胃と腸 21巻12号 (1986年12月)

今月の主題 大腸のvillous tumor

序説

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villous tumorとは?

 villous adenomaという記載はよくみられるが,villous tumorという言葉はBC Morsonが「Gastrointestinal Pathology」の中で用いている以外,これを捜し出すことができなかった.Morsonの記載でもその意味がよくわからないので病理の先生に個人的に聞いてみたところ,他の臓器でもそうであるが,benignかmalignantか決めかねるときに“―tumor”として用いることがあるということであった.

 本邦の大腸癌取扱い規約によれば,大腸腺腫が①腺管腺腫tubular adenoma,②腺管絨毛腺腫tubulo-vinous adenoma,③絨毛腺腫villous adenomaと分けられていた.

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 大腸のvillous tumorが病理組織学的に問題となることは,その定義,生検組織診断,そして癌化の3点についてであろう.

 villous tumorは組織学的に,上皮が粘膜筋板の直上から絨毛状に,あるいは櫛の歯状に腸管腔に突出しているという組織構造の特徴をもって,そのように呼んでいる.そしてWHOあるいは大腸癌取扱い規約では,大腸腺腫をtubular,tubulovillous,villousの3型に分類していて,それらの頻度はtubularの頻度が一番高く,その順で少なくなっている.

主題

大腸villous tumorの問題点 小池 盛雄
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要旨 大腸villous tumorは肉眼的ならびに組織学的に顕著な絨毛状あるいは乳頭状増殖を示すことより命名された.連続切片による再構築ではその構造はfoliaと言われるものである.villous tumorでは核分裂像は乳頭状構造の基底部から先端部まで認められ,増殖帯が広く分布し,表層に増殖帯の存在する管状腺腫とは異なる.その増殖はもっぱら垂直方向であり,特殊な狭い問質を誘導し乳頭状形態を呈する.上皮は種々の程度の異型を示し,異型の強いものは高分化腺癌と考えられる.villous tumorの癌化に関しては,まずその本態を究明することが肝要であり,細胞動態あるいは組織計測などを用いて管状腺腫や高分化腺癌との客観的な比較検討を要する.

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要旨 大腸のvillous tumor手術例(腺腫11例,早期癌13例,進行癌26例を含む)50例を対象として,それらの肉眼的特徴,villous adenomaの癌化率を検討した.villous tumorの81.8~88.5%は絨毛状~乳頭状突起の集簇より成る表面性状を持っており,肉眼的に診断しえた.癌病巣のうち,塊状に粘膜下層に浸潤した早期癌と進行癌は潰瘍,陥凹,小区の癒合,破壊像のいずれかの肉眼所見を示し,100%癌の肉眼診断は可能であった.粘膜内癌のうち,上記所見を示したものを除く78%の癌は肉眼的に診断できなかった.進行villous carcinomaでも,癌辺縁粘膜隆起が正常粘膜から成るもの(粘膜下層に塊状に癌が浸潤している所見で,進行癌を疑わせる)は15/26例(57.7%)にすぎず,残りの42.3%は早期癌との鑑別が困難であった.villous adenomaの癌化率は,高異型(high grade atypia)の部分を腺腫とすると73.8%,癌とすると72.7%であり,組織異型度の基準の差を考慮しても差はなかった.

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要旨 われわれの経験した大腸腺腫症例の亜分類を行い,それらと癌との関係を統計的に解析した.1975年末までの国立がんセンターの手術例の集計によると,大腸腺腫性ポリープ111病巣中4病巣(3.6%)が絨毛腺腫であった.1985年末までのポリペクトミー材料の集計によると483個のうちわずかに3個(0.6%)と極めて低率である.一方,多かれ少なかれ絨毛成分を有している腺管絨毛腺腫の頻度は比較的多く163個(33.8%)で,癌化率も34.4%と比較的高かった.1985年末までに経験した早期大腸癌164例177病巣について大きさ別に腺腫成分の共存率をみた.典型的な絨毛腺腫との共存例は少なく8病巣(4.5%)であったが,腺管絨毛腺腫は84病巣(47.5%)とかなり高率であった.このことは現在までに発見されている早期大腸癌は絨毛腺腫より腺管絨毛腺腫を前癌病変としているものの占める割合が高い.

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要旨 大腸villous tumorを,肉眼的には隆起性病変のほぼ全体の表面が絨毛状ないし微細顆粒状を呈し,組織学的には病変の90%以上が絨毛状突起から成るものと規定し,これに合致する21症例21材料について,臨床病理学的立場から検討した.本腫瘍は組織学的に,①腫瘍全体が非常に分化した腺癌(12例),②癌化を伴う絨毛腺腫(6例),③絨毛腺腫(3例)の3群に分けられた.これらの手術標本診断と生検診断とを比べると,それらが一致するものは33%にすぎなかった.また,腫瘍構成細胞として,全例に杯細胞が,12例に銀還元性細胞が,9例にPaneth細胞が認められた.以上の結果から,本腫瘍は潜在的に悪性ないし本態的に悪性である可能性が高いこと,および生検像のみでは本腫瘍の本態(本質)の診断が難しいことを指摘し,併せてその組織発生について簡単に考察を加えた.

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要旨 順天堂大学と千葉県がんセンターで経験した絨毛腫瘍45例47病変(絨毛腺腫21病変,腺管絨毛腺腫26病変)について検討した.自験例では進行癌はなく,sm癌は7cm以上にあった.絨毛腫瘍の肉眼形態から有茎・無茎・平盤状に分けた.有茎性が絨毛腫瘍の中で最も頻度が高い.この型では,有茎のX線所見を92%も得られた.無茎性は0.6cm以上で,2cm以上になるとm癌がみられた.この型では,表面結節性所見が内視鏡・X線で得られた.平盤状は2cm以上で,m癌は4cm以上でみられた.この型では,網状または結節性のX線所見をみる.絨毛腫瘍の診断は2cm以上で結節状ないし網状表面像と側面像で毛羽立ちをみると容易である.

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要旨 1983年から1986年6月までにポリペクトミー,手術を行った652個の腺腫,早期癌を対象にtubular,villotubular,villousの3つの組織型別に発生頻度,癌化率を形,大きさの要素を加えて検討し,villous tumorと他の2つの亜型との相違をみた.それに従って内視鏡肉眼所見について検討した.villous tumorの定義はvillousの要素が80%以上占めるものとした.villous tumorは15個あり,腺腫・早期癌全体の2%を占めた.有茎,無茎性ともにその2%を占め,形による頻度の差はなかった.1例を除き直腸S状結腸に存在した.1cm以下のvillous tumorはなく,大きさが増すにつれてvillous tumorの頻度は増した.腺腫はすべてtubularとして生じ,発育のある時期に種々の程度にvillousの要素が加わることが推定された,villous tumorの頻度が高いのは2~3cmの有茎,4cm以上の広基性のグループであった.癌化率は80%で同じサイズでみた他の亜型より高く,特にsm癌の頻度が33%(villotubular 11%,tubular 8%)と高かった.手術の対象となるような大きな広基性腫瘍は内視鏡的にvillous tumorと診断することは容易であるが,それ以外のものでは他の亜型との鑑別診断は不可能であった.

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要旨 絨毛腺管に着目し,良悪性を問わず腺管絨毛腺腫までを含めた32病変を絨毛腫瘍としてその形態を検討した.①絨毛様突起を有する典型例8病変,②絨毛様突起を有していないが,広基性で,腫瘤表面の結節は大きく,微細な凹凸不整・発赤を伴い,イモ虫様・脳回転様・八つ頭様といった特異の形態を呈する例5病変,③山田Ⅲ・Ⅳ型を呈し,更に表面の凹凸の目立つ例7病変,④通常の山田Ⅲ型・Ⅳ型と全く鑑別ができない例12病変,の4型に大別できた.病理組織学的に絨毛腺腫および腺管腺腫との中間型が全体に占める比を求めると,②,③では全例が大部分を占めていたが,①,④では大部分を占める例からわずかな例まで広く認められた.

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要旨 villousあるいはtubulovillousと判定された大腸腫瘍46例47病変と,tubular adenoma9例10病変を合わせた57病変を対象とし,組織所見と切除標本肉眼所見,X線および内視鏡所見とを比較検討した.その結果,組織所見と切除標本肉眼所見の間に良好な相関性が認められた.すなわち,組織学的なvillous成分の増加と共に,腫瘍表面の絨毛状~顆粒状パターンが顕著となり,結節状パターンは減少した.また,X線および内視鏡所見も組織所見とよく相関し,組織学的なvillous成分の増加と共に,X線上の網目状~顆粒状パターンおよび隆起辺縁の毛羽立ちが,内視鏡上の微細顆粒状~絨毛状パターン,粘液付着および特徴的な色調(中等度ないし軽度の発赤を呈し,部分的に白色調を認める)がそれぞれ顕著となった.そして,これらvillous tumorに特徴的なX線・内視鏡所見は,組織学的なvillous成分が腫瘍全体の約3/4以上を占める症例(VおよびV>T)で高頻度に出現した.したがって,villous tumorは,組織学的なvillous成分が腫瘍全体の約3/4以上を占めるものに限定されるべきであると考える.

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要旨 大腸villous tumorの治療法は,その部位,大きさ,腫瘍内の癌巣の有無により選択される.特に癌巣についてはその大きさ,深達度という拡がりを正確に判断しなければ,誤った治療により予後を不良にすることもある.1955年から1984年までに癌研病院で扱った大腸villous tumor35例の治療内容を検討した.内視鏡的ポリペクトミーのみによって完全摘除しえたものは3例にすぎず,他の32例には何らかの外科的処置が加えられた.初回治療後再発したものは2例で,1例は内視鏡的ポリペクトミー後に,他の1例は経肛門的摘除後であったが,いずれも再発後の治療で完治している.癌巣の有無の診断には通常の生検では誤った判断に陥りやすい.sm以下の癌巣の有無については病変の形状の把握が大切である.

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要旨 villous tumorとは肉眼的にvillousな所見を呈する腫瘍で,多くはvillous~tubulovillous adenomaの組織像を呈する.一部に癌が認められることがあるが,これはm癌で治療方針に変わりはない.肉眼的に浸潤癌を示唆する所見(硬結,潰瘍)がみられ,組織学的にも癌が証明された場合にはvillous tumorには含まれない.このようにvillous tumorは純粋に臨床的,肉眼的診断名であること,臨床的には良性病変であることを銘記しておく必要がある.良性病変であるから局所切除,焼灼によって治療する.これが不可能な場合には前方切除が考慮される.われわれの経験したvillous tumorは11例で,1例を除いて直腸病変であり,m癌3例,sm癌2例,ss癌1例が含まれていた.1例に局所再発がみられたが,局所切除の追加によって治癒した.局所切除法には経肛門的,経括約筋的,経仙骨的の3法があるが,腫瘍の部位,大きさ,形態によっていずれかを選択する.villous tumorは局所切除によって治療可能な病変である.

今月の症例

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 患者は56歳,女性。約5か月前,排便時に肛門より,少量の出血と共に小指頭大の腫瘤が突出することに気付く.この腫瘤は急速に大きくなり,来院時(1979年8月13日)には鶏卵大になった.肛門指診では,歯状線の直上に結節状で弾性硬,有茎性の大きな腫瘤を触れた.

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要旨 大腸隆起性病変の中には,非常に広範な病変でありながら背が低く,その表面性状が大小の顆粒像から成る症例がまれに認められる.文献上,類似する症例の報告が散見されるが,その実態は十分解明されていない.そこでわれわれは,このような症例の蓄積に努めるうちに,経時的・遡及的に検討しえた4例を経験した.この4例に共通する特徴は,病変の拡がりに比較して背が低く,その表面に大小の顆粒像が認められることであった.組織学的には,4例中最終的に切除された2例とも,病変の大部分は絨毛腺管腺腫像から成っていた.また,2例は一部に小さな癌巣を認めた.経過観察中の2例の生検組織像は腺腫であった.次に,注腸X線写真で経時的・遡及的に検討した結果,その初期形態はわずかな顆粒像であり,経過と共に顆粒の集簇した形態を保持したまま,側方への腫瘍径の著明な増大が認められた.

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要旨 上行結腸から盲腸にかけて,比較的限局した範囲に発生した炎症性ポリポーシスを経験した.患者は58歳の女性で,粘血便を主訴に来院し,注腸および内視鏡検査にて上行結腸に大きな腫瘤を指摘された.絨毛腺腫を疑って切除されたが,組織学的には炎症性ポリポーシスであった.その後,経過観察中であったが,切除後1年1か月の注腸にて,吻合部の肛門側に一致してポリポーシスの再発が認められた.切除後4年11か月の内視鏡検査では,ポリポーシスは改善傾向にあり限局した大腸炎の所見である.現在までの注腸,内視鏡および組織学的所見からは,右側結腸に限局した潰瘍性大腸炎に伴う炎症性ポリポーシスと考えられた.

初心者講座

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 Ⅷ.良悪性の判定の難しい病変

 前回まで早期胃癌の内視鏡的特徴について触れ,ふだんからこれらの変化に慣れておくことが,“早期胃癌の見つけ方”につながることを述べた.

 しかし,実際の臨床の場では診断に迷う症例に遭遇することがある.

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欧文目次

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 本書は,平松慶博氏が7年前に出版された「腹部CTスキャンの読み方」の内容を全面改訂して,腹部CT画像を撮る人,読影する人のために,必要な知識と技術を,画像を用いて解説した,非常にわかりやすいアトラスである.一読しての感想は,なにか豊かになったような満足感を覚えたことである.

 平松氏をはじめとする著者の方々が,多年にわたるX線診断や血管造影の豊富な経験をCT検査に活かしながら,より鮮明なCT像を得るために,日夜重ねられた努力の結晶と言うべき書である.

書評「小児の画像診断」 草川 三治
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 医学書が世の中に氾濫している.たいていの本は目を通していったん本棚に入れると,もう二度と見ることなく,1~2年すると捨ててしまいたくなる本であることが多い.

 ところがこの本は本棚にしまっておく本ではなくて,まさしく机の上に置いておくべき本と一言っても過言ではないであろう.とにかく使う本だと思う.箸者も述べているように,画像診断学ではなくて,学が抜けている.まずここにこの本の大きな意義がある.しかし,最初の基礎編は一応通読あるいは熟読しておく必要があるが,あとは必要な項をその都度見ればよい.あとでも述べるが,診断へのアプローチの項目の選び方は心憎いばかりに実際的で,的を射ている.

編集後記 牛尾 恭輔
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 本号は「胃と腸」でvillous tumorを初めて主題とした特集号である.その背景には最近におけるX線,内視鏡の進歩と普及により,古典的なvillous tumorの形態に合致しない例や,比較的小さく扁平な病変が次第に発見されるようになってきたことがある.その結果,各研究者の問で概念上の見解の相違もみられるようである.そこで日本におけるvillous tumorの実態をそろそろ明らかにし,外国で言われていることが本当に正しいか否かを吟味し,誤っているところは正したいという目的意識が生まれ,本号の企画となった.序説の2題(八尾氏,中村氏)は問題点を的確に浮き彫りにし,10題に及ぶ主題の各執筆者はそれぞれ臨床,病理の立場から,定義,癌合併率,生物学的位置づけ,病変の取り扱い方などについて,率直に見解を示された.本号を読めば,villous tumorに対する現況が理解できる.それと同時に読者は各執筆者の間で,定義やvillous adenomaとみなすその量的割合について,微妙な差異があることに気付かれるに違いない.

基本情報

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胃と腸
21巻12号 (1986年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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