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●頭痛診療の大きな武器!
これまでの調査によれば,わが国の頭痛罹患率は40%近くに上るとされており,脳神経内科医にとって避けては通れぬcommon diseaseであることはご存じの通りである.日本神経学会としても,脳神経内科がこれまで以上に診療に注力していくべき疾患として,脳卒中,認知症などとともに頭痛を挙げ,ファーストコンタクトをとる科としての役割を強調している.しかしながら,頭痛診療は難しい面があることも事実で,苦手意識をもつ脳神経内科,脳神経外科の専門医も少なくない.特に,患者からの多様な訴えをうまく聞き出さねばならず,その内容から膨大な鑑別診断を見極める作業は多くの脳神経内科医が難渋しているものと思われる.本書の初版が1988年に発行されたとき,その診断基準のシンプルさに驚かされた.多岐にわたる頭痛の症状をA〜Eのたった5つの項目にまとめていたからである.そのシンプルさは今版にももちろん引き継がれている.
さて,本書は国際頭痛学会(International Headache Society)が2018年1月に発表した『International Classification of Headache Disorders, 3rd edition』の日本語訳である.前述したように,初版が1988年に,第2版が2004年に,そして第3版beta版(2013年)をはさみ,今回正式な第3版が出版されるに至っている.初版では,エキスパートオピニオンに基づく分類が多かったように思うが,版を重ねるにつれエビデンスの強化が図られてきた.原書第1版の序文には,「あらゆる努力を傾けたにもかかわらず,いくつかの誤りは避けられなかった」と国際分類の前置きとしては随分弱気なコメントがある.しかし,いかに弱気であっても,勇気をもって最初の一歩を踏み出すことがいかに重要か,これが今版を読んで思うことの1つである.勇断により生み出された統一的な分類が臨床試験を促進し,その結果,確立されたエビデンスが次版に組み込まれ,ブラッシュアップされた分類がより精度の高い臨床試験につながり……といった好循環のらせん形が作り出され,そのらせんの先頭に位置するのが今版なのである.
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