生体の科学 14巻5号 (1963年10月)

巻頭言

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 生命現象を生体を構成している分子および分子間の作用の性質に基いて理解しようとする分子生物学の諸部門のうちで分子遺伝学と分子生理学は最も大切なものと言えましよう。そして分子生理学の問題のなかで,特に多くの研究者の興味を引いているのが生体のエネルギー変換の機作であります。生体は驚く程多種多様のエネルギー変換を能率よく行つております。光合成では光を化学的エネルギーへ,筋収縮では化学的エネルギーを機械的エネルギーへ,能動的輸送では化学的エネルギーを電気化学的エネルギーへ,酸化的燐酸化では化学的エネルギーを他種の化学的エネルギーへ変換しております。このようなエネルギー変換の多種多様さは分子遺伝学が分子レベルでの機作の解明を目指している"DNAがRNAをつくりRNAが蛋白質をつくる"生物に共通の一定の過程と著しい対照をなしております。エネルギー変換に見られる多様さは分子生理学者の心を悩まし分子遺伝学者を羨ましがらせ,生理学の発展をおくらせている一つの大きい理由でもあります。

 しかし生体のエネルギー変換の中に隠された共通の分子レベルでの機構があり,その多様性は単に一般的機作のvariationに過ぎないと考えてもよさそうに思えます。即ち生物進化の過程において生体が多種のエネルギー変換能力を各々独立な反応系として獲得したのではなく,既に有する反応系のvariationとして手に入れたと考える方が自然だと思えます。

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 I.はじめに

 運動の発現にあづかる神経機序を考えるときに最も重要な概念は,反射性緊張(relfex tonus)と,相反性神経支配(reciprocal innervation)とされている。Sherington学派によつて,確立されたこの基本的問題をめぐつて2)33),その後の研究は,それぞれ独立した発展を示し,今日にいたつている。したがつて脊髄の反射機構にたいする中枢支配の問題を考えるときにも,反射性緊張にたいする中枢支配と,相反性神経支配をめぐる中枢の関与という問題に整理できるであろう。

 姿勢反射に対する中枢性支配に関しては,Magoun一派により広汎性支配(generalized action)の概念が提唱され,これは脊髄に備つている相反性機序とは異質の神経機序として注目された(Magoun & Rhines,1946)(29)。その後Sprague & Chambers(1954)35)は,この説に対して全面的な反駁を加え,その論争は決定的な実験結果が得られないまま今日にいたつている。

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 A.無脊椎動物の筋受容器

 筋受容器の構造を系統発生学的に見る時,脊椎動物以外では甲殻類の筋伸展受容器が最も良く研究されている。Alexandrowicz(1951)及びFlorey & Florey(1955)等の詳細な組織学的記載によれば,甲殻類(cray fishザリガニの類及びlobsterイセエビの類)の筋線維の極く近くに感覚神経細胞があり,その細胞から出た数本の樹枝状突起は筋線維の表面に網様に密着している。筋線維の収縮又は伸長はこれ等の樹枝状突起の変形を起し,そのため出来る樹枝状突起の脱分極の効果はその神経細胞体で合成され,ある一定の閾値以上に軸索起始部の細胞膜が脱分極されれば軸索に伝播性インプルスを発射する(Kuffler 1954;Eyzaguirre & Kuffler 1955)。

 同じ形態の受容器はFinlayson & Lowenstein(1958)によりOrthoptera(直翅目),Odonata(蜻蛉目)及びHymenoptera(膜翅目)等の昆虫にも見出されている。その感覚神経細胞の樹枝状突起は結合織の膜又は筋の表面に附着し,それ等の組織の伸長による長さの変化量に比例して軸索に発射される求心性インプルスの頻度が変化する事を見出した(第1図参照)。

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 ガマ,心臓神経つき洞房標本を用いて心臓神経作用の基本的特性を調べた。

(1)心臓神経の6つの効果を発現し易さの順に並べると,一般に(i)electroklinotropic(活動電位の形に対する効果),(ii)mechanoklinotropic,(iii)変時或は変力(標本によりいづれかが優位),(iv)変閾,(V)変伝導となる。

(2)迷走神経単一刺激によつて(i)〜(iv)までの効果が発現し,持続時間0.01msecという短いpulse刺激でも十分に有効であつた,しかし単一刺激効果はせいぜい数拍動で消失した。交感神経単一刺激によつて(i)〜(iii)の効果が認められたが,刺激pulseの持続時間は0.1msec或はそれ以上で効果が表われた。単一刺激によつて時には数分に及ぶ著しい促進効果がみられた。

(3)迷走神経単一刺激は,刺激時点によつて効果発現の程度が異り,変時作用については静脈洞の興奮よりも約1.7秒前に心臓神経に単一刺激を与えた時に効果は最大となる。

(4)ガマ心臓神経効果については左右差を一般的に特徴づけることは出来なかつた。

(5)刺激頻度と効果との関係について調べるとどの効果についても,交感神経,迷走神経共に20/sec付近で最大効果を表わした。

(6)心臓神経を長時間頻数刺激し続けたり液素性物質を長く作用させておくと,心房刺激の閾値に対する効果が次第に逆転する。迷走神経刺激,acetylcholine投与で始め閾値上昇後下降,交感神経刺激,adrenaline投与で逆の経過をとつた。

(7)心房に強い直接刺激を与えるとnegative electroklinotropic,negative mechanoklinotropic,陰性変力,陰性変時,陰性変閾効果が現れた。

 以上の結果について考察を行つた。

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 皮膚に機械的刺激を加えた際,いかなる要素が特に有効にはたらくかを定めるため,パルス状の刺激と,直線的に漸増,漸減する波形を利用し,波形と反応の有無の間の関係を検討してみた。漸増刺激のPacini小体に対する効果1),又猫の足蹠に対する効果2)等については,既に報告されている。本論文では,蛙皮膚に対する刺激効果にもとづき,刺激の物理的性質を明かにするのが目的である。

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 強心配糖体による徐脈発現の機序は,現在においても完全には解明されていない。さきに著者1)は強心配糖体による徐脈の機序には,迷走神経を介する反射性機構の他に,洞神経を上行して中枢を介し頸髄を下行して星状神経節を経て心臓に至る反射経路が存在するであろうと推定した。

 本実験は,Strospesideによる徐脈発現に交感神経が関係しているのではないかという著者の考えを,心臓交感神経の遠心性放電に対するStrospesideの影響を観察することによつて確めたいと思い試みたものである。

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 最近における中枢神経系の機能,とくに電気生理学的方法による研究は著るしく進歩し,その成果もまた数多く報告されている。

 周知の如く,中枢神経系の構造は非常に複雑な様相の上に成立つており,その機能もまた広範囲にわたる情報伝達の入り組んだ輻輳さの中にあつて,高次に統合されて整然たる機能を果している。とくに高等動物のそれはわれわれに多くの問題を提供すると同時に,動作機構の解析に立入ることの出来ない困難さを感じさせることもしばしばである。このような,われわれの知識の限界を救つて,さらに問題を一歩前進させるためには,いくつかの方法論的試みがなされているが,その一つに比較生理学的方法がある。その意図の根底には,中枢神経系の発展過程における単純相と複雑相との分化の様相を理解して,高等な生理的機能の機構分析に一役を演じさせようとするにある。

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 私は本誌第13巻第1号の寄書欄に"生物および無生物両界に広い影響を与えるX-宇宙因子について"書いた。

 私どもの周囲にあつて,その不思議な影響を生物にも無生物にも与えている未知の物理因子を私はX-因子と呼んでいる。その特徴は時と共にまた所と共に常に大きく変化していることである。私の研究によれば,それはある特殊な変化を起こした電磁波で,その多くは物すごく高いエネルギーを持つので,どんな厚い障壁でもつき破つて侵入してくる。そのため,温度や光や気圧などの既知の物理因子を厳重に一定にした環境の下でも,時間が異なり所が異なると,同一の生物や無生物が異なる状態になるのである。

基本情報

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生体の科学
14巻5号 (1963年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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