Neurological Surgery 脳神経外科 48巻4号 (2020年4月)

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 3年前から,日本てんかん学会および日本臨床神経生理学会の保険診療担当委員を務めている.この活動を通じて,わが国における医療機器の導入や診療報酬制度について,考えさせられる機会が多くなった.本稿を執筆時点で,2020年度診療報酬改定に向けた作業は大詰めを迎え,中央社会保険医療協議会(中医協)の答申を待つのみである

 私はてんかん外科を専門にしているが,この領域は新しい医療機器の導入が遅れている.以前は“drug lag”という言葉がよく聞かれたが,薬剤の承認・導入スピードは改善され,わが国で使用できる抗てんかん薬は欧米諸国とほぼ変わらない状況である.しかし医療機器に関して,迷走神経刺激装置(vagus nerve stimulation:VNS)の導入は,米国の1997年に対し,わが国では2010年と10年以上の遅れがあった.近年は低侵襲機器の開発と導入が盛んであり,定位手術ロボット,MRIガイド下定位的レーザー温熱凝固装置,responsive neurostimulator(RNS)などが米国で盛んに使用されている.このうち定位手術ロボットについては,あるメーカーが2015年に薬事承認を得たものの,翌年には販売を中止するという事態があり,2019年に別のメーカーが再度薬事承認を得て販売を開始した.現在,米国や中国などでは定位手術ロボットの導入が急速に進んでいるが,日本における実績はほとんどない.後者の2つについては,具体的な日本への導入予定すらない.これらの医療機器は,いずれも開頭術あるいは大脳の切除術を不要とするものであり,導入と普及が望まれる.

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Ⅰ.はじめに

 近年の急性期脳梗塞の治療戦略においては,rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法と機械的血栓回収療法の2つを柱とする再灌流療法が主軸となっており,その適応拡大が進んでいる.この流れの中で最近のガイドラインや多施設共同研究では,再灌流療法の適応判定に画像診断,特にCT灌流画像(CT perfusion imaging)やMR灌流画像(MR perfusion imaging)による虚血ペナンブラの評価が利用されるようになってきている.

 本稿では,急性期脳梗塞診療における最近の治療戦略の進歩と,その中で画像診断が果たす役割を述べる.また,急性期脳梗塞イメージングに関し,CT灌流画像,MR灌流画像を主として,その撮像原理や解析手法,自動解析ソフトについて解説する.

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Ⅰ.はじめに

 非出血性・非虚血性椎骨動脈解離は保存的治療により大多数が転帰良好と考えられているが,その一方で死亡例の報告もあり,経過観察の期間や方法,積極的治療の適否に迷うことも少なくない5,13).今回われわれは,非出血性・非虚血性椎骨動脈解離の自然経過および画像における形態変化の特徴を明らかにするため,自験例の保存的治療,経過観察期間における画像所見の変化について分析した.

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Ⅰ.はじめに

 特発性三叉神経痛は,三叉神経根のroot entry zone(REZ)近傍を走行する動脈あるいは静脈による圧迫で生じる場合が多く,その大半は片側性発症例であり,両側性三叉神経痛は0.6〜5%と稀である2,21).両側性三叉神経痛の特徴として,同時に発生する場合もあるが,その多くは一側発症後数カ月〜数年を経過して,反対側に時間差をもって発症することが多い12,19,21).また,両側性の場合は女性例が多く,静脈が責任血管として関与する場合が比較的多いとも報告されている12,19,21).しかしながら,三叉神経痛が両側性に発生する機序についての報告はほとんどないのが現状である.

 今回われわれは,三叉神経痛に対する神経血管減圧術(microvascular decompression:MVD)施行2年後に反対側に三叉神経痛を来し,再度MVDを施行した両側性症例を経験した.その手術所見に基づいて,両側性に三叉神経痛が発症する機序について考察したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 神経鞘腫は有髄神経を構成するシュワン細胞由来の良性腫瘍であるが,腰椎椎間孔神経鞘腫は後腹膜腔に巨大病変を呈するケースが稀に存在する11,13).傍脊柱筋アプローチなど後方からの限られた術野では,巨大化した後腹膜腔の腫瘍成分を摘出するのは容易ではない5,13).われわれは,巨大化したダンベル型(Eden type Ⅳ)の腰椎椎間孔神経鞘腫に対し,前方から経腹膜法で腹腔鏡下に後腹膜腔の腫瘍成分を摘出し,残存した後方成分を二期的に傍脊柱筋アプローチで摘出した結果,良好な経過をたどった1例を経験した.腹腔鏡下アプローチの利点につき,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤手術において,母血管確保は重要なステップの1つである.母血管がさまざまな理由で確保できない場合には,低体温下での循環停止5)やアデノシンによる一時的な心停止1)が行われてきたが,前者は侵襲度と合併症率が高く5),後者は心停止が得られる時間のコントロールが難しい1)という欠点がある.近年,それらに代わってrapid ventricular pacing(RVP)が用いられている.今回,脳底動脈本幹部の未破裂脳動脈瘤に対してRVPを用いたクリッピング術を行い,良好な経過を得たので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Le FortⅠ型骨切り術は,前下方の頭蓋底から顔面骨を分離させる術式であり,顎変形症の基本的な術式となっている.本術式による顎動脈損傷に伴う動静脈瘻の合併症は,少数の報告例があるのみである.

 今回われわれは,Le FortⅠ型骨切り術を施行した後に発症した,顎動脈の動静脈瘻(maxillary arteriovenous fistula[AVF])に対して塞栓術を施行し,良好な結果を得たので,文献的考察を加えて,その有効性を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 悪性黒色腫は,脳実質,軟膜,粘膜組織および皮膚に存在するメラノサイトに由来する悪性腫瘍である.中枢神経原発悪性黒色腫(primary intracranial malignant melanoma:PIMM)は,悪性黒色腫の中でも約1%と極めて稀であり,原発性脳腫瘍の中でも0.1%とされる3,6).初期診断時に,頭蓋内圧亢進(43%),神経学的脱落徴候(35%),痙攣もしくはくも膜下出血(16%)を呈し発見されることが多い6).発見されてからの生存期間中央値は12カ月とされ4),極めて予後不良な疾患である.今回,頭部外傷時に痙攣発作を呈し,偶発的に指摘され当初脳挫傷が疑われていたが,病変の進展後に開頭術により診断されたPIMMの1例について,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 81歳 男性

 既往歴 視床下部性副腎機能不全,橋本病,膜性腎症で加療中.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 64歳 男性

 主 訴 左眼窩外側の皮下腫瘤と疼痛

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はじめに

 私は,2017年6月より米国テキサス州ヒューストンにあるThe University of Texas Health Science Center at Houston(UTH),Department of Neurosurgeryにpostdoctoral research fellowとして研究留学をさせていただいています.留学前は,岡山大学脳神経外科で大学院生として脳腫瘍の研究に従事していました.以前より岡山大学脳腫瘍グループからはDr. Antonio Chiocca(現Brigham and Women's Hospital)の研究室へ留学させていただいていましたが,私の研究室のprincipal investigator(PI)であるDr. Balveen Kaurは,Ohio State University時代にDr. Chioccaとともに腫瘍溶解ヘルペスウイルスの研究を行っており,黒住和彦先生(岡山大学)が同研究室へ留学されていました.2017年6月にDr. KaurがUTHに移られる際,新たにポスドクを募集しており,そこへ応募しました.本稿では,私がUTHで行っている研究の概要およびヒューストンでの生活についてご紹介します.

連載 脳神経外科と数理学

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Ⅰ.はじめに

 さまざまなリズム現象は,地球の自転に起因する日夜の周期や連動する生物の活動リズムのように,自然界・生物界に満ちあふれている.脳神経系でのリズム現象と言えば,脳波の振動(律動)が頭に浮かぶ.約100年前にHans Bergerが発見した脳波の特徴は,閉眼時に強くなる10Hz近辺のアルファ波リズムであった.脳波でみられる特徴的な振動リズムはアルファ波(8〜13Hz)以外にも,シータ波(3〜7Hz),ベータ波(14〜29Hz),ガンマ波(30Hz〜)などの周波数帯域がある.脳波信号のパワースペクトルを解析してみると,脳状態によって特徴的なピークがこれらの周波数帯において観察され(図1)22),リズム現象と脳機能との関連が近年盛んに研究されている.

 本稿では主に,頭皮脳波(scalp encephalography:EEG),皮質脳波(electrocorticography:ECoG)などの脳波リズム現象について,主に非線形動力学的な観点での基礎的な数理と,近年進展がみられるリズムの解析手法について紹介する.

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●頭痛診療の大きな武器!

 これまでの調査によれば,わが国の頭痛罹患率は40%近くに上るとされており,脳神経内科医にとって避けては通れぬcommon diseaseであることはご存じの通りである.日本神経学会としても,脳神経内科がこれまで以上に診療に注力していくべき疾患として,脳卒中,認知症などとともに頭痛を挙げ,ファーストコンタクトをとる科としての役割を強調している.しかしながら,頭痛診療は難しい面があることも事実で,苦手意識をもつ脳神経内科,脳神経外科の専門医も少なくない.特に,患者からの多様な訴えをうまく聞き出さねばならず,その内容から膨大な鑑別診断を見極める作業は多くの脳神経内科医が難渋しているものと思われる.本書の初版が1988年に発行されたとき,その診断基準のシンプルさに驚かされた.多岐にわたる頭痛の症状をA〜Eのたった5つの項目にまとめていたからである.そのシンプルさは今版にももちろん引き継がれている.

 さて,本書は国際頭痛学会(International Headache Society)が2018年1月に発表した『International Classification of Headache Disorders, 3rd edition』の日本語訳である.前述したように,初版が1988年に,第2版が2004年に,そして第3版beta版(2013年)をはさみ,今回正式な第3版が出版されるに至っている.初版では,エキスパートオピニオンに基づく分類が多かったように思うが,版を重ねるにつれエビデンスの強化が図られてきた.原書第1版の序文には,「あらゆる努力を傾けたにもかかわらず,いくつかの誤りは避けられなかった」と国際分類の前置きとしては随分弱気なコメントがある.しかし,いかに弱気であっても,勇気をもって最初の一歩を踏み出すことがいかに重要か,これが今版を読んで思うことの1つである.勇断により生み出された統一的な分類が臨床試験を促進し,その結果,確立されたエビデンスが次版に組み込まれ,ブラッシュアップされた分類がより精度の高い臨床試験につながり……といった好循環のらせん形が作り出され,そのらせんの先頭に位置するのが今版なのである.

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目次

欧文目次

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 村山 雄一
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 この編集後記を執筆している今,世界は新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延による医療崩壊のリスクに瀕し,東京2020オリンピック・パラリンピックの延期がついに決定された.2月の米国出張の際,「日本は大丈夫か」と米国の友人に心配されていたが,ひと月後にはその米国が日本をはるかに上回るスピードで感染者数・死亡者数ともに恐ろしいほどに増加している.イタリアを中心とする欧州ではさらに状況は悪化しており,東京に代わってオリンピックをロンドンで代理開催などと市長が発言していたイギリスも同様である.このような状況に鑑みると,日ごろ日本の医療制度に対し,国民もわれわれ医療者も不満を口にしていたが,現在の危機的状況では,日本の医療制度の優れている点が明確になったのではないかと思う.

 日米で医療に従事してきた経験から,最近は米国の医療システムの問題点が目立つようになったと感じている.米国の問題はあまりにも高い医療コストであり,医療へのアクセスが悪いことはよく知られているが,実際の肌感覚として,脳神経外科領域においても,全般的な医療の技術レベルの低下,収益第一主義による治療適応の妥当性の検討が疎かであり,教育面でも弊害が目立つ.一方,日本人はパニックにも陥らず,感染防止のための衛生管理が比較的徹底されており,死亡率も今のところ抑えられているようである.最新のICTを利用した遠隔診療も,2月号の編集後記で冨永悌二教授がその広がりの遅さを懸念されていたが,この危機的状況で政府も本腰を入れて積極利用を検討している.このような危機的状況でこそ日本人の冷静さ・勤勉さをもって問題解決の糸口を見出していくべきであり,われわれ脳神経外科医も専門性を超え医療問題解決に取り組んでいけたらと思う.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻4号 (2020年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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