胃と腸 2巻10号 (1967年10月)

今月の主題 慢性胃炎1

綜説

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Ⅰ.まえおき

 1)我々が取扱っている胃の病理検査材料は,通常臨床的に何らかの症状または所見が胃にあったものをもとにして成立している.したがって,その際の診断名として慣用されている慢性胃炎とは,結局他の病名(例えば潰瘍,癌,ポリープなど)で呼ぶことのできない複雑多岐にわたる胃粘膜の変化群を総称する便宜的な名称にすぎない.

 私は今この慢性胃炎と呼ばれているものを病理総論的に定義される慢性炎の意味から切り離して純粋に病理組織形態を主体として分類通観し,その間のつながりを動的に解析する手掛りを得るためにこの小論述を試みた.

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Ⅰ.はじめに

 慢性胃炎は表層性の変化より萎縮性変化へと進行する過程を示すとは多くの認めるところであり,近時の内視鏡検査,胃生検の成績はこれらを明らかにしたといえよう.したがって慢性胃炎の本質は萎縮性胃炎であると考える.

 古くより成書に記載されているごとく,慢性胃炎の発生要因として種々なものがあげられ疫学的,また統計学的観察により,それらが発生因子として承認されている1)2)

 しかしながらその萎縮性変化の発現機序については多くの場合不明であるとはBockus2),Schindler3)の指摘する通りである.

 1939年,Brunschwig4)に始まり,その後Codeら5),Smithら6)により人胃液中に試獣に対して分泌抑制作用と同時に胃粘膜萎縮作用のあることが報じられた.われわれも,追試実験を行ない,ラット,犬に萎縮性変化を作成し,その発現には免疫学的機序のあることを推定し,先に発表した7)

 近時,免疫学的検索法の進歩とともに,自己免疫の概念が臨床に導入され,悪性貧血患者の血中に抗胃抗体が高率に証明されることから悪性貧血の胃萎縮の発現を自己免疫の概念で解説しようとする試みが相次いで現われ,悪性貧血を伴わない萎縮性胃炎も,本質的には悪性貧血の胃萎縮と同一胃変化であるとの見地から同様の考え方が導かれてきた.

 以下,わたしは萎縮性胃炎の発生を,免疫学的,とくに自己免疫の現在の概念にどこまで接近し説明し得るかとの意図のもとに,1)血中抗胃抗体の証明,2)胃抗原による萎縮犬の作成,3)自己抗体による細胞障害性検索の3点を中心として観察したので,それらの成績の概要をのべることとする.

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 慢性胃炎を胃液分析の立場において研究する報告は決して多くない.

 比較的近年の文献によってこれを見ると,Rohrer and Welsh1),和田2),三好3),Krentz4),Glassら5)の発表をあげることができるが,これらは大体組織学的所見との関係を吟味しつつ,その分析や測定に意義を認める立場をとっているものである.

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1.はじめに

 Reactive lymphoreticular hyperplasiaを略してRLHと書くことにする.

 過去十年来の日本の諸家の研究により早期胃癌の診断はすでに大半が確立されたが,今後残された課題としては10mm以下のⅡaとⅡcの診断とⅡbの診断とであろう.

 しかし早期胃癌に極めて似ている疾患に粘膜内肉腫のあることはすでに発表されている.この診断はレ線,内視鏡では鑑別不能であり細胞診,生検などによる細胞単位の診断にたよらなくてはならない.

 このような意味での癌か肉腫かの鑑別は重要であるが,悪性であることには相異はないが,全く別の意味で,レ線,内視鏡ではこれらの悪性変化と全く鑑別が不可能で,細胞診,生検が陰性であった場合,普通は極めて強い不安にかられるものである.このような疾患は多くあるが,その一つにここでのべるRLHがある.

 外国の文献を参考にして,自分の数少ない症例を基とし,日本の研究会での症例検討会で諸先生の努力の結晶と思われる症例を各所で見せていただいて,大変勉強になり,ここにその一端をのべようと思う.

 しかしRLHは次の各項でのべるように各種の型があり,一定のきまった型は見出しにくい.

 ここで明らかにいいうることはRLHは早期胃癌のⅠ型を除いた各型に極めて類似しているために早期胃癌として手術され,組織学的にビラン,潰瘍を伴ったRLHか,またGiant rugae様の所見を呈したRLHかであった症例が極めて多い.大多数の症例はビラン,潰瘍を伴っているために,術後の経過は良好であった.

 以上のべたように組織学的診断によって最終診断はなされるにもかかわらず,ビランまたは潰瘍との因果関係は明らかでないものが圧倒的に多い.

 将来はRLHは一つの疾患単位として臨床的に認められるようになってほしいが,症例数が少ないため,各人の手持症例のみではなかなかまとまった意向が示されてこないことが考えられるので,日本全国より大数例で検討,集計し,早く,型の分類,特徴などを諸大家によってまとめてほしいと思う.そのための一つの小さな踏石になりたいと思ってここにのべるわけである.

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Ⅰ.はじめに

 胃の非上皮性の組織学的病変の一つとして,限局性またはびまん性のlymphoreticular tissueの増生がある.この組織所見は,切除胃を精査した場合には,局所的に必ずといってよい程に認めることのできる所見であるが,病変の程度が著しくなると胃粘膜に肉眼的水準の変化として投影されてくる.この病変を,1928年Konjetzny4)は組織学的に“Lymphatisch-hyperplastischer Gastritis”と慢性胃炎の一型として記載し,さらに,1938年には臨床的ならびにX線学的に癌腫と間違いやすい慢性胃炎の特殊型“Chronisch-lymphatischer Gastritis”5)として3症例を報告した.Schindler(1937)12)は,内視鏡的方面から,腫瘍性病変と間違いやすい胃炎のうちの一型“chronic atrophic lymphoblastomoid gastritis”を記載した.

 このように,lymphoreticular tissueの増生が著しい場合には,X線診断および内視鏡的に,胃の腫瘍性病変とまぎらわしい所見を呈することからこの病変が注目されはじめた.

 その後,久しくかえりみられなかったこの病変が,外科病理の進歩とあいまって,胃原発性悪性腫瘍のうち,癌腫に次いで頻度の多い悪性リンパ腫との組織学的鑑別が問題となってきた.Smith and Helwig(1958)13)は,胃原発性リンパ腫の予後が,他臓器原発のそれに比べて統計的に良好であるといった事実は,胃悪性リンパ腫と診断したなかには,臨床的ならびに病理組織学的に悪性リンパ腫との鑑別が困難な良性病変をも包含しているためであると見做した.その良性病変をreactive lymphoid hyperplasiaとし,それと悪性リンパ腫との組織学的鑑別について述べている.

 ここに至って,胃のlymphoreticular tissueの著しい増生を示す病変に関する臨床的ならびに病理組織学的の統括的な概念が固まってきたが,本病変は臨床的(X線,内視鏡)には悪性腫瘍と診断される場合が多く,また,病理組織学的には悪性リンパ腫との鑑別が困難な揚合があるといった二つの大きな問題が残されている.

 その後,これらの問題に関する論文はTable1に示すように若干見られるのであるが,本病変は一単位としての疾病ではないので名称は統一されず,病変そのものの名称をもって呼ばれている.著者ら9)は,本病変はlymphocytic hyperplasiaのみに限らず,reticulum cell hyperplasiaをも伴うこと,および,malignant lymphomaとの鑑別が問題となることの2点から,reactive lymphoreticular hyperplasiaとして1966年に6症例を報告した.

 現在,その後の症例追加により1ymphoreticular hyperplasiaを呈する症例は合計14例となったので,それらの症例を中心として胃のlymphoreticular hyperplasiaの臨床病理組織学の紹介とその考察を試みてみたい.

 なお,lymphoreticular hyperplasiaは胃固有の病変ではなく,Castleman et al. (1956)1),Lattes and Pacher(1962)7),およびSaltzstein(1963)14)らによって報告されているように,胃以外の臓器にも,特に,虫垂においてはよく見られる病変であることを付記しておく.

展望

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Ⅰ.はじめに

 胃・十二指腸と膵臓との関係は,解剖学的に隣接するというだけでなく生理化学的機能においても相互に不可欠であり,臓器相関的に極めて密接であることは容易に理解できる.

 本稿では胃・十二指腸と膵臓との関連をもっとも端的に表現しているとさえ考えられるZollinger-Ellison(以下Z-E)症候群についての紹介をかねて,膵腫瘍をめぐって,臨床的にはもちろんのこと,生理学的,生化学的関心を集めてきた2・3の点にスポットを当てて解説を試みたい.

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Ⅰ.症例

 患者:田○知○,65歳,男,職業,医師.

 主訴:心窩部痛

 家族歴:父親は81歳の時脳卒中にて死亡.母親は66歳の時心疾患にて死亡.同胞9名はみな健在.

 既往歴:19歳の時肺浸潤,29歳の時腸チフス,35歳の時肺炎,62歳の時胆石症に罹患した.

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Ⅰ.まえがき

 Ⅲ+Ⅱcは,そのⅡcの存在の確認がむずかしい場合には,術前には診断が困難とされている.われわれは,潰瘍周辺が多彩な像を呈したために,むしろ進行癌と考えたⅢ+Ⅱc早期胃癌症例を経験したので報告する.

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 岸川 この春名古屋で開催されました医学総会で,慢性胃炎がシンポジウムとして取り上げられましたが,その際の演者の皆さんにもう一度お集まりをいただいて,慢性胃炎について十分話し合っていただきたいという希望がございまして,今日お忙しいところをお集まりいただいたわけでございます.わたくしに司会をせよということですので,たいへん僣越ですけれども,ご造詣の深い皆さんに素人のわたくしがいろいろお尋ねするということで,司会をさせていただきますことをお許し願いたいと思います.

技術解説

私のファイバースコープ検査 亀谷 晋
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Ⅰ.はしがき

 ファイバースコープ(以下FGSと略す)の光学系の原理は,すでに1900年頃より知られていたが,Fiberscopeとして実用に供されるようになったのが,Hirschowitz(1957)のGastroduodenal Fiberscopeである.

 一方,国内では,町田製作所のFGS(1963),オリンパス光学のFGS付胃カメラ(GTF)が製作され,急速に普及すると共に,その後,両社によって各種のFGSが次々と製作された.而して第1回国際内視鏡学会(1966)では,これら内視鏡の製品及びその検査技術,また,その普及において,世界で日本がもっとも優れていることを実証した次第である.

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質疑応答 佐藤 博 , 佐野 量造 , 大井 実
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〈質問〉

噴門痙攣症と初期の噴門癌との鑑別の要点を千葉大学佐藤教授におききしたいのですが.

書評「超音波医学」 吉田 常雄
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 最近電子工学の発展に伴い,その技術は急速に医学領域にも導入され,医学情報の獲得或いはその処理に用いられつつある.超音波の臨床医学への応用もその一つである.

 我国ではかなり早くからこの方面の活動が開始されていたが,その後次第に研究者の数も増してきた.そこで昭和36年秋に医学,工学両方面の有志が相集い,全国的な組織として超音波医学研究会が発展することとなった,更にその後日本超音波医学会へと発展し,斯学の活動に大きい役割を演じている.一方超音波応用は診断,治療の面で他の方法にない独特の性格を有しており,既にその中には臨床上の評価も定まり,routine検査となっているものも少なくない,それ故この辺りで斯界の現勢を系統的に纒め,かつ今後の研究者の為に入門書としても役立つ様な専門書の出現が期待されていた.かかる意味においても今回日本超音波医学会により本書が企画,編集されたことは真に時宜を得たものと云うべきであろう.

編集後記 白壁 彦夫
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 慢性胃炎!京都の苔寺に入るとき,村上先生が,この庭は慢性胃炎みたいだといわれたことがある.今月は有難い月である.昔,われわれが,病理は素人ながら,手さぐりで半年もかかって一論文をよみ,判ったようなわからないような気持ちで過ぎてきたことを平福先生が明快に説明して下さった.和田,三好両先生は病態面からメスを入れて下さった.診断面では,青山先生が会心の筆を走らせ,ちゃんと中村先生が裏付けをして下さった.最後に,名司会者岸川先生が該博なところをあくまでおかくしになって,きれいに司会してしめくくって下さった.当代一流の各出席者も,これまた,事の真相をよく伝えて下さった.慢性胃炎にかんしては,まさにサービス過剰の感がある.症例も掲げられているⅡa型(柚木ほか)はいま,症例数が全国で平均せず話題になっているものであり,Ⅲ+Ⅱc型(城所ほか)も進行癌とどこで区別するかという点で,今井環先生が診断法を外国に説明なさるのに困惑なさっている(村上談話)話題のものである.亀谷先生は日本内視鏡学会では草分けの1人で,論文も格調高い.小田先生のZ-E syndromeをよむにつけ,今後,さがすコツや外科との協同作業をうまくやっていかなくてはと痛感する.

 さて,本誌の世界的レベルを考えてみよう.アフリカの東海岸,インド洋に面したケニヤと比べてみよう.

基本情報

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胃と腸
2巻10号 (1967年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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