生体の科学 29巻5号 (1978年10月)

特集 下垂体:前葉

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 ここ10年来,前葉ホルモンの分泌をregulateするTRH,LH-RH,ソマトスタチンがGuilleminおよびSchallyらによって視床下部から単離,構造が決定されるに従って,neurotransmitterに関する研究がひときわ盛んとなってきた。現在では下垂体をとび越え,その上位に位置する視床下部の下垂体前葉支配を,neurotransmitterの作用との関係の面から明らかにしようとする試みが多くみられている。neurotransmitterに関するめざましい研究の発展については,本誌前号の"中枢のペプチド"特集をみても明らかであろう。このような研究の発展はさまざまな分野における研究方法の飛躍的な進歩によって可能となったものともいえる。すなわちmedical scienceに限らず,science全般に及ぶ進歩であって,このために前葉およびそのホルモンに関する研究もまた一段と発展してきている。前葉性タンパクホルモン—ACTH,FSH,LH,GH,PRL,TSH—の分離,精製については1940年代にLi,Sayers,Wilhelmiらの報告がすでにみられるが,現在ではすべてアミノ酸構造が明らかにされ,この6種類のほか,MSH,エンドルフィン,LPHなども前葉中に見出されている。

総説

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 下垂体前葉ホルモンはタンパク質あるいはそれに近いポリペプチドである。したがって下垂体前葉のホルモン産生細胞は,タンパク分泌腺の特徴を有する。細胞学,組織学の分野に電子顕微鏡が新兵器として登場した初期の頃から,下垂体前葉が膵臓外分泌細胞とともに,タンパク分泌の機構解明のためにしばしば研究材料として使用されたのは,このゆえである1)

 しかし周知のように,下葉体前葉から分泌されるホルモンは1〜2種にとどまらない。この点は前葉の形態学的研究を複雑難解にさせる,一つの有力な原因である。現在よく知られている前葉ホルモンは,表1に列挙するように少なくとも6種の異ったものがある。これらの各ホルモンがそれぞれ別のタイプの前葉細胞から生産されるのか,あるいは同一細胞が2種あるいはそれ以上のホルモンを産生する可能性が認められるのか,さらにまた同一ホルモンが2種以上の形態学的に異った細胞で作られる可能性はどうであろうか,などの問題はまだ十分には解決されていない重大問題である。

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 はじめに

 生体内における下垂体前葉からのホルモンの分泌には,その上位中枢である視床下部とそのtarget organである甲状腺・性腺・副腎などの間,あるいは前葉内各ホルモン産生細胞の間で種々のfeedback systemが関与していてこれをregulateしている。一般に前葉からは6種類のホルモンが分泌されるのであるから,その分泌機構を研究するにはin vivoでは大変複雑になってしまう。このような複雑さに対して,in vitro systemはそれぞれの反応を簡単明瞭に検討できるという点で存在する理由があるように思われる。

 しかしこのような利点のある反面,in vitroで起った反応が,果たして生体内でも起り得るかどうかについて,一沫の不安があることはいなめない。いままでのところ,ホルモン分泌に関する研究には下垂体腫瘍から樹立されたGH1(1),GH3(2),AtT20(3)がよく使用されてきたが,これらは正常細胞と異り,腫瘍細胞であるという点で,正常下垂体前葉ホルモンの産生・分泌を検討するうえに多少不満な点がある。この不利な点を考え,一般に正常前葉細胞を消化酵素を用いて解離して得た細胞(primary culture)を上記研究に用いているが,これも実験期間がちょうどcell degenerationの過程にあるという点で不満がある。

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 はじめに

 内分泌学の教科書を開いて下垂体前葉ホルモンの項を調べると,普通つぎの6種類のホルモンが順不同であげられている。

 副腎皮質刺激ホルモン(corticotropin,ACTH)

 成長ホルモン(somatotropin)

 プロラクチン(prolactin)

 甲状腺刺激ホルモン(thyrotropin,TSH)

 黄体形成ホルモン(lutropin,LH)

 卵胞刺激ホルモン(follitropin,FSH)

 LHとFSHはともに性腺に作用するのでゴナドトロピンとしてまとめて記されていることが多いが,その他の記載順序は著者あるいは編者の好みが優先しているようにみえる。他方これら6種類の他に,従来下垂体中葉ホルモンとされるのが普通であった色素胞刺激ホルモン(melanotropin,MSH)も,化学構造上ACTHと共通の部分をもつばかりでなく,前葉にも存在することが明らかになった。またLiらによって見出され,弱いながらく,脂肪動員作用をもつホルモンといわれるリポトロピン(lipotropin,LPH)はどう取扱ってよいのであろうか。このように下垂体前葉ホルモンとは何かという問いにすっきりとした答が出せないのが数年前までの状況であったといえよう。

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 はじめに

 生体活性アミン(biogenic amines)同定のための特異性の高い組織化学的研究方法(組織螢光法)がFalck-Hillarpら33)によって開発されてまもなく,Eränkö & Härkönen30)は本法をラットの上頸交感神経節(SCG)内のアミンの細胞局在の研究に応用した。その結果,彼らは節細胞のそれとは明らかに異って強く明るい黄色の特異螢光を発する小型の細胞を発見し,これを"smallintensely fluorescent cell(SIF cell)"として最初に記載した。現在ではSIF cellは脊椎動物の種々の交感神経節に普遍的に存在していることが知られている25,28)

 一方,Eccles & Libet16)はウサギのSCGを用いた電気生理学的研究の結果から時間経過の遅い抑制性シナプス後電位(slow IPSP)の発生機序を説明するためにはカテコールアミン(CA)を含んだ介在ニューロン(chromaffin cell)が存在し,そこからCAが放出されることが必要であると結論していたが,Williams94)は電子顕微鏡学的に,ラットのSCG内の少なくとも一部のsmall,granule-containing cell(GC cellと略す。

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 はじめに

 今日の発生生物学は,受精卵における同一の遺伝子セットが卵割開始後の発生過程を通じてどのようにして差次的に遺伝情報を発現していくのか,その機構を解き明かすことを大きな目標の一つとしている。19世紀末以降,実験発生学の分野では数多くの研究者によって卓抜した手法(手術,物理的操作,薬品処理など)を用いての発生現象の実験的解析が行われてきた。ここでは核移植法を例にとって,実験発生学的手法による,発生系における遺伝情報発現の解析の進歩をさぐってみたい。

講義

酸素と生命 Britton Chance , 藤田 道也
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 医学部や生物物理学教室の知己の皆さまにお話しすることができること,とりわけ旧知の江橋教授,江上教授,島薗教授,さらにまた尾形教授のように若い世代の協同研究者や過去20年の間にJohnson Foundationで一緒に仕事をした多くの日本の方々にお会いできたことを大変な特権と考えます。私達は美しい友情,熱心な協力,相互扶助に恵まれたといえます。

 このように,各方面の専門家である皆さまにすべてのレベルでお話をするということは大変難しいことでして,ですから本日は歴史的・文化的な面と基礎科学的な面と臨床科学的な面の三つに分けてお話ししたいと思います。もちろん,この三つを同等に扱うわけにはまいりません。たぶん基礎科学は歴史と医学の間で圧しつぶされそうになるでしょう。だいたいそうなるように相場は決まっています。まず,酸素と生命の間にあんなふうな深い関係があり,真核細胞の進化と酸素の間に密接な関係があるのはどうしてか・なぜかということを考察し,つぎに,われわれのからだの組織,中でも脳と心臓が酸素欠乏にどれほど敏感か(それは脳出血や心筋梗塞という病気があることでわかるわけですが)についてお話しするつもりです。事実,酸素欠乏がふつう死の直接原因であるといっていいでしょう。

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 はじめに

 1960年代の後半に,抗体産生が,骨髄由来リンパ球(B細胞)と,胸腺由来リンパ球(T細胞)との細胞間相互作用によって行われることが明らかにされて以来1〜3),今日に至るまで,免疫反応に関与する組胞としてさまざまの機能的特異性をもつ細胞が報告され,その数は急速に増加している。そこで,この複雑化した今日の免疫学を解明し,細胞間相互作用をリアルに解析するためにも,細胞表面レセプター(抗原)の化学的追跡と,そのための有用な手段の提供が痛切に要望されているのが現状である。なかでも,近年,遺伝的支配を受けた免疫応答が発見されたことから4,5),遺伝学的見地から免疫反応を考察し,さらには遺伝子表現としての細胞表面抗原を,免疫化学的に解析することが,きわめて重要な意義をもつものとなった。

 マウスにおいては,遺伝的支配をうけた免疫応答と関連する細胞表面抗原として,主要組織適合性抗原(H-2抗原,I領域関連抗原(I-region associated antigen:Ia抗原)がはじめに血清学的試験,細胞障害試験(cytotoxic test)によって同定された6,7)。これらの抗原が細胞表面上にあることは,上記の方法のほか,螢光抗体法によっても証明されており8),生細胞に対してlactoperoxidaseを用いた125Iラベルを行うことによっても直接に証明される(external labelling)9,10)

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 1967年から数年間,アミノ酸の遊離に関する仕事を私は,Herbert H. Jasper教授と共にする機会を得た。それより数年前,教授はMontreal Neurological InstituteからUniversité de Montréalの生理学教室に招聘されて移り,神経研究班(Centre de Recherche en Sciences Neurologiques)の主任として活躍されていたのである。この研究班は,神経生理学に,Jean PierreCordeau,H. H. Jasper,Yves Lamarre,神経化学に,Nico M. van Gelder,神経薬理学に,Jacques de Champlain,Laurent Descarries,神経解剖学にJacquesCourvill,Anne-Marie Mouren Mathieu,生物物理学にJean Piere Raynauld,生物医学にFernand A. Robergeなど若い研究者を集めた当時としては,規模の大きなものであった。

 Jasper教授はネコの大脳皮質からアセチルコリンおよびアミノ酸の遊離を測定し,覚醒時と睡眠時で,どのような差があるかを調べようとされた。中脳網様体を電気刺激し,覚醒を起し,その間に洗い流された皮質からの灌流液を分析しようというのであった1,2)

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 1.研究のはじまり

 解明したいと思うけれどもどう手をつけたらよいか分らないような問題と面したとき,人々はどのようにその問題に対するだろうか。そのときの選択は非常に簡単である。自分では駄目だとさっさと諦めて忘れてしまうか,それとも,どうしたら解明できるかということに専念するかのいずれかである。

 Julius Axelrod博士がこの選択を迫られたのは,34歳の在野の産業衛生研究所で食品の分析をしていた頃のことである。すなわちこの研究所が製薬会社との契約によりフェナセチンなどアニリン系鎮痛解熱剤の大量投与によるメトヘモグロビン血症の原因解明を行うことになったときのことである。研究所長のWallace博士がAxelrodにニューヨーク大学のBrodieの所へ相談に行くよう指示したことがAxelrodの運命を大きく転換する契機となった。BrodieはAxelrodに数週間自分の研究室で実験をやってみないかともち掛けた。この数週間がやがて数ヵ月となり,数年となったのは,その研究が軌道に乗るのに時間がかかったせいではなく,当時この研究室はJ. Shannon博士を指導音としてその下に,B. B. Brodie,S. Udenfriend,R. Berliner,R. Bowman,T. Kennedy,J. Taggartなど非常に優秀な若い科学者が多く集い,研究というものに対し実際に初めて接して感激したからに他ならない。

基本情報

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生体の科学
29巻5号 (1978年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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