公衆衛生 63巻2号 (1999年2月)

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公衆衛生のパラダイムシフト

 障害者プラン(ノーマライゼーション7カ年戦略)の策定(障害者施策推進本部,平成7年12月18日),介護保険法の成立(平成9年12月),社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)の報告(社会福祉構造改革委員会,平成10年6月17日)などの政策の流れを見ると,公衆衛生のパラダイムシフトが進行していることがわかる.新井宏朋は「昭和30年代,40年代の健康管理(正確には臓器別疾患管理だった)はレベルとクラークの疾病の自然史と予防の5段階,一次予防,二次予防,三次予防の考え方に支えられていたと言っても過言ではない」と指摘し,これからの公衆衛生活動の進む方向性について「人生80年時代を迎えて公衆衛生活動の中心が疾病予防から全人的な健康づくり,すなわち人のライフサイクルのすべてを通してのQOLの保持向上へと進んでいかなければならないことを意味している」と示唆した1).精神保健福祉領域における公衆衛生のパラダイムシフトは,精神障害を持つ人たちが地域社会で生活できることを社会の前提とすることから始まった.S.ホーランドは「ここで学んだことは,精神保健における予防事業のどんな新しい冒険も,精神保健サービスの受け手自身を,彼らやその近隣の人々の精神的問題を理解し,解決していくうえでの積極的な参加者にしていくことを中心的な課題としなければならないということであった」と述べている2).

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 「嗜癖(依存症)をきたす人格」や「依存症に陥る心理」について考えるということは,依存症があらゆる人に普遍的なものか,特異な病理を抱えた人の特殊な問題であるのかを考えることである.そしてそれは依存症とはそもそも何なのか,どんな仕組みと意味(生体の生存にとっての有効性)を持った現象なのかを捉え直すという作業に結びつく.依存症の発生もそこからの回復も,「外界(ないし他者)が自己を受け入れているか否か」という認識をめぐって生じるというのが治療を通して筆者が得た理解であり,これを念頭に置くことによって初めて,依存症についての有効な治療をイメージできるようになる.

依存症患者と家族の関係 梅野 充
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 精神保健の現場(保健所,保健福祉センター,保健相談所,精神保健福祉センターなど)で依存症(物質乱用,「中毒」,「嗜癖」)問題はそのまま家族問題に他ならない.少なくとも筆者の周辺ではそう捉えられているし,その点を看過して相談・治療を行おうとしている施設は見あたらない.これは「依存症の原因は家族にある」といったこととは違い,家族全体を対象として捉えた上で介入を考えない限りは有効な対策とはならないことを意味している.本稿ではまず「依存症」という言葉についてまとめた上で,東京都立精神保健福祉センター(以下,当センター)における依存症関係の相談事業(アルコール関連問題相談および薬物関連問題相談)を紹介し,この事業を通してみた依存症と家族との関係と介入について私見を示し,依存症対策として家族への対応の重要性を述べたい.

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 日本の薬物依存者のセルフヘルプグループNA(ナルコテックス・アノニマス)は19年間の歴史がある.しかし諸外国のNAの発展と成長に比較すると日本は今,スタート地点に立っているといっても過言ではない.なぜなのか.AA(アルコホリクス・アノニマス)は確実に成長し,「日本の都市圏に根づいているではないか」これが私に与えられたテーマである.たしかに制度上の問題として考えていくと限りなく腹が立つほど矛盾だらけである.依存症は病気であり回復するプログラムに出合うことによって良くなる.しかし社会は薬物依存者は回復しない恐ろしい人間と決めつけ,「回復を信じてはダメ絶対」を飽きもしないでやり続けている.依存症を精神障害と同じ枠組で取りくんでいる現在の厚生省もどうかしている.18年間この活動を続けてもはや救いはない.自分自身を変えてゆくしか道はない.他人を変えようとしない.原点が大切なのだ,愚痴はいうまい.NAの話に戻そう.NAは組織ではないとはよく耳にする.組織がなくてどうなっているのか,疑問を抱きませんか.日本NAの場合,同一のグループが沢山のミーティングを持ってしまった.東京グループは10カ所のミーティング場を持つに至った.外国の場合は1カ所のミーティングは一つのグループになっている.この違いはグループが活性化するためには天と地ほどの差ができる.

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 アルコール依存症の相談が始まった昭和50年代後半は,地域アルコール医療の黎明期である.それまでの保健所の体制は,家族や本人の相談は受けても精神病院か断酒会に振り分けるのが精一杯で,医療や福祉と連携するという考えや対応はなかった.世田谷区で相談が始まった58年以前の相談票を調べてみると年平均6〜7件の相談はあったが,どれもが保健婦かあるいは精神保健相談担当医が個別相談に応じているだけで,病院や断酒会を紹介すると相談関係は切れており,その後の対応や予後の把握も何もなかった.

 それから15年が経過した.世田谷区の保健婦は依存症に取り組むことによって,精神保健に対する学びと対応に大きな変革をもたらすことができた.その一つがアルコール依存症の地域ケアネットワークシステムである.このネットワークは一朝一夕につくりあげることができるものではない.担当チームの協調と自己変革,そしてアルコール依存症への対応は精神保健の基礎であるという強い意思が引き継がれている結果である.地域でサポートシステムをつくるには受け皿が必要である.その中核はアディクション(酒害)相談になる.開設当初は“酒害相談”と標榜し,アルコール依存症を対象にして始まったが,今日では薬物依存やギャンブル,摂食障害などの嗜癖問題の相談へも対応するようになったので,その概念を取り入れて事業を実施している.

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 私は平成9年4月から,島根県益田市にある松ケ丘病院という単科精神病院に精神科医として勤務している.当松ケ丘病院は総病床数222床(痴呆性疾患療養病棟50床を含む)で,入院患者は慢性精神分裂病や痴呆性疾患などが中心で,外来ではそれらの他に感情障害や神経症などの患者も多く見られる.そして私が地元の中学校のスクールカウンセリングや児童相談所の嘱託医を担当するようになって,最近では思春期や青年期の問題を抱える患者やその家族の来院も徐々に目立つようになってきている.そして私自身まだ医師になって4年目ながら,現場に出ていく機会にもずいぶん恵まれて,それなりに経験を積んできたと思っている.ここでは一人の現場に出ている者としての意見を素直に書いてみる.

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 依存症はタバコ(ニコチン),アルコール,有機溶剤,各種薬物など様々な物質によって生じうるが,いずれも健康に大きなリスクをもたらすものであり,その予防が公衆衛生分野でも重要な課題になっている.生徒や一般の人々に対する健康教育を通じた啓発,行動科学的アプローチによる治療,セルフヘルプ・グループを中心に取り組まれているリハビリテーションなど様々な取り組みが発展しつつある.こうした有害物質への依存は単に法的規制だけでは解決できない課題を内包しており,より効果的な予防法の開発が求められている.

 おりしも警察庁は,昨年1月にわが国が「第3次覚せい剤乱用期」に入ったと発表しており,本稿では,薬物依存に焦点を当てながら「依存症」の予防のあり方を考えてみよう.

視点

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「精神保健法」から「精神保健福祉法」へ

 1995年に精神保健法が精神保健福祉法に改正された.この法改正では,市町村の精神保健福祉業務について明らかにしたと同時に,これまで精神保健業務を担ってきた保健所に対しても,「保健医療施策と福祉施策の総合的推進の観点から」精神障害者福祉施策を一体的に担うことを義務付けた.新たに創設された「精神保健福祉手帳」は,身体障害者手帳や知的障害者に対する療育手帳に比べて受けられるサービスは少ないが,精神障害者に対する「福祉施策」の具体化としては,まず第一歩と言えるだろう.

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 自治医科大学・公衆衛生の尾身茂教授が昨年(1998年)9月14日,フィリピンのマニラで行われたWHO西太平洋地域事務局長の選挙で3期目を目指した韓国のハンサンティ(韓相泰)氏を破り当選.1999年1月にWHO本部(ジュネーブ)の執行理事会で承認され,2月1日付けで事務局長に就任する(任期5年).

 WHO(世界保健機関,World Health Organization)の加盟国は190余国,本部はジュネーブにあり,アフリカ(Africa),アメリカ(The Americas),東南アジア(South-East Asia),ヨーロッパ(Europe),地中海(Eastern Mediterranean),そして西太平洋(Western Pacific)の6地域に地域事務局(Regional Offices)が設置されている.

トピックス

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ごみ焼却施設における排出削減対策

1.わが国のごみ処理の状況

 わが国のダイオキシン発生量のほとんどが現時点では廃棄物焼却に由来すると推測されることは前稿で述べたとおりである.家庭から排出される一般廃棄物の排出量,焼却処理量,焼却率の推移は図1に示すとおりである.昭和50年以降排出量は次第に増加してきたが,平成2年度に5千万トンに達してからは横ばいに推移している.わが国は国土が狭いため,ごみの埋め立てに当たっては,衛生的な状態にし,かつ,その容量を減らすために焼却処理する方法がとられている.焼却率は経年的に上昇し,平成6年度では77.1%となっている.

 このような現状を諸外国の状況と比較するために,ごみ処理の状況,ダイオキシンの規制の状況について京都大学の酒井助教授がまとめたものを表1に示している.この表によれば,わが国は諸外国に比べて1人1日当たりごみ排出量は低いレベルにあり,一方,ごみの焼却率は非常に高いレベルにあることがわかる.また,一般廃棄物の処理を市町村の事務にしている法律体系のもとで,ごみ焼却施設数がとびぬけて多いことがわかる.このことは,諸外国に比べて小規模の焼却施設の比率が多いことをうかがわせる.後で述べるが,一般的に小規模の焼却炉はダイオキシン類を発生しやすいといわれており,また,施設数が多いために,すべての焼却炉の状況を把握し対策の徹底を図るためには多大の労力を要する.

連載 自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・11

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 新しくできた介護保険制度も使って,その人のやり方と内容で生涯を生き尽くす権利を保障する地域の仕組みづくりを国中で模索している.それは,心身のみならず社会的にも健康で,その人の望む場所で人間らしい生活実態が確保されたものでなければならない.介護問題が高齢者や障害者を前面に立てながらも,すべての人にかかわる課題として提起されている.課題は一人ひとりの住民のもとにおろされつつあり,主体的な迫り方を求めている.介護保険制度が成立するに当たって大きな力になったのは,国民の9割が公的介護制度に期待を寄せていたことである.実際的に制度が動き出す本年10月は目前に迫っている.しかし,情報提供方法の不適切と内容の不十分さのため,この変化に見合った住民の理解の遅れが続き,必要な準備状態が整わないままその時期を迎える危険をはらんでいるように見える.介護保険制度が国民に問いかけ,理解を促し,かつその成功的出発の鍵になるのは介護という共同の仕事の担い方・引き受け方について平らな理解が普及することではないだろうか.その度合い,また理解を促すためにこれまで行われた施策や活動の真実さと方法的妥当性は,当事者にどれだけ安心を運んだかでひとつ評価できる面があるだろう.

連載 公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から

本山 和徳
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通過駅

 JR長崎本線:下り車線の終着駅,長崎駅の三つほど手前にある肥前古賀駅…ここから1日が始まる.現川(うつつがわ)駅で一時停車し,次の浦上駅が目的の駅である.そこから徒歩で数分間の所にセンターがある.ある朝,いつもより遅い時間の汽車に乗った.

 満員で車両と車両の繋ぎ目のような通路で背を壁にもたれさせながらじっと乗っていた.

連載 全国の事例や活動に学ぶ

今月の事例 千葉県

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 顎関節症は,むし歯や歯周疾患とならんで歯科の3大疾患のひとつに位置づけられています.しかしながら,原因,臨床症状などが複雑であるため,顎関節症は一般の方々にわかりにくい病気というイメージがあります.

 最近,新聞や雑誌,テレビなどのマスコミに顎関節症が取り上げられることが多くなり,顎関節症ではないかと思う住民が増え,相談しやすい市町村保健センターに訪れる人が増えています.さらに,小中学校で実施されている定期健康診断の診察的事項に顎関節の状態が取り上げられ,幅広い年齢層の住民が顎関節症に興味を抱いています.

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 精神障害者共同作業所(以下,作業所)は,作業活動などを通じて,精神障害者の社会復帰と社会参加を促進することを目的とした施設である.

 このような作業所は,精神保健および精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)には規定されない法外の無認可施設ではあるが,精神障害者のための社会復帰援護対策の遅れや,社会参加のニーズの高まりなどを背景として1),近年,急速にその数を増やし,精神障害者の地域リハビリテーション活動にとって重要な存在となっており,またその重要性から作業所の運営に対して全国精神障害者家族会連合会を通じての国庫補助や都道府県,市町村からの補助が行われるようになってきている.

基本情報

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公衆衛生
63巻2号 (1999年2月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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