胃と腸 29巻6号 (1994年5月)

今月の主題 アフタ様病変のみのCrohn病

序説

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 Crohn病は最初の発表(1932年)から60年以上経つが,依然として謎にみちた疾患であり続けている.Crohn病とは何かという問いに対して,それこそ十人の専門家から十色の答えがあるのが現状であろう.しかし,こと形態学に関してはその特徴が段々に絞られ,比較的単純化して考えることが可能になった.すなわち,①粘膜に関しては潰瘍性病変である,②腸壁に関しては全層性になりうる,③瘻孔を通じて腸管外にも病変が拡がりうる,の3点である.この3つの組み合わせが多様であるため,経験が乏しかった時代には,途方に暮れる症例が少なくなかった.

 消化管の形態学的診断を特色とする『胃と腸』では特に①に関心が集まる.日本の腸管診断家たちが参考にしてきた欧米の成書では,Crohn病と潰瘍性大腸炎(UC)は非常に鑑別が因難な症例が多いとし,両疾患の鑑別表が必ず載っていたし,今もそうである.両疾患は粘膜部の病変のみに限っても全く異なったマクロ像であり,鑑別は容易である.欧米でIBDの診断学が誕生したのはコロノスコピーが普及する前の時代であり,しかも注腸X線もさほど細密なものではなかったので,やむを得なかったと思われる.コロノスコピーによってIBDの診断に参入した筆者らの世代にとっては,Crohn病とUCはこと粘膜面に関して言えば全く別の顔をしていて,むしろ容易に鑑別できる疾患であるように見えた.Crohn病は周囲粘膜が正常であるdiscrete ulcersから成り,一見複雑に見える外観も潰瘍の組み合わせの多様さによるものである.UCは潰瘍がない場合もあるが,潰瘍があれば必ず発赤した粘膜に取り囲まれている.したがって,同じ潰瘍形成性の病変といっても両者は全く別の形態と言わざるを得ない.潰瘍周囲の炎症の有無は,炎症性疾患の診断においては第一級の重要所見である.潰瘍周囲粘膜の血管像,発赤,出血などの有無を確実に診断できる内視鏡にとって鑑別診断は極めて容易である.

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要旨 アフタ様病変のみから成るCrohn病21例(以下,A型Crohn病)と典型的Crohn病(以下,O型Crohn病)166例を比較した.(1)男女比はA型で有意に高く,腹痛,下痢,発熱,体重減少は有意に少なかった.肛門症状のみを訴えた7例があった.また,A型では活動指数は低く,栄養状態は良好,炎症所見は有意に低値であった.以上の成績から,A型Crohn病はO型Crohn病の初期病変と考えられ,その発見には肛門症状を訴える若年者に大腸内視鏡検査を施行することが重要と思われた.(2)A型Crohn病の病変は食道14%,胃・十二指腸各95%,小腸86%,大腸100%の頻度でみられた.大腸でアフタが縦列したものは1/5以下であった.初回生検は胃,十二指腸から平均7個,大腸から20個採取され,15例(71%)に肉芽腫が認められた.(3)栄養療法で病変はすべて消失,消褪,改善した.しかしすぐに再燃し,長期的には増悪するものが多かった.O型Crohn病進展例は6例(経過期間約2~4年).長期消失・消褪例3例(4~6年)で,前者に濃厚な治療が施行されていた.以上のことから,A型Crohn病の中にも種々の病態のものが含まれていると考えられた.

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要旨 患者は17歳,女性.軟便を主訴として来院.消化管検査で胃から大腸までアフタ様病変が散在,特に大腸のアフタ様病変は縦走に配列していた.胃前庭部からの生検で非乾酪性類上皮肉芽腫を認め,アフタ様病変のみのCrohn病と診断した.その後,自然に症状は軽快したため来院せず,約10か月後に軟便を自覚して来院.消化管検査の結果,大腸のアフタ様病変は増加し,上行結腸およびS状結腸に縦走潰瘍を認めた.約8週間の経腸栄養療法で自覚症状は消失し,X線および内視鏡上縦走潰瘍の瘢痕化とアフタ様病変の減少が確認された.

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要旨 患者は17歳,男性.下痢,発熱を主訴に入院した.初診時消化管X線ならびに内視鏡検査で食道から直腸までのほぼ全消化管に散在するアフタ様病変を認めた.食道,胃,大腸からの生検で非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫が認められ,Crohn病と診断した.半消化態栄養剤の投与で臨床所見と腸管病変の改善を認めた.その後も半消化態栄養剤の投与を継続していたが,1年6か月後に回腸に縦走潰瘍を認めた.

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要旨 患者は18歳,女性.肛門周囲痛,臍周囲痛,水様下痢,発熱を主訴に来院.肛門周囲膿瘍と血液検査上高度の炎症所見を認め,Crohn病を疑い消化管を検索したところ,胃前庭部に小びらん,終末回腸に小結節状隆起の多発集簇像,全大腸に散在性にアフタ様病変を認めた.大腸アフタ様病変からの生検組織に非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を認めたためCrohn病と診断し,salazosulfapyridine (SASP)投与で経過観察していたところ,3年後に終末回腸に典型的な縦走潰瘍が発生した.肛門部病変を伴う腸管のアフタ様病変で発症し,典型例へと進展したと考えられるCrohn病の1例を報告する.

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要旨 患者は23歳,男性.発熱,下痢,腹痛を主訴に入院した.入院時,CRP高値,血沈亢進などの炎症所見を認めた.便培養では有意な細菌は検出されなかった.大腸内視鏡検査で横行結腸に縦列するタコイボ様のアフタ様病変を認めた.この部位の生検で非乾酪性類上皮肉芽腫を認めたので,臨床所見と併せてCrohn病と診断した.約1か月でアフタ様病変とは別の部位に縦走潰瘍やcobblestone appearanceを認める典型例に進行した.当初認めたアフタ様病変は治癒していた.IVHとし,prednisoloneとsulfasalazineの投与で緩解を得,その後現在まで緩解状態を維持している.アフタ様病変は本例では必ずしも進行しなかったことから,単なるCrohn病の初期病変でないことを示唆している.

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要旨 患者は34歳,男性.下痢,体重減少で発症.3か月後の注腸X線検査,大腸内視鏡検査で大腸全域にわたり,密度に差はあるがアフタ様病変が認められ,生検で非乾酪性肉芽腫が証明された.更に,10か月後には縦走潰瘍へと進展し肛門部病変が出現した.2年4か月後に敷石像へと進展し,この時点で腸管を腫瘤として触知するようになった.TPNなどの栄養療法を主体に治療しているが,その後更に7年間の経過で,瘻孔形成などの重篤な合併症は出現しなかった.Crohn病に見られるaphthoid ulcerの進展様式とその意義について考察した.

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要旨 患者は15歳,男性.泥状下痢便を主訴に来院.初回消化管X線・内視鏡検査で直腸から下行結腸,横行結腸,回盲弁,回腸に多発するアフタ様病変を認めた.感染性腸炎が否定され,大腸生検により非乾酪性肉芽腫を認め,アフタ様病変のみの小腸・大腸型Crohn病と診断した.初診時から2年間は半消化態栄養療法のみを施行したが,アフタ様病変が消褪しないため,その後ステロイド療法を併用した.臨床症状は改善したにもかかわらず,3年6か月間にわたりアフタ様病変は不変であった.本症例のようにアフタ様病変が長期間観察され不変であった,という報告は少なく,Crohn病の自然史を考えるうえで興味深い症例であると考えられた.

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要旨 患者は26歳,女性.下痢,下血および左下腹部痛を主訴に来院.内視鏡検査で右側結腸粘膜に発赤,浮腫およびアフタ様病変を認めた.自覚症状は2,3日で消失し臨床検査所見上も異常を認めなかったため,1年半後の生検組織像に肉芽腫がみられたが,初診から3年間無治療で経過観察された.3年後,軽度の炎症所見と,内視鏡検査でアフタ様病変のわずかな増加を認めた.以後salazosulfapyridine(SASP)のみで治療し,5年間寛解を維持し現在も経過観察中である.

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要旨 アフタ様病変のみから成るCrohn病症例の5年間の経過を報告する.患者は16歳,男性.1988年4月,腹痛,下痢,体重減少を主訴に来院.軽度の炎症所見を認め,X線検査で胃,十二指腸,小腸,大腸に径2mmまでのバリウム斑を有するアフタ様病変を認めた.各部位からの生検組織から非乾酪性肉芽腫が検出され,Crohn病と診断した.入院後10週間の中心静脈栄養療法で自覚症状,炎症所見は消失し,アフタ様病変も著明に改善した.以後,外来で半消化態栄養剤の投与を行い,ほぼ臨床的緩解は維持されていたが,1年3か月後に十二指腸,2年後に小腸,2年6か月後に胃,3年11か月後には大腸にアフタ様病変の再発が認められた.

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要旨 51歳,女性.咽頭痛,発熱,下痢で発症.裂肛を認めた.入院時検査で異常値を示したものは白血球増多(13,200/μl),貧血(Hb9.1g/dl),低アルブミン血症(2.7g/dl),CRP(3+),血沈亢進(50mm/1時間)であった.初回の注腸X線検査で直腸,盲腸を除く大腸に無数のアフタ様病変を認め,小腸X線検査でも回腸にアフタ様潰瘍を認めた.大腸内視鏡検査でもアフタ様病変を認め,S状結腸からの生検標本内に非乾酪性類上皮性肉芽腫を認めた.成分栄養療法を開始し,副腎皮質ホルモン,salazosulfapyridine投与で臨床症状は速やかに消失し,検査所見も改善した.初回検査から9週間後のX線像では,大腸粘膜面に粘膜ひだ集中と炎症性ポリープを認め,治癒像を示した.その8か月後のX線像ではリンパ濾胞の増悪がみられ,更に2年後のX線像ではリンパ濾胞増悪の所見が存続した.そして,その1年7か月後,初回から4年6か月後の注腸X線像ではアフタ様潰瘍の再発を認めた.また,小腸に短い縦走潰瘍,偏側性の壁変化から成るCrohn病の特徴的所見が認められた.この症例をはじめ,報告された同様の症例のX線所見をみると,緩解したCrohn病の再燃の前ぶれとしてアフタ様潰瘍が再発している.

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要旨 患者は32歳,男性.19歳ごろに内痔核の既往がある.25歳ごろから断続的な下痢,下腹部痛が出現.27歳初診時,炎症反応はみられなかったが,注腸X線検査で大腸全体に径2~4mmの透亮像が散在してみられ,大腸内視鏡検査では大腸全体および終末回腸に周囲に紅暈を伴う小アフタ様病変が多発し,一部びらん形成がみられた.病理組織学的に,炎症細胞浸潤と共に類上皮細胞から成る非乾酪性肉芽腫が確認された.整腸剤内服のみで経過観察したところ,10か月後にはびらんは消失し,アフタは減少,18か月後にはアフタも消失し,その後約3年間同様である.拡大内視鏡観察ではpit patternは保たれ,点在する微小隆起は組織学的にリンパ濾胞過形成を伴う慢性炎症像であった.本例はCrohn病との異同が問題となるが,確定診断には更なる経過観察ならびに症例の蓄積が必要である.

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はじめに

 アフタ様病変のみから成るCrohn病の臨床経過と予後を明らかにする目的で,本特集で報告された症例と,過去に報告された症例1)~4)についてアンケート調査を行い,典型例へと進展した症例と不変・改善~消失を示した症例を比較検討した.

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〔患者〕79歳,男性.主訴:右下腹部痛.

既往歴:1988年7月,胃癌(Borrmann2,pm)手術.

現病歴:1992年1月中旬から右下腹部痛が出現し当科を受診した.身体所見に異常なく,一般検査ではCEAの高値(11.8ng/ml)以外に異常は認めなかった.

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〔患者〕56歳,女性.主訴:特になし.

現病歴:10年前より近医で検診を受けていた.1991年の検査では異常を指摘されなかったが,1993年の検査で異常を指摘された.同医で内視鏡検査を受け,手術を勧められ当院を受診した.家族歴:母,直腸癌.叔母,子宮癌.兄,肝硬変症.既往歴:特記すべきことなし.理学所見,血液・尿所見に異常は認められない.

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要旨 患者は41歳,男性.26歳時に胃切除術を受けたが,詳細は不明である.残胃の精査のため来院した.胃X線検査では,残胃(Billroth Ⅰ法)の伸展は良好であったが,不整な粘膜ひだと,その表面に微細な浅い陥凹を認めた.胃内視鏡検査で小彎を中心に浮腫状の粘膜ひだを認め,浅いびらん様の変化が散在していた.生検で悪性リンパ腫が疑われた.切除標本では,病変は小彎を中心に腫大した径不同の粘膜ひだから成り,前後壁に拡がっていた.組織学的に本症例は深達度pmのmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫であった.免疫組織学的および分子生物学的な検討では腫瘍細胞の単クローン性が証明された.

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要旨 患者は21歳,女性.1989年8月から繰り返す急性膵炎発作を主訴に1991年4月当科受診.上部消化管X線検査で,intraluminal duodenal diverticulumに特徴とされる,周囲に薄い隔壁様の透亮像を有する西洋梨状陰影を認めた.内視鏡検査で,十二指腸管腔内の吸引,送気で移動する憩室を認めた.憩室付着部位とVater乳頭の位置関係から内視鏡的切除可能と判断,ポリペクトミーの手技で切除した.切除標本では,憩室は両面とも十二指腸粘膜に覆われ,粘膜筋板を有していた.このことは本症の発生原因として不完全十二指腸隔膜説を支持する所見であり,急性膵炎の発症原因として本症が関連していたと考えられた.

早期胃癌研究会

1993年11月の例会から 神津 照雄
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 1993年11月の早期胃癌研究会は11月17日(水)に開催された.当番司会は木村(自治医科大学消化器内科)と神津(千葉大学第2外科)が担当した.相変わらず550席が一杯になり会場に立ち見がでる盛況さであった.

〔第1例〕73歳,男性.早期食道癌(症例提供:藤田保健衛生大学消化器内科 高濱和也).

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 1993年12月の早期胃癌研究会は12月15日(水),伊藤(名古屋市立大学第1内科)と西俣(鹿児島大学第2内科)の司会で開催された.

〔第1例〕食道Imの隆起性扁平上皮癌(最深達度sm1,多発性肝転移合併)(症例提供:岐阜大学放射線科 鈴木雅雄).

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欧文目次

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 本書は,消化管の外科医とX線および内視鏡診断医の共著による胃疾患の集大成がなされた著書である.また,序文にも書かれているように著者らは病理学的知識も豊富で,これまで自分たちの経験した症例はくまなく詳細な病理学的検索がなされ,かつそれを自分の目で確認してきた.したがって,本書で提示された症例はすべて著者らの努力の結晶であり,熱い情熱が伝わってくるようである.それにしても胃に関する疾患をここまで集積し,しかも臨床と病理を併せて解析したことには頭が下がる思いである.

 本書の特徴は,胃癌の疫学から始まって,早期胃癌,進行癌,そしてそれらの診断と治療,更には集団検診など極めて広範囲,かつ基礎的なことから最近の進歩までが網羅されていることである.また,これらが症例中心に分かりやすく述べられており,これから消化管診断学を学ぼうという人たちのみならず,ある程度勉強をした人にも改めて知識を整理するには便利な著書でもある.

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 アメリカで暮らしていたとき,私の息子は5歳.予防注射(アメリカの予防注射はたくさん.これを受けないと保育所にいけません)を受けに行った病院で,彼は十分,お医者さんや看護婦さんの言うことを理解していました.“服を脱いで”“はい,息を吸って”“大丈夫よ”“また,来週来てね”など.さて,私が今,外来に来ている患者さんやその親御さんと話すこともたいしたことはありません.“どうしました?”“いつからですか”“大丈夫ですよ”“結果がでるのは来週ですから,またそのときいらしてください”など.“病院のなかの会話”は,簡単で本当にパターン化したものが多いようです.

 そこでこの庄司道子先生・他著の「病院のなかの英会話」.本当に役に立ちます.毎週2~3個覚えるだけで,あるいは暇なときにつらつら眺めるだけで,半年もすればもう完壁です.ここに出てくる会話は初めての単語を覚えるわけではなくて,よく使う単語の組み合わせや言い回しで,とても短い文だけです.とっても簡単.

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 救命しうる早期の食道癌,特に食道m癌がこのようにたくさん見つけられるようになろうとは,10年前には誰も予測しなかったろう.それに,開腹せずに治療できるような時期がこれほど早く来ることも想像しなかったに違いない.というのは,胃の早期癌が診断されるようになり,定義や病型分類ができてから30年以上も経過しているにもかかわらず,同時に検査が行われてきた食道癌の早期診断は,20年以上も遅々として進まなかったからである.

 この10年間,何がこうさせたのか,本書はそのいきさつをまざまざと浮き彫りにしている.そして,早期胃癌について現在まで30年もかかって積み重ねられてきたほとんどの事項が,食道表在癌としてあますところなく書かれている.

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 「引用」の範囲を超えて他人の著作物を,自身の著作物へ取り込む場合(“転載”)には相手方(著作権者・出版社)の許諾が要ります.(許諾の条件として著作権使用料を請求される場合もあります)但し,「引用」の条件を満たして利用する場合は自由に利用できます.

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 日本において,幅広い臨床家(generalist)に育たんと欲すれば,他の医師の何倍ものエネルギーを駆使して死に物狂いに努力する以外には現在のところ,方法がない.しかも,1つの臨床研修病院や医育機関のみでは,通常,その目的は到達せられない.

 その理由の1つに,日本の卒業臨床研修システムには,おしなべて大きな欠陥があり,欧米のそれに比して研修・教育環境が必ずしも整っていないことが挙げられる.

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 本書を編んだ栃木インターナショナルライフライン(TILL: 代表 國井 修氏)は3年前,年々増えてくる外国人の患者さんとのコミュニケーションを図るために,40頁余りの冊子「外国人医療11ケ国語対訳表」を作った.“とりあえず”栃木県内に配ろうと刷られた9千部は全国から注文が殺到し,隠れたベストセラーとなった.国の政策が“たてまえ”に終始し,現実的な対応を怠っている中,いかに多くの医療機関が医療費未払いのトラブルを抱えつつ,人道上患者を見殺しにするわけにはいかず,大きなジレンマに陥っているか,そして個々の医療人がいかに言葉の壁に困っているかを物語っている.

 少し前,同じような目的で「病院のなかの英会話」(医学書院)を編んでいた私の診療机にもその1冊があった.ちょうどそのころ,私たちの病院にも英語の通じない国からの患者さんが現れはじめていたから,時宜にかなった企画に共鳴を覚え意を強くした.

編集後記 多田 正大
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 前号に続いて,今月号もCrohn病の特集である。それほどCrohn病はわれわれの頭を悩ます,そして興味深い消化器疾患である.Crohn病の形態的特徴として縦走潰瘍,敷石像,非乾酪性肉芽腫などの所見が金科玉条とされてきたが,このような所見を有さない非定型的な本症が存在することが明らかになってきている.その1つが今回取り上げられた“アフタ様病変”が多発するCrohn病である.このような非定型的なCrohn病を1グループで21例も集積した八尾論文,そして多施設集計を行った樋渡論文には説得力があり,本号の核になっている.

 八尾論文にも記載されているし,各主題症例にもみられるように,一口にアフタと言っても,その形態にかなりの差違がある事実は興味深く,一気にゲラ刷り原稿を読破してしまった.今回の特集で,どうやらCrohn病における“アフタ”の病態について,光明が見え始めたのではないだろうか.そして各地から集められた“非典型的Crohn病”とされている病変を眺めてみると,もう一度,本症の診断基準について考えなければならないと考えるのは私だけであろうか…?

基本情報

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胃と腸
29巻6号 (1994年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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