Neurological Surgery 脳神経外科 48巻5号 (2020年5月)

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 もうすぐオリンピックのはずだった.56年前の東京オリンピックのときは私は幼稚園児で,白黒テレビで観戦した記憶がある.当時の日本は,人口・経済ともに右肩上がりで,高度成長のただなかにあって,GNP(国民総生産)2位への坂を登っていた.高齢代率は6.3%で,高齢社会での医療や福祉制度について,先行していた欧州の事情をうかがっていた.高齢化に対する危機感は希薄であったように思う.健康保険や年金などの基盤が整ったのは,オリンピックの数年前であった.当時の人口構成と右肩上がりの経済が持続するという,今にして思えば,根拠のない楽観的な未来像に多くを頼った制度設計であったと言えよう.

 私の勤務する筑波大学附属病院日立社会連携教育研究センターは,日立総合病院内に開設されている.茨城県北部の日立市にあり,属する日立医療圏は人口約26万人,高齢代率は2020年には33.5%と推計され1),日本の15年先を体験している.わが国は世界1位の超々高齢社会で,医療・介護・福祉制度を開拓する役割を担っている.欧米や中国をはじめ,諸外国がわが国の施策とその結果を注視している.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 手術用ロボットの定義は複雑である.例えば,近年では内視鏡を保持するための種々の多関節装置が広く使用されるが,関節の動きの制御は術者がスイッチを押すことで達成され機械自体に自立性がないため,手術支援ロボットとは厳密には言わない.本稿では,われわれ脳神経外科医が脊椎脊髄外科を行う際に,これまでに,さらにこれから臨床応用を検討している機械について,広義の「ロボティックス」として主なものを取り上げていきたい.

 ロボティックスの脊椎脊髄外科への応用は,近年広く普及してきた手術用ナビゲーション支援システムをはじめ,脊椎固定術におけるスクリュー挿入および後縦隔胸髄腫瘍摘出術などに応用され,その有用性が過去に報告されている7,11,13).特に,脊椎椎弓根などへのスクリュー挿入については,ナビゲーション支援装置,手術ロボットの有効性が検討されており,従来のX線透視システムを用いた挿入方法と比較・検証が行われ報告されている.手術支援ロボットを使用したほうが,より正確で短時間かつ放射線被曝を少なく行うことが可能であるという報告が多い7,10,11).ナビゲーション支援装置,手術支援ロボットによる操作の正確性を低下させる要因も同時に分析されており,それらの解決まで長い時間は要さないと考えられる.特に,椎体に固定用スクリューを挿入することについては,近い将来,手術支援ロボットによる手術手技が確立されるという印象をもつ.そのため,使用頻度が高く,導入費用およびランニングコストが安い手術支援ロボットの開発に,今後各社がしのぎを削り,完成度が高い装置が開発されるであろう.

 本稿ではまず,これらナビゲーション支援装置および手術支援ロボットの歴史を振り返りながら,今後の展望および限界点について検討していく.次に,これらの例として,われわれに馴染みが深く理解しやすい,第一世代ナビゲーション支援装置について振り返る.

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Ⅰ.はじめに

 近年複雑な脳血管障害の治療に際し,フラットパネル血管造影装置を備えた手術室(hybrid operating room:Hybrid OR)の有用性が報告されている2,4).しかしながら,現在までに報告されているHybrid ORは,手術用ベッドの利便性やバイプレーン装置使用の可否,手術室稼働率などの点から理想的とは言いがたい2,4).今回われわれは,これらの点の改善を目指し,バイプレーン血管撮影装置と専用手術台を組み合わせた,国内でもまだ導入の少ないHybrid ORを導入したので,その初期使用経験を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 血瘤腫(organized hematoma)は,上顎洞を中心とした副鼻腔に発生する易出血性良性腫瘤の総称であり16),耳鼻咽喉科領域で主に治療される疾患である.鼻閉感や鼻出血の自覚症状を伴い,画像所見から悪性腫瘍との鑑別が問題となる.比較的稀な疾患ではあるものの,摘出時には大量出血を起こす可能性もあり,当該科より術前塞栓術を依頼されることがある.

 今回,われわれは上顎洞に発生した血瘤腫に対して,低濃度n-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)による術前塞栓術が有用であった症例を経験したので,これまでの報告に若干の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 非外傷性急性硬膜下血腫(acute subdural hematoma:ASDH)を伴って発症する髄膜腫2,6)は散見されるが,半球間裂主体に発生した報告例は少ない10,12,16,17).今回われわれは,腫瘍内出血と半球間裂ASDHにより発症した大脳鎌髄膜腫の稀な1例を経験した.本例の出血機序や初期診療における問題点などについて,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳動静脈瘻(pial arteriovenous fistulae:pial AVF)は,脳動脈と静脈がnidusを介さずに高血流での直接短絡をもつ稀な疾患であり,全脳動静脈奇形の1.6%と言われている1).また,遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)は,pial AVFなどの脳動静脈奇形を5〜11%に合併する.Pial AVFの治療は血管内治療と直達手術などが報告されているが,症例ごとに選択されているのが現状と思われる.Pial AVFはhigh flow shuntを有するため血管内治療に難渋することがあるが,今回,balloon guiding catheter(BGC)でflow controlを行い,良好に塞栓できたpial AVFの1例を経験したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)は,顔面痙攣や三叉神経痛などに対して効果的であるが,外転神経麻痺における報告は少なく,診断や治療方針に苦慮することがある.今回,前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery:AICA)圧迫による外転神経麻痺に,右椎骨動脈(vertebral artery:VA)—後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)動脈瘤を合併した症例を経験し,外転神経麻痺に対してAICA transpositionによるMVD,VA-PICA動脈瘤に対して右後頭動脈(occipital artery:OA)-PICA bypass+VA近位部とPICA起始部のclippingを一期的に施行し,外転神経麻痺の著明な改善を認めた.診断と治療方法に関して文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 発生途上の中大脳動脈M1部は網状側副血管(twig-like network:TLN)と呼ばれる網状構造として存在し,その癒合と退縮によって正常M1へと発達する26).この過程が未知の要因により乱された場合にM1形成不全(無形成〜低形成)が起こり,これを補うためにTLNを有する破格側副血行路が遺残すると考えられている4,19).M1形成不全状態やTLNの遺残状況は種々の程度・構造で混在するため,包括した概念として,aplastic or twig-like middle cerebral artery(Ap/T-MCA)という診断名が提唱された31).このように,Ap/T-MCAは発生異常として捉えられているが,若年者の報告例は少ない21,35)

 今回われわれは,産褥期に皮質性くも膜下出血(cortical subarachnoid hemorrhage:cSAH)と可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome:RCVS)を合併した若年女性例を経験した.本例の病態と若年Ap/T-MCA症例(20歳未満)の臨床像を中心に,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 前大脳動脈(anterior cerebral artery:ACA)は多様な破格を伴う頭蓋内血管の1つであるが,その破格の多くはA1の低形成や窓形成,A1穿通枝やHeubner arteryの破格,azygos ACAやaccessary ACA,accessary middle cerebral arteryであり8),前頭眼窩動脈の破格は比較的稀である.一般的に,前頭眼窩動脈はA2近位部から分枝するACAの最初の皮質枝であり,A1から分岐する破格はわずか4%程度である10)

 頭蓋内血管の破格の存在は動脈瘤形成の一因とされており,ACAの破格に合併した動脈瘤の報告は過去にも散見されるが,破格の前頭眼窩動脈に合併した脳動脈瘤の報告は2例のみである1,4).また,脳腫瘍と脳動脈瘤の合併に関しては,下垂体腺腫において脳動脈瘤の合併頻度が有意に高く5,9),その発生にホルモンの関与が示唆されている以外は,髄膜腫を含めた脳腫瘍と動脈瘤の関係については不明である.

 今回われわれは,鞍結節髄膜腫患者において,破格前頭眼窩動脈分岐部に脳動脈瘤を合併した極めて稀な症例の治療を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈症例1〉 74歳 女性 右利き

 現病歴 頭痛を主訴に独歩で来院した.既往歴は高血圧症で,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH),脳動脈瘤,てんかんの家族歴はなかった.

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Ⅰ.はじめに

 近年,機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)をはじめとする脳機能イメージング技術の発達により,さまざまな刺激や認知機能の脳内マップを得ることが可能となった.既存の心理学実験や理論的予測の背景にある脳機能を明らかにするという目的で実施された研究は膨大な数に上り,それらの知見をまとめた脳機能と脳内マップのデータベースも構築されている.

 他方,脳活動から逆に認知機能を推定したり,知覚体験を再構成する解読(デコーディング)技術は未だ発展途上である.われわれの知覚体験や認知活動は,すべて脳神経活動によって生み出されていると考えられるが,もし脳神経活動の計測によってヒトの知覚や思考がすべて読み出せるのであれば,日常生活におけるより広範な活動に対し適応可能なbrain-machine interface技術の開発につながることが期待される.

 本稿では,これまで脳機能イメージングにおいて実施されてきたデコーディング研究を概説するとともに,最近われわれのグループが行っている,能動的行動を脳活動からデコーディングする研究を紹介する.

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目次

欧文目次

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 飯原 弘二
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 令和2年4月,新型コロナウイルス感染症の蔓延に終息の兆しが見えません.政府が,史上初めての法律に基づく「緊急事態宣言」を発出し,東京,埼玉,千葉,神奈川,大阪,兵庫,福岡の7都府県が対象となり,その後,全国に拡大されました.

 新型コロナウイルス感染症の発生初期から,脳神経外科領域のみならず,学会活動は大きな影響を受け,3月に予定されていた学会は,軒並み延期・中止となっています.特に大都市部の公的医療機関では,新型コロナウイルス感染症患者の受入病床の確保が要請され,脳神経外科の通常診療に大きな影響が出ています.感染症指定医療機関においても,院内感染の発生が報道されており,長期戦の様相を呈しています.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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