胃と腸 43巻5号 (2008年4月)

今月の主題 linitis plastica型胃癌―病態と診断・治療の最前線

序説

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leather bottleからはじまる

 近代胃癌病理の原典の1つである,ドイツの病理学者,KonjetznyによるDer Magenkrebs(1938年刊行)を1981年に山田,内山両博士が完全邦訳して出版している1).文中の著明なびまん性癌の項の中にlinitis plasticaの記述があり,そこで示された症例は幽門狭窄を来した例であり,水筒胃との表現が付されている.現在臨床でしばしば用いられるleather bottle様変形(Fig.1)は当初幽門狭窄例を表し,当時は胃体部が狭窄した例は少なかったようである.

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要旨 linitis plastica(以下,LP)型胃癌の自然史について,原発巣の形態学的・病理組織学的分析とX線学的遡及例をもとに検討した.LP型49例を原発巣の性状から,原発巣が胃底腺領域に発生した胃底腺領域型19例と腺境界部に発生した腺境界領域型20例に大別した.前者の原発巣は,大きさが25mm以下で陥凹は深く,組織型はすべて未分化型腺癌であった.これに対して後者の原発巣は,大きさが50mm以上で陥凹は浅く,組織型は未分化型腺癌が多かったが,なかには中~高分化型腺癌と未分化型腺癌との組織混在型を示すものがあり,20例中5例に認めた.この結果から,腺境界領域に発生した組織混在型胃癌のうち一部は,LP型胃癌に類似した発育進展形式をとることが推測された.X線的遡及例からは,typical LPは,胃体部の管状狭窄と特徴的な悪性レリーフを呈し癌浸潤が漿膜面に露出していた.その1年前は,ひだの肥大は広範囲に及んでいたが,胃壁の伸展障害は局所的であり,latent LPの状態を呈していた.typical LPが形成される少なくとも3年以上前のX線像では,原発巣の陰影斑は,ひだ集中を伴わないⅡc様の所見として現れており,その時点では深達度はm~smと推定された.

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要旨 従来より言われているpre-linitis plastica型胃癌の前段階,つまりその初期病変を知る目的で,胃底腺粘膜を母地とするⅡcまたはⅡb型未分化型早期胃癌135症例136病変〔M癌77症例(78病変),SM癌58症例(58病変)〕の手術症例について,臨床病理学的および免疫組織化学的立場から検討した.①対象とした早期胃癌は病理組織学的に背景粘膜における萎縮の程度が軽度であるほど腫瘍径が小さく,粘膜内における腫瘍径が小さいほど潰瘍合併率が低かった.②粘膜内癌巣に線維化を伴う病変がM癌で3病変,SM癌で1病変,計4病変存在したがいずれも潰瘍合併は欠いていた.このうちSM癌は原発巣より粘膜下層の浸潤が広く,従来より言われているpre-linitis plastica型胃癌と言える症例であった.③免疫組織化学的にスキルス胃癌において発現が著しいとされているTGF-βは潰瘍合併のない34病変(M癌17病変,SM癌17病変)中,粘膜内癌巣に線維化を認めたM癌の1病変のみに陽性であった.以上の結果から,胃底腺粘膜に発生する未分化型癌は粘膜内進展において癌周囲粘膜の萎縮の程度に左右され,粘膜内癌巣に線維化を認める症例はlinitis plastica型胃癌の初期病変となりうると推察された.

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要旨 linitis plastica型胃癌の初期病変は,胃底腺粘膜領域内に存在する未分化型の早期胃癌である.臨床的には,潰瘍瘢痕合併の有無にかかわらず,少なくとも粘膜下層までの浸潤にとどまる1cm前後の未分化型胃癌を標的病変とする.X線診断では,明瞭な陥凹境界と大小不同の顆粒状陰影を示す典型的な未分化型癌のⅡc像だけでなく,透視下にも容易に観察できる小ニッシェ像と粘膜ひだの異常像を見逃さないように注意すべきである.特に,小ニッシェ像として現れる病変(微小Ⅲ型)は,小さくても粘膜下層に浸潤している特徴があり,中村の定義する前linitis plastica型癌1)の形態的特徴を備えている.

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要旨 linitis plastica型胃癌の診断能を向上させる目的で胃体部と胃底部に発生した未分化型癌のX線所見を検討した.早期癌68病変(M癌39病変,SM癌29病変)の肉眼型はすべて陥凹主体の病変であった.その中で潰瘍や皺襞集中を伴う病変は37病変(54%)であった.陥凹面の性状は大小顆粒状模様が55病変,胃小区模様が消失した平滑模様が7病変,胃小区類似(Ⅱb類似)の模様が6病変であった.胃小区模様が消失した平滑模様7病変中5病変はSM癌であり,胃小区類似の模様の病変はすべてM癌であった.また,陥凹周囲に透亮像を伴う15病変はすべてSM癌であった.4型進行胃癌26病変の中で原発巣に皺襞集中がない病変は19病変(73%)であった.また,原発巣が胃体部の皺襞の中に存在するものは12病変(46%)であった.胃体部の皺襞に存在し皺襞集中がない早期胃癌の発見が重要と考えられ,それらのX線像は皺襞を横断する溝状陰影,皺襞の中断,皺襞の中断を伴うバリウム陰影,皺襞間のバリウム陰影であった.4型進行胃癌の中で胃の全体的な収縮が生じていない潜在的linitis plastica型胃癌6病変のX線所見は,胃角もしくはHis角の変形が3病変,辺縁の硬化像が2病変,皺襞の肥大が2病変,皺襞間の狭小化が2病変,皺襞表面の顆粒像が4病変,胃小区の不規則な強調像が5病変であった(重複あり).潜在的なLP型胃癌の診断は伸展不良の所見が不明瞭であるため,粘膜ひだや粘膜模様の微細な変化を表すX線検査が必要である.

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要旨 逆追跡されたlinitis plastica型胃癌の初期病変は微小なものだけではなく,相当の大きさの例もみられる.linitis plastica型胃癌の初期像の診断精度を向上させる目的で,非萎縮帯に存在した未分化型SM・MP癌46例の内視鏡的所見を検討した.①粘膜下組織の癌浸潤範囲が粘膜内進展範囲より広く,②粘膜下組織の線維化組織を越えて癌が浸潤する病巣を初期病変であるpre-linitis plasticaとすると10例が該当した.pre-linitis plastica癌の内視鏡的特徴として,癌巣中央陥凹面の白苔,癌巣周囲隆起,皺襞集中を認めることが多かった.これに対して小範囲浸潤例は白苔,周辺隆起が少なく.充実型低分化腺癌例は白苔,ひだ集中が少なく,鑑別が可能ではないかと思われた.しかし,粘膜下層に大量浸潤した例では白苔,周辺隆起,ひだ集中が観察されることが多く,pre-linitis plasticaとの鑑別が難しいものが含まれると考えられた.

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要旨 linitis plastica(LP)型胃癌の初期病変3症例を提示した.LP型胃癌の初期病変は胃底腺領域のⅡcとして発生する.その浸潤予測はpre LP型胃癌では困難なことが多いが,陥凹周囲のひだのわずかな太まりや発赤調の陥凹底が診断の手がかりとなる可能性がある.latent LP型胃癌では陥凹周囲の台状挙上と硬さ,ひだ走行の滑らかさの欠如により診断可能である.EUSでは癌に伴う線維化の部分はlow echoとして認識できたが,それを越えて浸潤する癌細胞は同定不能であった.胃体部のⅡcで未分化型癌が生検で証明された場合は,伸展性が保たれていてもscirrhousな浸潤の可能性を考え,これらの所見に注意すべきである.

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要旨 4型胃癌治療の約20年を回顧した.手術単独の治療成績は進歩がみられたが,現在ある一定のレベルに達しているものと考えられる.術前術後化学療法との相乗効果で今後さらなる予後の改善を期待することができる.しかし高度に進行した4型胃癌は依然治療抵抗性の場合も多い.将来的なperspectiveを備えた臨床試験を実施するとともに,分子生物学的な知見を臨床に取り入れていく必要があるだろう.

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要旨 linitis plastica(LP)型胃癌は早期発見が困難であり,発育や進展が速いため外科的切除術後の予後は不良と言われている.また,腹膜転移を来しやすく,腸閉塞,水腎症,腹水,閉塞性黄疸のために全身状態が不良となり,臨床試験の対象から外れることが多いため,標準治療が定まっていないのが現状である.そのため,LP型胃癌治療は,患者個々の全身状態や病態に応じた治療戦略を構築することが重要である.

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要旨 スキルス胃癌は,増殖・浸潤が急速広範で根治手術不能例が多い.胃癌全体の治療成績は向上しているが,スキルス胃癌の5年生存率は10%程度と依然不良である.スキルス胃癌は,癌細胞と線維芽細胞が互いに産生する因子を介して増殖・浸潤促進作用を発現している.すなわちスキルス胃癌細胞は,同所性である胃線維芽細胞が産生するKGFにより増殖促進を受け,また,TGF-βやHGFにより浸潤促進を受けている.スキルス胃癌細胞に強く発現するチロシンキナーゼ型増殖因子レセプターFGF-R2はKGFをリガンドとし,癌-間質細胞相互作用に関与している.このFGF-R2を分子標的とした治療がスキルス胃癌に有用であることが示唆される.

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要旨 症例は63歳,女性.上腹部痛と食思不振を主訴に受診した.体外式超音波では,胃体下部から前庭部にかけて不明瞭ながらも層構造の温存された壁肥厚が描出され,内腔の狭小化と壁硬化を伴っていた.胃X線および内視鏡検査では体下部から前庭部に粘膜の粗糙な壁硬化を認めた.びらん面からの生検により低分化型腺癌と診断され,幽門側胃切除が施行された.病理組織学的には胃壁全層に結合織の増生を伴うsignet cell carcinomaの浸潤がみられたが,超音波像は壁層構造の変化をよく反映していた.びまん性胃壁肥厚を呈する疾患は腫瘍性,炎症性とも多岐にわたるが,体外式超音波はそのスクリーニングおよび鑑別診断に有用であると思われた.

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 症例は50歳,男性.人間ドックの胃内視鏡検査で,胃体上部大彎の褪色域に浅いびらん性病変を有し,同部位の生検にて低分化腺癌と診断された.食道胃接合部から幽門前庭部では,送気による膨らみは良好である顕著な萎縮性胃炎であった.胃内視鏡色素撒布検査では,褪色域は比較的境界が明瞭な表層拡大型Ⅱc病変を呈しており,深達度は主に粘膜内癌で粗大顆粒状部位では粘膜下層までの浸潤と診断した.噴門側胃切除を施行するも術中,迅速標本にて肛門側断端陽性であり,幽門側胃切除を追加し胃全摘術を施行した.病理組織学的所見では,癌の粘膜面露出はⅡc面に一致していたが,Ⅱc病変を中心により広範囲な粘膜下層から漿膜下層までの浸潤をみる4型胃癌であった.胃体部の低分化型の表層拡大型Ⅱc病変の診断時には,常に“潜在linitis plastica型癌”を念頭に置き,胃壁の変化などを注意深く検討することが極めて重要であることを再認識させられた症例であった.

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要旨 X線・内視鏡検査にて遡及的に経過観察しえたlinitis plastica型胃癌(以下,LP型癌)の2例を報告する.〔症例1〕初回X線,内視鏡検査では胃体上部前壁に粘膜ひだの集中を伴う長径20mmの不整な陥凹性病変を認めた.陥凹の周囲はやや隆起しており,粘膜ひだの腫大を認め,0Ⅱc型のSM癌と推定した.その後のX線経過で,胃体上部から胃体下部にかけて胃壁の硬化所見と粘膜ひだの肥厚,蛇行が出現し,3年9か月後にはleather bottle状の典型的なLP型癌に進展していた.〔症例2〕初回X線検査で胃体中部から胃体下部大彎に約50mmにわたる胃壁の硬化像と粘膜ひだの肥厚を認め,SM以深癌の存在が推定された.1年6か月後のX線検査では胃体下部から胃穹窿部にかけて広範な胃壁の伸展不良を認め,LP型癌へ進展していた.各X線像より,〔症例1〕初回検査時は前LP型癌,2年2か月後は潜在的LP型癌,3年9か月後は典型的LP型癌,〔症例2〕初回検査時は潜在的LP型癌,1年6か月後は典型的LP型癌と病期分類した.2症例の経過観察期間より,潜在的LP型癌より典型的LP型癌への進展速度は1.5年程度であり,少なくとも前LP型癌の時期より4年以内に典型的LP型癌に進展したことが推定される.

学会印象記

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 2008年2月7,8日の両日,荒川哲男会長(大阪市立大学大学院医学研究科消化器器管制御内科学)のもと,第4回日本消化管学会総会が開催された.会場はグランキューブ大阪(大阪国際会議場)で,参加者は約1,500名であった.演題総数も605題と過去最高に及び,年を追うごとに増加しているのは喜ばしい限りである.プログラム構成は,コアシンポジウムやワークショップなど主題演題が146題,一般演題364題,教育講演9題,スポンサードフォーラム12題であった.また今回は新たな企画として,多数に及んだ一般演題から優秀演題を集めた「トピックフォーラム」1~8がプログラムに組み込まれており興味を引いた.

早期胃癌研究会

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 2007年7月の早期胃癌研究会は,7月27日(金)にグランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール「北辰」で開催された.司会は清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科),門馬久美子(東京都立駒込病院内視鏡科),石黒信吾(PCL大阪病理・細胞診センター)が担当した.画像診断レクチャーでは,「Barrett食道のとらえ方―Barrett腺癌診断を指向して」と題して小山恒男(佐久総合病院胃腸科)が講演した.

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欧文目次

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 早期胃癌研究会では,毎月原則として5例の症例が提示され,臨床所見,病理所見ともに毎回詳細な症例検討が行われている.2003年より,年間に提示された症例の中から最も優れた症例に最優秀症例賞が贈られることになった.

 5回目の表彰となる早期期胃癌研究会2007年最優秀症例賞は,秋田赤十字病院消化器病センター・山野泰穂氏,吉川健二郎氏の発表した「過形成性様病変が3年6か月の経過中に早期大腸癌を合併した1例」(司会によるまとめは「胃と腸」本号868頁に掲載)に贈られた.2008年3月19日(水),東商ホールで行われた早期胃癌研究会の席上で,その表彰式が行われた.

編集後記 大谷 吉秀
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 スキルス胃癌,びまん浸潤性胃癌,4型胃癌は臨床の現場ではほぼ同義に用いられている.これらは幽門腺領域に発生し幽門狭窄所見を呈するタイプと,今回の特集で取り上げたlinitis plastica型胃癌に大別される.linitis plastica型胃癌では胃体部の小さなIIcが最終的にはleather bottleの形状を来すことが多いが,初期病変を的確に診断することが何よりも大切である.残念ながら今日でも検診の見逃し例や誤診例は日常診療の現場で経験する.粘膜下層から胃壁全層を月の単位で広がり,粘膜面の変化も乏しく,手術においては切除ラインの決定に慎重な判断を要する.

 本誌では過去に3回特集が組まれているが,今回の企画では35巻7号(2000年)以降の新たな展開が網羅的に書かれており,データを集積し執筆された先生方の熱意に感謝したい.日常診療における早期診断への情熱とTS-Iを含む術前化学療法の確立,さらには分子標的治療の導入により,さらなる治療成績の向上につながることを期待したい.本特集を読まれた方々が1例でも多くのlinitis plastica型胃癌の初期病変を見つけ出すことで,患者さんの幸福に貢献できることを期待してやまない.

基本情報

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胃と腸
43巻5号 (2008年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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