であるが,追加腸切除がover surgeryとなっているという問題点がある.その理由は,追加腸切除を行わずに経過をみて転移や再発を来した際に,salvage治療による予後の改善が可能かどうかが不明なためである.本研究は大腸T1癌に対して内視鏡摘除単独あるいは内視鏡摘除+追加外科手術を行い,経過観察中に転移・再発した症例の臨床経過と生命予後,およびsalvage治療の有効性を明らかにすることを目的とした.内視鏡摘除を行った大腸T1癌のうち,2001〜2008年の間に再発した病変に,後向きアンケート調査を行った.その結果,(1)内視鏡摘除単独または追加外科手術を施行した例において,2001〜2008年の間の再発は101例であり,男性62例,女性39例と男性で多く,初回治療時の平均年齢は64.7歳であった.発生部位は結腸52例,直腸48例と結腸に多く,肉眼型は隆起型68例,表面型25例と隆起型が多く,平均腫瘍径は22.1mmであった.再発様式はリンパ節転移再発21例,遠隔転移再発45例,SM層以深の局所再発が35例であった.(2)他病死6例,予後不明5例を除いた経過観察例90例中,原病死は54例(60.0%)であり,再発例における50%生存期間は39か月と,その予後は不良であった.(3)90例において初回内視鏡摘除からの累積生存率は初回内視鏡摘除後の追加外科手術の有無で有意差は認めなかった.(4)リンパ節再発,遠隔転移再発,SM層以深の局所再発,いずれの再発様式においても,その予後は不良であった.(5)再発後の平均生存期間は手術施行例で,非施行例に比較して長かった.また,再発例90例における生存例36例中31例は,追加外科手術施行例であった.(6)リンパ節転移危険因子数が少ない例では局所再発が多く,リンパ節転移危険因子数の多い例で遠隔転移が多くみられたが,有意な差は認められなかった.結論として(1)内視鏡治療後に再発を来した例では90例中54例(60.0%)が原病死しており,その予後は不良であった.(2)大腸T1癌内視鏡治療後の再発例において,外科切除可能例では外科切除不能例に比較して生存率の向上,平均生存期間の延長が得られた.

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要旨●患者は72歳,男性.市の胃がん内視鏡検診で胃穹窿部大彎前壁寄りに2cm大の発赤調隆起性病変を認めたため,精査・加療目的で当科へ紹介され受診となった.NBI(narrow band imaging)拡大観察では,表面構造・血管構造に癌を疑う所見は認められなかった.生検診断は高分化腺癌で,癌は粘膜層の中層から粘膜下層にかけて存在していた.切除標本では,主細胞に類似し,核異型性に富む細胞が不整な腺管を形成して,粘膜層の中層から粘膜下層を中心として増殖していた.腫瘍細胞は免疫組織学的にMUC6とpepsinogen Iに広範囲で陽性,H/K-ATPaseは一部で陽性であり,主細胞優位型の胃底腺型胃癌と診断した.Ki-67標識率は最大で30%と高値であった.癌として否定的な意見もある「胃底腺型胃癌」において,その存在を強く肯定する貴重な症例であると考えられた.

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編集後記 斉藤 裕輔
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 pT1(SM)癌に対する内視鏡治療後の追加腸切除の考慮基準は大腸癌治療ガイドラインに示されており,その妥当性は評価されているが,pT1癌に対する内視鏡治療後の経過に関連して幾つかの解決されていない問題点がある.具体的には,序説で田中も述べているように,(1)粘膜局所再発率,(2)異時性の再発率,(3)粘膜局所以外(リンパ節,遠隔転移など)の再発率,(4)再発例における生命予後,(5)再発を適切かつ効率良く発見するためのfollow up内視鏡の間隔,などが挙げられる.これらが明らかにされることを期待して本特集,「早期大腸癌内視鏡治療後の中・長期経過」が企画された.

 まず,(1)の内視鏡治療の根治性に関して,上杉らは大腸癌研究会のプロジェクト研究結果から,組織学的根治基準に関して,側方断端陽性例からの再発率は6.2%,深部断端陽性例の再発率は0.6%であり,深部断端から500μm以上が安全な断端距離であることを示した.石垣らはLSTに対する内視鏡治療法に関して,ESDではEMR/EPMRに比較して再発率が有意に低いことを報告した.

基本情報

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胃と腸
50巻4号 (2015年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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