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この編集後記を執筆している今,世界は新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延による医療崩壊のリスクに瀕し,東京2020オリンピック・パラリンピックの延期がついに決定された.2月の米国出張の際,「日本は大丈夫か」と米国の友人に心配されていたが,ひと月後にはその米国が日本をはるかに上回るスピードで感染者数・死亡者数ともに恐ろしいほどに増加している.イタリアを中心とする欧州ではさらに状況は悪化しており,東京に代わってオリンピックをロンドンで代理開催などと市長が発言していたイギリスも同様である.このような状況に鑑みると,日ごろ日本の医療制度に対し,国民もわれわれ医療者も不満を口にしていたが,現在の危機的状況では,日本の医療制度の優れている点が明確になったのではないかと思う.
日米で医療に従事してきた経験から,最近は米国の医療システムの問題点が目立つようになったと感じている.米国の問題はあまりにも高い医療コストであり,医療へのアクセスが悪いことはよく知られているが,実際の肌感覚として,脳神経外科領域においても,全般的な医療の技術レベルの低下,収益第一主義による治療適応の妥当性の検討が疎かであり,教育面でも弊害が目立つ.一方,日本人はパニックにも陥らず,感染防止のための衛生管理が比較的徹底されており,死亡率も今のところ抑えられているようである.最新のICTを利用した遠隔診療も,2月号の編集後記で冨永悌二教授がその広がりの遅さを懸念されていたが,この危機的状況で政府も本腰を入れて積極利用を検討している.このような危機的状況でこそ日本人の冷静さ・勤勉さをもって問題解決の糸口を見出していくべきであり,われわれ脳神経外科医も専門性を超え医療問題解決に取り組んでいけたらと思う.
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