胃と腸 3巻9号 (1968年8月)

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Ⅰ.緒言

 医原性疾患という言葉は,今日ではSirArthur Hurstが最初につくった定義“a term(iatrogenic)applied to disorders induced in the patient by autosuggestion based on the physician's examination,manner or discussion”(医者の検査や言動にもとづく,患者の自己暗示によってひきおこされる病気)からは次第にかけはなれ,iatrogenicを,「医療による」といった意味に,拡大解釈されるのがふつうである.そこで,投薬や手術などの医療行為に伴う副作用が,いわゆる医原性疾患の主要な部分を占めているのが現状である.しかしこの語源からすれば,医師の不注意な言動や診断の誤りによって,そうでなければ避けられるはずだった不利な状態に患者をおとし入れるもの,本来ならば,100%避けられるような種類のものに限られるべきだという考えもなり立つわけである.私どももかねて,「医原性疾患については,Hurstの最初の定義に立ちかえって,薬や手術の副作用だけでなく,医者という薬の副作用についても,反省すべきである」と主張している.

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Ⅰ.まえがき

 Iatrogenic disease(医原性疾患)という言葉が1930年代Sir Arthur Hurstによって用いられて以来,いろいろな用語が似たような意味合いで使用されてきた.しかしその概念は入により多少の相違があり,今にしてなお若干の混乱がある.ことにわが国では,これについて注目され出した歴史が浅いためか,この言葉の用い方,含まれる内容に一層の曖昧さがめだつ.

 本来は,平易ないいかたをすれば,主に医者の言動によってひきおこされた不利な患者の状態,すなわち医者,患者間の心理的交互作用によってつくり出された病的状態といった意味合いであるが,その後だんだんと投与した薬剤,手術などの医療行為そのものによってひきおこされる障害もこれに含まれるようになってきた.いわば医原性心理障害と医原性身体障害を含めた広い意味で医原性疾患という言葉を使っている人が最近では多いようである.しかし人によっては,あくまでも医者の言動によって惹起される医師原性のものを医原性疾患の本来のかたちとみるのが妥当であるといっており,わが国の日野などもその見解を主張し,治療により当然おこることが予想されるものは,むしろMoserがいったようにdisease of medical progressとして別に考えるほうが混乱をきたさないであろうとしている.

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Ⅰ.はじめに

 医原性疾患という言葉がうまれたのはかなり古く,1932年から1938年のあいだにSir Arthur Hurstによってはじめて使われたようである.その言葉の意味は,医師の言動あるいは論議がもととなる患者自身の自己暗示によっておこる種々の障害,と定義されている.即ち医師の医療行為のうち特に患者に対する精神的な影響に問題を求めた考えかたで,診断,治療の場で患者に接する医師の言動,態度が患者の心の中に意外な反応をよびおこし,場合によっては極めて有害な精神的身体的病的状態にまで発展する可能性のあることを警告し,医師の反省を求めたものと思われる.一方1933年にはA.Kreckeが“Der Arzt als Krankheitserreger”という興味ある論文を発表し,これによるとKreckeは病気を治療すべき立揚にある医師が日常の診療行為の過程で実は医師自身が新らしい病気を作って行く危険があることを指摘し,Hurstの場合の精神的暗示のみにとどまらず,具体的な治療行為即ち胃下垂症その他の内臓下垂,遊走腎に対する手術療法が治療として行われる反面,新らしい病的状態をつくりだす可能性をはらんでいることを指摘し,医師が患者を治療する揚合にその治療行為の功罪両面を常に念頭におき,慎重であるべきことを説いている.

 何事によらず,人は己れの行為を常に反省し謙虚な態度でことにのぞむべきであるが,病を治療する立場にある医師には殊更このことが強く要求されるのは当然のことであり,Hurstの“医原性疾患”,Kreckeの“Der Arzt als Krankheitserreger”いずれも医師に反省の気運をもたらした点で歴史的に極めて重要な意味をもつものと考えられる.

 最近の医学の進歩はまことにめざましいものがあり,多種多様の強力な作用を有する薬剤は医師の身辺を埋めんばかりで検査の分野でも,昔はおもいもよらなかった大胆な検査が日常気楽におこなわれるようになった.外科手術の領域では又一段とはなやかで,心臓移植をはじめ一昔前までは全く人類の夢であったことが既に現実におこなわれつつあり,今や医学は人類の全智全能を駆使し,不可能を可能にするため着実な歩みを続けているように見える.

 しかしその反面,そのためにおこる複雑な副作用や,従来から常識的におこなわれて来た治療法の再検討,更には患者の心身医学的観察がおろそかになる一方,マスコミによる不必要な又は間違った医学知識の普及などが影響して従来の教科書には記載のなかった全く新らしい疾患,非典型的な病態や経過を示すもの,器質的所見が無いにもかかわらず困難な訴えを持ついわゆる心身症など新たな疾患群の増加が目立って来つつある.

 わが国においては数年前から医原性疾患に関する論文が盛んに発表されるようになり,そこに取扱われた疾患の範囲は,主として医師又は医療従事者の言動が原因になったと思われる精神的異常状態にかぎったものから,種々の薬剤の使用過誤,副作用,更には外科手術後の諸障害,患者側の性格的因子や医師の社会的環境にも責任の一端があると指摘しているものなど多岐にわたっているが,いわんとするところは,医学のめざましい進歩にかくれてつい忘れがちな医師の反省を強くうながしている点では一致している.医原性疾患といっても,夫々使い方に広義狭義,いろいろの立場があるようであるが,この言葉の歴史的背景からして私はHurstの定義に必らずしもこだわる必要はなく,それを含めてすべての医療行為が原因でおこる種々の疾患のうち,あきらかな過誤はのぞき注意すれば防ぎ得たもの又は現在は不可避でも将来解決し得るよう努力すべき疾患をすべて医原性疾患と考え,その予防,治療に努力することこそ現代医学の進歩をより一層輝かしいものにする道であると考えている.

展望

血清肝炎 海藤 勇 , 佐藤 俊一
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Ⅰ.まえがき

 血清肝炎は近年,手術適応範囲の拡大,血液銀行の発達などにより大量輸血が行なわれるようになってから急激に増加し,社会的にも大きな問題となったことは周知のことである.しかも無黄疸型がかなり多くみられ,流行性肝炎に比して慢性化の傾向がつよい点も注目すべきである.

 さらに治療についても決定的なものがなく,治癒判定についても極めて慎重に行なう必要があり,ことに遷延慢性例のとりあつかい方が問題となってくる.

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Ⅰ.まえがき

 胃癌発生母地に関しては古くから多くの論争がなされてきたが,臨床診断法の進歩と共に種々多彩な早期胃癌が発見され,多くの知見が得られるに及んで新たな論争が起っている.本例もその特異な所見から,発生母地に関して一つの示唆を与える症例ではないかと思われる.

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Ⅰ.まえがき

 われわれは多数の胃潰瘍を治癒後も厳重にfollow upしているが,その瘢痕化したように思われた潰瘍部位より,癌化したと考えられるⅡc+Ⅲ+Ⅱa型早期胃癌を経験したのでここに報告する.

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 間接X線検査で小さなⅡaを診断することはきわめて困難な問題である.本例は幸いに後壁大彎側を主とした大きなⅡa型早期癌で間接X線写真の辺縁不整,伸展不良の所見から見逃しをまぬがれた.

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Ⅰ.症例

 患者:栗○節○,36歳,女

 主訴:心窩部痛及び嘔吐

 家族歴:父親は62歳の時食道癌にて死亡.母親は43歳の時胆囊炎にて死亡.

 既往歴:特記すべきものなし.

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Ⅰ.緒言

 小腸の良性腫瘍は比較的まれなものであり,主としてポリープ,腺腫や脂肪腫である.血管腫はきわめてまれで,その内の5~9%を占めるに過ぎない.欧米においてもRiverの集計では1956年まで小腸良性血管腫は127例であり1),1962年Reifferscheidは悪性のものも含めて337例をまとめている2).本邦においては小腸の良性血管腫はまだ9例が報告されているのみであり,血管腫によって誘発された腸重積の症例はわずか3例である3).しかし血管腫によって起った狭窄のために腸閉塞を招来した症例は未だ報告されていない,

 われわれは最近腸閉塞症状をおこし,その原因が回腸の毛細血管腫による狭窄であると考えられる症例を経験したので紹介する.

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 白壁 学会でお忙しいところお集りいただきましてありがとう存じます.役不足ですが,司会させていただきます.

 昨日の医原性疾患のシンポジウムを話題にして,皆様の日ごろの御経験,それからうんちくを御披露いただきたいのでございます.

技術解説

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Ⅰ.はじめに

 現在の胃腸検査方法の中で,最も広く行なわれているものは,充満法をのぞけば,圧迫法と二重造影法である.圧迫法は病変を現わすのにかなり技術を要するため,二重造影法ほど繁用されていないのが現状であるが,この2つの検査方法は決して単独で行なわれるべきではなく,それぞれの欠点を相補って必ず併用すべきものと考えている.

研究会紹介

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 群馬の地に,マーゲン研究のグループが生まれたのは,多分昭和36年頃だと思う.以来各地区に,同志蜂起し,現在では毎回の定期研究会に集まる者は,50名を下らない盛況である.正式に発会式を挙げ,規約を作り,会員を募集したという事は未だなく,云わば,自然発生的に同好の者が集まり,現在に及び,今では,いやしくもマーゲン研究に熱意のある人は,殆ど顔を出していると云って過言ではない様だ.以上の様な次第なので,我々の集まりに正式な名称はつけてないが,要は内容を採ろうと云う事である.

 さて,我々のグループは,大体毎月1回乃至2回,各地区持廻り会場で研究会を開いている.学会形式に各自が発表するのではなく,講師の先生をお招きして,専門のテーマでお話をきき,その後で充分微細に入り質疑を進め,その次に各自持参のフィルム読影のディスカッションをする,という形である.講師先生のレクチュアもさる事ながら,フィルム読影には頗る熱が入り,議論百出,最後に,先生の快刀乱麻を断つ如き明解さに,悪夢より一瞬にして醒めた様な爽快さを覚えるもので,之勉強の醍醐味とでも云うものであろう.又数人の先生をお願いして,シンポジウム形式でお話を進めて頂き,学会の再現を彷彿させ,居ながらにしてその深遠な学問の極地を垣間見得る事之亦我々グループの特権である.尚一年に一回大低夏には,涼を求めて遠く信州の地に一泊の研究会を行なう恒例になっている.

三重消化器研究会 亀谷 晋
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 三重消化器研究会は,三重大高崎教授,田口教授,及び小生等が発起人となり,三重県の消化器病学のレベルアップをするため,研究会を持とうということになり発足致しました.

 その第1回は,昭和39年2月津市で,千葉大白壁彦夫先生,大阪回生病院青山大三先生をお願いして,「胃レントゲン診断について」の特別講演をしていただきました.この時の出席者は100名にも及び幸先よい発会でした.

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欧文目次

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 近年,向精神薬のめざましい発展にともない,精神科以外の一般臨床家の日常の処方にも,向精神薬がもりこまれる機会が,日ましに多くなってきた.

 患者の体の症状の背後にある心理的因子にたいする,臨床家たちの洞察が深まれば深まるほど,身体諸器管にたいする処置や投薬だけでなく,患者の心に働きかけるさまざまな療法を併せ行う,いわゆる心身医学的な治療の重要性が注目されるようになってきた.ところが,一般臨床家にとっては,特殊な訓練を要し,非常な時間と労力を費さねばならぬ心理療法を日常実践するのは,容易なことではない.そこで,今日,一般臨床における心身医学的な治療の大きな部分をしめるのは,身体的な療法と向精神薬の併用である.

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 第二次世界大戦の終った数年後に,教育ミッションのグループの一人としてDarron博士が来日した頃は,我が国では電解質に関する知識が臨床にまだとり入れられていなかった.この方面ではアメリカの医学と日本の医学の隔たりは非常に目立っていた.

 その後,この方面の知識を臨床にいかすための努力が諸家によりなされてきたが,その後,約25年たったにもかかわらず,未だこの方面の医学になじまない臨床医が少なくない.

編集後記 城所 仂
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 長い暑さに倦み,そろそろ涼しい季節が懐かしく思われる時候である.まもなく秋の学会シーズンが到来するので,それぞれ心せわしくなって来る頃でもあろう.

 おかげ様をもって,この雑誌は皆さまの厚い御協力のおかげで毎号特徴のある内容を揃えて発行することが出来ている.尚いろいろ御不満の点も多いことと思うので,どうぞ心付いた点は御遠慮なく御申し越しいただきたいものと思う.

基本情報

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胃と腸
3巻9号 (1968年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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