胃と腸 15巻4号 (1980年4月)

今月の主題 大腸の早期癌―胃早期癌と比較して

序説

  • 文献概要を表示

 大腸癌は増えている.食生活の西欧化に伴って,今後も増え続けていくことは確実であろう.このような時期に,大腸の早期癌の診断と治療の向上を目指して努力することは意義深いことであると思う.

 早期胃癌の定義が提出されて18年,その概念は日本中のみならず世界中に認められるようになった.早期胃癌発見への努力が胃診断学の進歩に及ぼした影響は計りしれないものがあり,その結果,胃癌全体の治療成績も飛躍的に向上した.同じことが大腸でも不可能なはずはあるまい.

  • 文献概要を表示

 大腸の早期癌の定義は未だ定められていない.しかし胃早期癌にならって深達度sm迄にしようということが暗黙のうちの了解事項になっている感がある1).したがってここでは深達度smまでの癌を大腸早期癌と仮に定義して話を進めることにする.

 大腸早期癌の病理学的特徴を考える時,これと密接に関連して問題となることはその組織発生的特徴であろう.この問題を抜きにして大腸早期癌の病理学的特徴を論ずることは不可能である.組織発生的特徴とはいうまでもなく腺腫の癌化(adenoma-cancer sequence)である.大腸早期癌は腺腫(性ポリープ)と共存することがしばしばあることは経験上の裏づけである.大きい腺腫の一部に粘膜内癌があれば,これはまぎれもない大腸早期癌である.大腸早期癌というカテゴリーで症例を集めればかなりの率で腺腫内癌(cancerin adenoma)が含まれてくるのである.

  • 文献概要を表示

 胃早期癌に対して,大腸早期癌という言葉も広く普及し,その報告例も多くなりつつある.これからも大きな興味の対象として展開してゆくものと考えられる.しかしまた一方では,大腸早期癌の定義をめぐって,あるいは診断法や治療法をめぐって,多少の混乱があるかとも考えられる.このような時期に,将来にそなえるために,現状を整理し,問題点を指摘することも意義のあることと思われる.そこで,自験例の大腸早期癌に対するX線診断の現状を分析検討し,その診断能,診断の限界あるいは問題点などに主眼を置いて報告を行いたい.さらに,そこからひき出される結果によって,大腸早期癌診断に対するX線診断の位置づけを考察し,最後に胃早期癌と対比した検討を加えたい.

 検討材料は45例45病変の自験例で,家族性大腸ポリポージスの癌化例は除いた.大腸早期癌の定義および分類は,胃早期癌のそれに準じた.X線検査法は,one stage methodによる二重造影法である.

  • 文献概要を表示

 本誌で大腸の早期癌の診断がはじめて取り上げられたのは,5巻11号である.このとき筆者はX線診断を担当した(丸山,19701)).当時は,すでに完成されつつあった早期胃癌の診断法の余勢に乗じて,大腸の早期癌の診断をも制覇してしまおうという気負いがあった.しかし,現在に比べれば,症例数が不足していた.早期胃癌の定義に準じて病理が早期癌と診断してくれた病変のX線所見をretrospectiveに検討するところから大腸早期癌診断の第一歩を始めるしかなかった.このようにして症例を集め出して後,数年を経た頃,早期癌の肉眼的特徴と深達度にある程度の関連を認めたので,1973年(丸山2))になって大腸早期癌の診断基準なるものを発表した.これは,それまでは絶えずretrospectiveであった診断の思考過程を,この時点からprospectiveなものにしたことで,筆者にとっては大きな前進であった.

 一方,この頃すでに診断基準に合わせにくい病変が若干存在することは承知していた.しかし,大勢に影響はないと考え,最近まではこれらの病変を意図的に無視してきたいきさつがある.それらは深達度mの無茎性早期癌とvillous tumorである.ところが,最近になって,これらの病変のことが急に気になりだし,癌研の記録に残る最初の症例から,手術および病理のレポートを読みなおしてみた.そして,「特に気になる病変」についてはブロックを捜し出し,標本を作り直して検討しはじめた.この作業は未完成ではあるが,ともかくも得られた結果を分析してみると,大腸早期癌の肉眼形態と深達度に関しては若干の手直しが必要であるとの結論を得た.そこで本文の最初ではまずこのことにっいて述べてみたい.

  • 文献概要を表示

 いま大腸早期癌の治療方針について考えるとき早期胃癌についてのこれまでの日本における目覚しい研究の歴史を思い起こさざるを得ない.1962年日本消化器内視鏡学会で早期胃癌の分類がきめられて以来多数の臨床家や病理学者の興味と関心を呼び起こし内視鏡診断,X線診断,手術術式,病理が詳細に研究されてきた.そして早期胃癌の分類がきめられたことによる最も大きな成果はこれらの研究により広く一般に臨床医の早期胃癌の診断,治療のレベルが向Eし,飛躍的に多数の早期胃癌が発見され手術されて沢山の生命が救われてきたということである.われわれは大腸早期癌について考え研究するときに同じ効果を期待したいものである.

 さて大腸早期癌の定義はまだきめられていないが早期胃癌と同じくm癌,sm癌とする傾向にある.m癌についてはポリペクトミーを含めて局所切除術による原発巣の摘除で良いというのがほぼ一致した意見であるが,sm癌ではリンパ節転移や再発が少数ながらありうることからリンパ節郭清を伴う根治手術をすべきという意見が多い.しかしsm癌のすべてに広汎な,ときには膀胱障害を起こしうるようなリンパ節郭清を行い,また人工肛門を造設するような根治手術が果たして必要であろうか.たとえsm癌でも病理学的に一定の条件を満すものにはポリペクトミーを含めた局所的な手術でも完治できるものが少なくないと考えられるがこれはどの位確実性をもったことであろうか.この点を中心に大腸早期癌の治療方針を検討したい.

大腸早期癌の治療方針 高橋 孝
  • 文献概要を表示

 大腸早期癌の治療方針については,現時点では,ほぼ一定の基準が一般化しつつあるがなお種々なる問題点があり,かつ不明確な点も多い,ここでは大腸の早期の癌の特徴を少しでも明らかにすることを目的として,現在一般に考えられている大腸早期の癌とその治療法を幅広くとらえてみようとする.

 まず,それ以前の問題として,大腸早期癌の概念のとらえ方について論ずる.そして,現在の早期癌の概念とその治療法の問題点を提示し,これに対する考察を症例をもって論じてみる.

  • 文献概要を表示

 近年の消化管診断技術の進歩,殊に内視鏡的ポリペクトミーの普及とともに大腸早期癌の報告は急速に増加している.しかしその治療方針については,リンパ節転移のリスクを有するinvasive cancer(sm癌)の問題など未解決な点が多い.今回著者らは自験例34例の分析を基にして,大腸早期癌の治療方針を検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

 大腸癌の早期発見を目指したX線的,内視鏡的アプローチは,近年急速な進歩をとげ,いったん病院の門をくぐった患者に対しては,特に専門的施設では,かなり小さい病変をも見逃さないだけの実力をつけている.しかしながら,来院する患者を受動的に診療しているだけでは,発見早期癌(m,sm癌)の頻度は一向に上らない.私共の過去の統計が示すように,昭和39年(1964)から昭和50年(1975)迄に来院した大腸癌のうち早期大腸癌の頻度は,平均4.6%である1).この間昭和45年(1970)より内視鏡検査(colonoscopy)がはじまったものの,昭和49年(1974)は早期癌は0に落ちこんでいる.いくら病院に有能な武器があっても,そのような患者が来院しない限り,何の役にも立たない.そこで強調したいのは,第一に,早期の病変をもった患者を,病院より前の段階でチェックし,後に確診能力をもった病院での診療レベルに乗せることである.それには,第一線の開業医での見逃しのないようにすることが肝要である.第二に,大腸癌の集団検診法を確立して,無愁訴患者をスクリーニングすることである.第三に,現在の早期癌の定義によるm及びsm癌の発見を目的にする限りは,その数には限度がある.私共のデータでも,全大腸癌の4.6%にすぎない.最近ポリープ癌が発見され盛んにポリペクトミーが行われているが,それでも尚10%に遠い.早期癌であれば,5生率はほぼ100%であるが2),一体早期癌を発見することに,それ程血眼にならねばならないのだろうか.当院外科の加藤によれば3),Dukes Aを取上げると,根治切除例の30%を占め,8年実測生存率が84.5%と非常によい.これをみると,Dukes Aの段階で発見すれば,予後はすこぶるよいのが分る.早期癌を見つけるにこしたことはないが,現実のものとして,今私共が見つけている進行癌をもう少し早く発見することに当面の目標を置いた方が実際的である.そうした努力により,大腸癌の5生率を10~20%向上させられるのではなかろうか.そのためには優れたスクリーニング法の確立が望まれる.

  • 文献概要を表示

 胃癌の早期診断のためのX線・内視鏡検査技術と診断理論の大腸診断学への導入によって,大腸疾患の診断も確実になしうるようになってきている.しかし精密検査法としてのこれらの大腸検査法には,前処置を要すること,検査手技が複雑であること,生殖器へはX線被曝が避け難いこと,などの問題点があるため,胃検査法のように簡単には検査を行えない隘路がある.

 一方,日本人にとっても大腸癌が近い将来,欧米人と同様に重大な死亡原因になることが予想されており1),早急にその早期診断のためのスクリーニング検査法の確立が必要になってきている.そこで自験例を中心に2)~8),大腸癌のスクリーニング検査のあり方をめぐる2,3の問題点について述べてみたい.

  • 文献概要を表示

 司会(白壁) まず最初に定義およびその周辺のお話からおうかがいします.

定義をめぐって

 望月 胃については胃の早期癌といういい方ではなくて,早期胃癌といういい方をしています.粘膜下層まで入った癌を一応早期胃癌と定義して,この研究が始まっております.

  • 文献概要を表示

 最近欧米ではレーザー光糸泉を用いての内阻鏡的レーザー止血法を消化管出血症例に臨床的に盛んに試み,良好な止血効果を認める報告が多い1)2).わが国でも1978年に旭川医大の水島ら3)により出血性胃潰瘍症例に対してMedilas(西独M.B.B.社製)によるNd-YAGレーザーを用いて」止血法が試みられて以来,数施設で内視鏡的レーザー止血法が行われ始めた.しかし従来の報告では内視鏡的レーザー止血法はすべて直視型ファイバースコープ(以下F.S.と略す)を用いてしか試みられていない.これは主にレーザー光線を伝達するquarz fiberやplastic fiberのflexibilityの制限によるためと考えられる.われわれはレーザー光線の伝達装置に400μのquartz coreにシリコンをcladし,テフロンで覆った総径800μのquarz fiberを,内径1.8mm,外径2.2mmの保護テフロン管内に挿入したシステムを使用している.このquarz fiberを内包したテフロン管をF.S.の生険鉗子チャンネル(多くは内径約2.8mm)内に挿入してレーザー光線をquarz fiberを通してF.S.先端より照射できる.この伝達装置を用いればMedilasの如くquartz保護のためにF.S.先端の鉗子を保護ガラスで覆う必要がない.それ故テフロン管とquarz fiberの間の間隙を利用して,照射野を明瞭にするためのCO2ガスjetや洗滌水フラッシュをテフロン管先端より噴出することが可能である.またMedilasの如く特殊な2チャンネル型F.S.を必要とすることはない.

 今回この伝達機構を用いれば側視型F.S.にても内視鏡的レーザー止血法の応用が可能であることが判明したので報告する.今回の実験にはquartz coreが400μと600μの2種のquarz fiberを用いた.両種のquarz fiberを用いてもNEC-SL115から発するNd-YAGレーザーは側視型F.S.(今回はGF-B3を使月)の先端から30~50ワットまで,鉗子起上アングルを最大にして約70°の角度をquarz fiberに負荷してもquarz fiberを何ら損傷することなく伝達が可能であった,そこでヘパリン化された成犬の胃の胃角小彎前壁寄りに出血性胃潰瘍をQuinton ulcer maker4)により経口的に作製し(Fig.1),Nd-YAGレーザー照射による内視鏡的止血法をquarz fiber先端と潰瘍との距離を約1cmに保つようにして試みた.50ワットのNd-YAGレーザー照射出力で3秒間の照射を3回繰り返すと潰瘍からの出血は穿孔を生ずることなくほぼ完令に止血された(Fig.2).

  • 文献概要を表示

 1965年Goldの報告以来,血漿Carcinoembryonic Antigen(以下,CEA)が注目されているが,Goldが発表したように必ずしもCEAが大腸癌にspecificなものでなく,他の消化器癌のみならず,肺癌,乳癌にもみられ,また大腸の炎症性疾患にみられる半面,血漿CEA値が異常値を呈さない大腸癌も少なくないことがわかり,大腸癌の,特に早期癌のdetectionの検査方法としては必ずしも適切ではない.しかし,術前血漿CEA高値を示した大腸癌を切除すると,治癒切除では血漿CEA値は正常域にもどり,また術後の経過を追ってみると,再発を来たすとともに血漿CEAも高値になってくることが明らかであり,すなわち術後の再発のチェックには有意義な検査であるといえる.

 最近われわれの施設で小さなpolypoidの直腸癌を発見し,切除後いったん正常域にもどった血漿CEA値が数カ月後に異常な高値を示し,肺転移が発見され,再治療に成功した症例を経験したので報告をする.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・16

  • 文献概要を表示

 市川 次は生検ですが,生検が出てきたために内視鏡の有用性が更にクローズアップされてきていますから,話題がたくさんあると思います.

●食道の生検

 <質問53>食道の生検をして穿孔の危険はないでしょうか.

--------------------

欧文目次

編集後記 春日井 達造
  • 文献概要を表示

 本号は特集として大腸の早期癌をとりあげ胃早期癌と対比した.

 近年食生活の西欧化に伴って大腸癌が増え,実地臨床の場において胃癌につぎ卑近なものになった.大腸癌―その早期発見も胃と同様消化管に発生する癌である以上胃癌におけると同様な手法でアプローチが試みられることは当然で,その証拠にX線と生検を併用した内視鏡検査による精密検査が大腸癌診断の決め手であり,来院患者における早期癌発見には理論的にはもはや問題はなさそうである.しかし,これらの検査も胃の場合にくらべ,前処置から検査そのものについても数等の手間と熟練を要し,患者の肉体的負担も決して軽くないことも知られている.

基本情報

05362180.15.4.jpg
胃と腸
15巻4号 (1980年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月12日~11月18日
)