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Crohn病は最初の発表(1932年)から60年以上経つが,依然として謎にみちた疾患であり続けている.Crohn病とは何かという問いに対して,それこそ十人の専門家から十色の答えがあるのが現状であろう.しかし,こと形態学に関してはその特徴が段々に絞られ,比較的単純化して考えることが可能になった.すなわち,①粘膜に関しては潰瘍性病変である,②腸壁に関しては全層性になりうる,③瘻孔を通じて腸管外にも病変が拡がりうる,の3点である.この3つの組み合わせが多様であるため,経験が乏しかった時代には,途方に暮れる症例が少なくなかった.
消化管の形態学的診断を特色とする『胃と腸』では特に①に関心が集まる.日本の腸管診断家たちが参考にしてきた欧米の成書では,Crohn病と潰瘍性大腸炎(UC)は非常に鑑別が因難な症例が多いとし,両疾患の鑑別表が必ず載っていたし,今もそうである.両疾患は粘膜部の病変のみに限っても全く異なったマクロ像であり,鑑別は容易である.欧米でIBDの診断学が誕生したのはコロノスコピーが普及する前の時代であり,しかも注腸X線もさほど細密なものではなかったので,やむを得なかったと思われる.コロノスコピーによってIBDの診断に参入した筆者らの世代にとっては,Crohn病とUCはこと粘膜面に関して言えば全く別の顔をしていて,むしろ容易に鑑別できる疾患であるように見えた.Crohn病は周囲粘膜が正常であるdiscrete ulcersから成り,一見複雑に見える外観も潰瘍の組み合わせの多様さによるものである.UCは潰瘍がない場合もあるが,潰瘍があれば必ず発赤した粘膜に取り囲まれている.したがって,同じ潰瘍形成性の病変といっても両者は全く別の形態と言わざるを得ない.潰瘍周囲の炎症の有無は,炎症性疾患の診断においては第一級の重要所見である.潰瘍周囲粘膜の血管像,発赤,出血などの有無を確実に診断できる内視鏡にとって鑑別診断は極めて容易である.
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